『創設の放旅者』三話【週刊少年マガジン原作大賞応募作品】


「部屋はこちらです」

乗組員から案内され 二人は一車両の空き部屋に連れて来られた
この機関車の車両はかなり大きく造られており 一車両に五つの部屋がある
中にはバスルームやベッド 大きめの机やクローゼット そして車内電話
などなど色々便利な設備が整われている

「わ~! すごく広いね!」

「部屋の事に関しては 当列車が一番の自慢です」

メモルの感想にまるで側近のように乗組員が説明してくれた

「ではお荷物はここに置きますので 食事の時間までごゆっくり下さい」

乗組員がドアから出て行こうとしたその時

「ちょっと待って下さい!」

「……? 何でしょう?」

「あの…… どっちがこの部屋なんですか?」

「はい?」

意味が分かってないかのように首を傾げる相手に少年は必死に訴えかける

「いやいや!! 他人ですよ俺達……!!」

乗組員は慌てた表情で頭を下げる

「これは申し訳ございません しかし現在全車両は満席でして
他の部屋が全て埋まってしまっているんですよ」

「んな……」

少年は膝と手を同時に床に着けて無念の姿勢を取った

「別に相部屋でも良いじゃん!! 私は構わないけど?」

少年は頭を掻いて渋々相部屋を承諾する
列車が運転を再開し 少年が一段落ついていると
隣のベッドに座るメモルが話し掛けてきた

「ねぇ! まだ君の名前聞いてないんだけど??」

「あっ…… そういえばそうだったな」

少年はベッドから起き上がり メモルの方に座って足をブラブラ振りながら

「俺はラウル! ラウル・ウォード お前は確かメモルだっけ?」

「うん!  メモル・ノート!!」

「なんか名前似てるな!」

「ホント偶然だね~~!」

なんだかんだで二人の会話は進んだ

「ラウルはなんでこの列車に?」

その言葉にラウルはすぐに立ち上がり
荷物と一緒にまとめていた二本の刀を取り出して軽く構える

「そりゃあ腕試しさ!! 俺は俺の実力を世界に見せつける為に海へ出たのさ!!」

ラウルは自慢のように言ったが
メモルの目を見た瞬間 表情が引き攣ってしまい意気込みを感じさせなくなった

「お…… お前の目的は何だよ?」

ラウルは焦ったように聞く

「私ね…… 記憶が無いの」

「記憶?」

「全くじゃないんだけどね…… てかさっき少し思い出しそうだったし!!」

ーーさっきから思うのだが こいつに関しては分からない事が多過ぎる
ホントに謎があるのか? 只たんにアホなのか…… 第一印象が見えてこない

ラウルが考えていると突然
ガダンと列車が何かに躓いたような振動が車内に響き渡った

「なんだなんだ!?」

「ちょっと……!! どうなってんのよ~~ったく!!」

乗客が慌てていると
車内の天井から車掌の声が流れた

『皆様 落ち着いて下さい ただいまウチの乗組員達が原因を突き止めていますので
ご安心して部屋で待機して下さい
尚 当列車は暫くの間 停車させて頂きますのでどうかご協力ください』

アナウンスが終わるやいなや 車掌は急いで事の原因を探った

『車掌!! いやゼッペル!! アンオーメンを見ろ!!』

伝声管でゼッペルと呼ばれた車掌は 窓から見える小さく遠ざかったアンオーメンを凝視した
そこは先程までの盛んな漁師はおらず
町は火の海どころか 頂上から噴火した溶岩が下の海まで雪崩込んでいた

「あり得ない…… アンオーメンはどの国よりも自然と共に生きて来た筈なのに……」

その象徴となった神殿も噴火と同時に跡形もなく消え去っていた
町が 人が もはや生い茂っていた木までもが 赤く消滅しようとしていた

それを列車にいた人達は ただ傍観することしかできなかった
嘆くもの 憐れむもの 祈るもの 唖然とするもの 
写真を撮るもの 笑うもの 無視して部屋に戻るもの 嘲笑うもの

町で列車に助けを求める者の目には こんな奴らが見えたかも知れない

「ウッ……!!」

「どうした!? メモル!!」

町の悲惨さを見てきたラウルは 今にも吐きそうなメモルに近寄った

「大…… 丈夫…… 
それより…… 何が起こっているの……?」

彼女の問いにラウルが答えようとした瞬間
さっきより数倍の揺れが車内に響き渡り 今にも横転しそうな勢いだ

「痛っっっった!!  今度はなんだよ!!」

今の揺れでラウル達は部屋の壁に強く打ち付けられたが
メモルはラウルがクッション代わりになってなんとか怪我は無かった
だがメモルの辛そうな顔は健在だ 汗も止まらず苦しんでいる

「メモル…… 俺ちょっと様子見てくる」

逆さになったベッドを直し そこにメモルをそっと寝かしつけてラウルは部屋を出た

先程の揺れが収まりそうになった頃
ゼッペルは乗組員数名を引き連れ 事の原因を突き止めるべく
列車の窓から屋根に登って凄惨な光景を一望していた

「一体何が起こっているんだ……?」

「車掌さん!!」

違う車両の窓からラウルが登り始める姿を見て ゼッペルは急いで近づいた

「こらこら!! 勝手に登ってきちゃ駄目でしょ!! さぁ早く部屋で待機してるんだ!!」

「何が起こっているのか 知るだけいいでしょ!」

ゼッペルの言うことを聞かず ラウルは屋根まで上がって来てしまった

「困りますよ……」

「町はすごいことになってますけど…… 何でこの列車まで衝撃が……」

その瞬間 突然ラウルの体を黒く染めるかのように海から巨大な影が姿を現した


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