サウロ・ヒベイロ『柔術大学』-紫帯-

1 本稿では、『柔術大学』の「紫帯」の章について紹介する。「紫帯」の章は、「ガード」という表題からも分かるように、「クローズドガード」と「オープンガード」に関する技術を紹介している。本稿で紹介するサウロの「クローズドガード」と「オープンガード」の関係についての考え方を理解する上では注意が必要である。この本が出版されたのは2005年であるが、当時の試合動画を見ると今ほどポイントゲーム化していない。サウロは「クローズドガード」に拘って、「オープンガード」に挑戦しない事の愚を説いているが、それは「クローズドガード」がある程度できる事を前提にしていると理解すべきだろう。
 「クローズドガード」が安心感を与えてくれるから、「オープンガード」を習得しないのは柔術の上達にとって好ましくない、と述べているが、「クローズドガード」に入る事で「不安を感じる」ようであれば、まず「クローズドガード」を覚えるべきだと思う。
 私事で恐縮だが、私の通っている道場に出稽古に来られる色帯の方でも、クローズドガードに入ったはいいが、そこからどうアタックしていいのか分からないでまごついている人がたまにいる。そういう人に「サンパウロパス」(注1)を仕掛ければ、相手はビックリしてほぼ確実にパスできる。せっかくクローズドガードという強いポジションに入ったのにそれでは勿体ないと思う。

注1)


 2005年の時点で私はBJJをやっていなかったから、当時と今とで試合のあり方がどう変化したかを自分の経験から語る事は出来ないが、どうも最近のBJJでは公式試合の短い時間内でポイントアウトして勝つ事を優先するあまり、クローズドガードが軽視されている気がする。確かに、「試合にポイントで勝つ」ためには、手間をかけてクローズドガードに入るより、オープンガードからスイープしたり、テイクダウンを強化して先にポイントを取ってしまう方が合理的だし、いきおいそれに練習時間の大半を割くのも仕方がないのかもしれない。
 だが、柔術の本質が「サバイブ」にあるとする立場からすれば、まずは「クローズドガード」を覚えて、相手をその中に閉じ込めてしまう方が正解だろう。「試合にポイントで勝つには非効率だから」という理由でクローズドガードを軽視するのは好ましくないと私は思っている。

2 ① 「ガード」の目的

 「ガード」は、すべてが悪い方向へ向かっている時の安全策だ。
これは君が戻るべきポイントであり、すべての柔術選手はこの非常に技術的なポジションに習熟する必要がある。 サバイバル、エスケープ、サブミッションの要素を1つの固有なエリア内に組み合わせているため、安全だ。 柔術の他の側面とは異なり、「ガード」をプレイするたびに、これらすべての要素が同時に存在する。「ガード」内でサバイバルすることは、対戦相手があなたをパンチしたりサブミッションするのを難しくすることを意味している。これが可能なのは、相手との距離を保つために足の力を利用することが可能だからだ。「ガード」では相手との距離を適切にコントロールすることが「サバイバル」のカギになる。
 腰の動き(Hip movement)はガードワークに不可欠だ。
「ガード」で腰の動きを使用できない場合、実際には「ガード」がないのと同じことだ。 相手がパスしようとするのをアングル(角度)とポジショニングで防ぐためには、君がどれだけ腰を使えるかにかかっている。「ガード」から攻撃するということは、サブミッションとスイープを意味している。
 戦略的には、攻撃のレパートリーにサブミッションが必要になる。 これにより、対戦相手は不意を突かれ、最終的なサブミットまたはスイープへの道が開かれる。

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