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こえ、聞くと暑くなる。鈍くなる。ショートストーリーなのかも分かりません

「女の子って花束貰ったら嬉しいの?」
君は細めの黒眼鏡をクイっと上げた。
「うーん、女の子に限らず嬉しい人は嬉しいんじゃ無い?どうしたの急に?」
同じ速度で橋の上を渡っていた。耳には蝉のこえが届く。私たちから見たら短い時間の中で汗がじわじわと噴き出てくる様に終わりを感じながら命を全うしているのだろう。
ほんの少し背の高い君には、このこえはどんな風に聞こえているのだろう。
「この前読んだ本の中で、主人公が女性とデートする度にその人の誕生日花で出来た花束を渡すって事してて、告白が全部成功してんの、だから好かれるのかなって」
「そりゃ好かれるでしょ、それって誕生日覚えてくれてるってことだし」
「もし、貰ったら惚れる?」
「惚れはしないよ、私は貰ってもそんなに嬉しく無いもん」
「なんで?」
「花束は、いつか枯れちゃうでしょ。枯れてない時は見る度に思い出すけどいずれバイバイする時が来るし、それが嫌でドライフラワーとかにする人もいるけど私は褪せない物が欲しい」
「へぇー、例えば?」
「読み終わった小説」
「読めるの?いつもアニメ見てるのに」
「失礼な、当たり前じゃん」
「なにゆえに?」
「え、読める理由?」
「いや、小説が欲しい理由」
「あ、そっちね。その人がどんな文字の世界に飛び込んで、どんな思想を持っているか選ぶ本で性格が出るでしょ。それが知りたいの」
「ふーん、意外な回答。そこまで考えてんだね」
「また、失礼な事言った!じゃあさ今度その本貸してくれない?読めるってちゃんと証明するから」
「花束のやつ?」
「うん」 
「いいよ!じゃあ、今日渡すよ。どうせ家路一緒だしパッて取って来れば一瞬だから。」
「いいの?ありがとう!」
「そのまま家まで送ってくよ」
「え、なんで?」
「夜道は危ないから」
「夕方だよ?」
「まぁ、気分ってやつよ」
「ふーん」
昨日より家路が暑くて短いのも、その後どんな会話をしたのかも曖昧なのは蝉のせい。
君の世界を見たい、少しでも良いから。
そんな願望の為に貸してって言ったのに気付いてないの。
君はずっと鈍感だもの。

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