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けめたんとタカシ

はじめに
昼ご飯を終えて、リビングの東の窓から、日光が穏やかに部屋を照らしている。8歳のタカシは、お父さんと共にソファに座り込み、お母さんは食卓でお手製の装飾品を作り始めていた。ソファテーブルの上には、タカシのお気に入り、グミの袋が置かれている。
お父さんが手でキツネの顔を作り、「僕は、けめたんだよ」と冗談を言っていて、タカシは笑いながら、お父さんの手をじっと見ていました。

けめたんの登場
突然、お父さんの手から光のような霧が現れ、形を成していく。それは、けめたんと名乗る不思議な存在でした。

「こんにちは、おじゃまします。けめたんと申します。双葉山に住んでる。ここら辺をもっと知りたくてここに来たんよ」とけめたんは優しく自己紹介を始めた。

「毎日6時間、移動に時間がかかるんよ。家に帰ると疲れるけえ、いつも早く寝るんよ」とけめたんは続けた。

「それと、暗くなる前に山に帰らんといけん。じゃけえ、忙しいんよ」とけめたんは微笑みながら語った。

タカシは驚きと好奇心で、けめたんをじっと見つめていた。
タカシがグミの袋を差し出して「これ食べる?」と聞くと、けめたんは「ありがとう、もらうね」と言って、グミを受け取った。

けめたんとタカシの交流
「下の名前教えて」とけめたんが聞く。
「タカシ」とタカシは答えた。
「学校はどこなん?」
「すぐそこ、窓から見える」

「タカシは何か習い事してるの?」とけめたんが尋ねる。
「うん、野球とピアノを習っとる」とタカシが答えた。
「みんな、しよるん?」
「みんなはしよらん。やりたい人だけ」

「好きな食べ物は何なん?」とけめたんが続けて聞く。
「すしとラーメン。マグロ、しょうゆのラーメン!」とタカシは笑顔で話しし出した。

「家族はどんな人?」とけめたんが興味深く尋ねました。
「父さん、母さん、ハムくん。ハムくん、手の中でエサ食べるんよ。」とタカシは嬉しそうに答えました。

「ハムくんはね、すごくかわいいんよ。毎日、父さんと母さんとボクで交代でエサをやるんよ」とタカシが続けました。

「おぉ、それはいいね。ハムくんはどんな子?」とけめたんが尋ねました。
「ハムくんは、そこのカゴで寝るよ。屋根に寝っ転がるのが好きなんよ」とタカシが答えました。
彼の顔には、ハムくんへの思いが溢れていました。

けめたんは微笑みながら、「ハムくんは元気なん?」と興味深く訊ねました。
「うん、いっつも元気だよ。下におろすと、すぐに走り出して、テーブルやタンスのウラに隠れるよ」とタカシが興奮して話しました。

「大変だけど、面白そう。家の中で遊ばせることもあるん?」とけめたんが続けて聞きました。

「ある。ソファの上で遊ばせると、ハムくんはすごく喜ぶんよ。でも、ずっと見とらんと、おらんくなるけえ、気を付けとる」とタカシは真剣な表情で語りました。

「よく棒振り回しよるけど、なんでなん?」
「棒?そんなん振り回さんよ・・・。
 ああ、なるほど、素振りね。野球の練習でバット振りよるんよ、打たんといけんけえ」とタカシは少し締まった顔で答えた。

「いつも勉強はしよるん?」
「家じゃあ、せんよ。学校でするんよ。宿題は休憩時間にしよるし。それジャマする人がおるといやなんよね・・・」

けめたんはタカシに質問して、タカシはそれに答えるだけ。
タカシがけめたんに質問すると「僕は忙しいんよ、また話すね」と返事するだけ。

「けめたんの家とか、また教えてや」とタカシが話を終えたとき、彼の頭にふと別のことが浮かびました。

「けめたん、ねぇ、うちのマンションにはすごい立体駐車場があるんよ」とタカシが言いました。
けめたんは興味深く耳を傾けました。
「へぇ、それは面白そう。どんな駐車場なん?」

「自動車がね、ぐいーんと持ち上がったりする。うちの車は30番なんじゃけど、他の番号の車も動かして出してみたいんよー」とタカシが目を輝かせて話しました。

「それは見てみたい。でも、どうして他の車を動かしたいん?」けめたんが尋ねました。

「だって、いつも同じ番号ばかりで面白くないんよ。でも、誰に言っても『他人の車だから出さない』って言われる」とタカシは少し残念そうに言いました。

「なるほどね。新しいことをする方が楽しいのにね」とけめたんは優しく言いました。
「うん、たまにはいつもと違う操作をしてみたい」とタカシは思いを馳せました。

けめたんはタカシの想像力に微笑みながら、「いつもと違うことを考えるのは大切なんよ。新しい発見があるかもしれんしね」と励ましました。

タカシはけめたんの言葉に心が軽くなり、「そうだなあ。ハムくんのカゴも、たまには違う場所に置いてみるかな」と笑顔で言いました。

けめたんは、急に忙しそうな仕草を始めました。
そして「またね」と言いながら、窓方向にゆっくりと姿を消しました。
タカシも「またね」と言いながら手を振りました。
そして、その日の特別な出会いを心に刻みました。

けめたんは、もらったグミは忘れていきました。


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