【ラブライブ服飾史シリーズ】 ギルキス2ndライブメイン衣装 タータンチェックは何故〝ロック〟なのか ヴィヴィアン・ウエストウッドの構造 挑発するコラージュ

タータンチェック 記号化された〝ロック〟

 ラブライブの衣装について、服飾史と絡めてお話しするコラム【ラブライブ服飾史シリーズ】も3本目となりました。
 さて、同シリーズのバックナンバーでディオールのニュールックについてお話した時(https://note.com/fine_quince486/n/n3e3a046fe100)、あたしは「ファッションとは一種の言語」で、ある種の記号論的な要素があり、アイドル衣装はその極地の一つだとお伝えしたかと思います。
 今回は、その視点からGuilty Kiss 2ndライブのメイン衣装についてお話しましょう。
 キービジュアルにも登場するこの衣装は、ベルトやスタッズなどで飾ったトップスから〝強火〟ユニットのギルキスらしいハードな印象を感じます。そして、なにより目立つのは、フリルをあしらった赤いタータンチェックのスカートです。
 このタータンチェックという柄に、〝黒〟、〝スタッズ〟、〝レザー〟などの記号が合わさった時、あたし達は不思議なことに「ロックだな」と感じます。タータンチェックは特定の条件下で記号化された〝ロック〟の役割を果たすのです。
 ただ、これは冷静に考えると少々不思議な話です。
 タータンは元々、スコットランドの民族衣装(あのスカート履いてるおじさん達ね)に端を発する柄で、家柄や所属する集団を象徴する、非常に由緒正しいものです。
 たとえば、街でよく見る緑系チェックの「ブラックウォッチ」は夜警隊の制服の柄ですし、これまたよく見る赤系チェックの「ロイヤルスチュアート」なんかは英国王家スチュアート家のタータンです。

夜警隊由来の「ブラックウォッチ」
王室由来の「ロイヤルスチュアート」


 このように、むしろ伝統的な柄であるタータンチェックになぜ、反逆のサブカルチャーであるロックのイメージがあるのでしょう。
 ロックなギルキス衣装は、そもそもどうしてロックに見えるのか。
 それを知るために一人のファッションデザイナーについて見ていきます。
 恐らく、アラサーのオタクなら一度は名前を聞いたことがある、あの人です。


ヴィヴィアン・ウエストウッド パンクの女王

 1975年、ロンドン。
 音楽史、そしてファッション史を変える一つのバンドが粗暴な産声を上げます。その名もセックスピストルズ。
 耳を疑うほど下品なバンド名以上に、音楽性と服装は衝撃的でした。決して上手いとは言えない演奏、耳障りなボーカル、無政府・王室ディス・労働者階級の不満など何でもありな歌詞、そして引き裂かれたシャツやモヒカンヘアにスタッズだらけの革ジャン、果てはハーケンクロイツ柄まで取り入れた過激なファッション。彼らは瞬く間に「パンク」という一大ムーブメントを起こします。
 彼らは数年のうちに解散。メンバーのシド・ビシャスなどは悲劇的なドラマを持って破滅しますが、無軌道な若者が創り上げた伝説として今も語り継がれています。
 しかし、彼らの背後にはある仕掛け人の存在がありました。
 それが音楽プロデューサーのマルコム・マクラーレン、そしてファッションデザイナーのヴィヴィアン・イザベル・スウェア。そう、あの土星のようなマークで有名なヴィヴィアン・ウエストウッドです。
 ヴィヴィアンとマルコムは、販売する服のコンセプトごとに店名を変えながら74年からは『セックス』という、これまた本当にしょーもない名前で店をやっていました。そこには、お〇ぱいや連続レ〇プ魔の顔をプリントしたTシャツなど、当時としてはあり得ない(今もダメです)商品を並べており、それを着て外を歩いた客が猥褻物陳列罪で捕まるなど、とんでもないことをしていたわけです。
 そして、とんでもない店にはとんでもない不良が集まります。そいつらを集めてバンドを組ませたのがセックスピストルズでした。二人はピストルズに店の服を着せて、過激な行動を繰り返す彼らをある種の広告塔に使っていたわけです。
 これだけ話すと、ただの頭のおかしい人にしか聞こえないと思いますが、ヴィヴィアンの服には一本の筋が通っていました。
 それが「反逆のコラージュ」です。
 お〇ぱい、レ〇プ魔、ハーケンクロイツ、モヒカン、スタッズ、革ジャン……
 これらの反抗的なサブカルチャーの要素をごちゃごちゃにコラージュして身に着けることで、その人の姿は社会規範から逸脱した〝ヤバい人〟と化していくわけです。
 ただ、着ている人は、それらに付随する政治思想に必ずしも同調しているわけではない。要するに、ヤバいモノをコラージュして、ヤバい人の姿を演出し、つまらない(と彼らが見下す)中流階級の一般人と差別化する恣意的に作った〝ヤバさ〟でした。

タータンがロックになった日

 そんな性質ゆえに、ピストルズの解散後は急激にパンクも大衆化していきます。反逆のコラージュは破壊的なインパクトを失い、彼らが嫌った中流階級のトレンドへと取り込まれていくわけです。
 ヴィヴィアンだっていつまでも、そんなことをやってはいません。彼女は本格的なファッションデザイナーへの道を歩み始めます。
 パンクの時代以降のヴィヴィアンは、もともと美術について学んでいた経験もあり、真逆とも言える伝統的な芸術の世界へと傾倒していきます。博物館・美術館に通いつめ、歴史的な服飾からインスピレーションを受けて、今度はそれを現代の洋服と〝コラージュ〟し始めました。店も「ワールドエンド」とかなりまともな店名になり、これは今もロンドンで営業中です。
 コレクションデザイナーとなった彼女のクリエイションには、伝統的なドレスにミニスカートを合わせるなど、ハイカルチャーに新しい色気を混ぜるという挑発があります。
 その最たるものがタータンチェックの使い方でした。伝統的なタータンチェック柄を採用しながら、服は胸元が大きく開いたり、足を大胆に出したりと煽情的。伝統を挑発するコラージュでした。これは正にパンクの残り香、すなわちロックの匂いでした。ヴィヴィアンがタータンチェックをコレクションに使った日。これが今日の私たちがタータンチェックを〝ロック〟だと感じるようになった記念すべき1日目なのです。
 彼女のブランド『ヴィヴィアン・ウエストウッド』はご存じの通り、90年代以降に日本でも大人気となります。椎名林檎、ジュディマリのYUKI、漫画『NANA』の登場人物などロックに関わるあらゆる人に愛用され、ヴィヴィアン・ウエストウッド=ロックのイメージは世間に強く根付きました。そしてそこには、常に挑発的にコラージュされたタータンの姿があったわけです。

ギルキス2nd衣装のご先祖様

 あたしたちがタータンチェックをロックだと思う理由について、70年代のロンドンから歴史を振り返ってきました。
 ロックでカッコ良いと感じるあのギルキスの衣装のご先祖様には、かの名デザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドがいたわけです。
 よく、「トレンドは繰り返す」なんて言いますが、繰り返しているからには必ず原点があります。繰り返す中で変わっていっても、辿っていけば何らかの文化、事件、思想などの原点に必ずたどり着くわけです。
 ギルキスの衣装を見て、その原点を辿れば70年代のロンドンにあった『セックス』なんて、とんでもない名前の店にぶち当たる。これもまた服飾史の面白さだと思います。
 新しい衣装が出た時に、「さて、これはどんなルーツから来た衣装なんだろう」と考えを巡らせるのも、また一つの楽しみ方かな、なんて思っています。
 
 
 

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