異端の英語学習法

1 私は学生時代とにかく「英語」が嫌いだった。テスト科目としての「英語」は、ひたすら単語を覚え、英文を読み書きするトレーニングを繰り返していれば、必ず高い点が取れる。そういう意味では、「英語」は大学受験に際して確実に点数が計算できるという点で、学習の費用対効果が非常に高いと言える。
 だが、「テストでいい点を取るため」「いい大学に入るため」という理由で「英語」を勉強するには私はものぐさ過ぎた。「洋楽に興味がある」とか「英語圏の国に旅行したい」というもっと明確な動機付けがあれば「英語」に真剣に取り組めたのかもしれないが、大学受験の時も(私が受験した大学では)最も得点配分の高い「英語」を捨てて、最も得点配分の低い「数学」で勝負したくらいである。
 大学受験については、その博打に結果的に勝つ事が出来たが、入学して第一外国語としての「英語」の講義に向き合った時に絶句した。
 全く英単語を知らないから、予習の段階で1時間でテキストを1頁も読めないのである。「英語苦手だから、単位下さい」と教師に泣きつく訳にもいかず、辞書を引き引き英単語を覚えて、大学を卒業する頃には「辞書さえあれば」英文がなんとか読める程度にはなった。
 辞書があれば英文が読めると言っても、英会話なぞ以ての外であった。大学の語学の講義では、意図的に「リーディング」ばかり選択し、「スピーキング」は一切受講しなかった。今でもはっきり覚えているが、ある「スピーキング」の講義のオリエンテーションに出た時に、外国人教員から「英語」で質問されて、日本語で答えたら、「この講義はスピーキングなんだから英語で答えなさい」と(優しく)言われ、前の席の(面識のない女性に)「済みませんが、僕の言う事訳して下さい」と頼んだくらいである。その講義のオリエンテーションには私とその女性しかいなかったので、「これが半年続くのかと思うと地獄だな・・・」と思って、「リーディング」の講義に鞍替えした記憶がある。

2 話は大学を卒業して授業としての「英語」からは解放され、古流柔術の稽古を始めた後に移るが、前師は会派の「教授代理資格」(私が所属してた会派・・・古流を辞めたつもりはないので「所属してた」と過去形で語るのには抵抗があるが、今現在古流の稽古が自主的な呼吸法その他の鍛錬しか出来ていないので、仕方あるまい・・・では数人しかない)を所持しており、その下には年2~3回ほど彼の教えを請いに海外から会員が稽古にやって来ていた。
 英語圏の会員は勿論の事、北欧の会員も全員英語で話す(注1)。もっと言うと、彼らは日本語を覚えるという気が全くない。彼らは日本ではどこへ行っても英語は通じると思っているようだった。
 武術の場合、身体感覚を磨く事が本義になるので、それを言葉で表現する重要性というのは必ずしも高いとは思わないが(口で説明するより、まずやって見せる事の方が大事である)、それでも彼らとなんとかコミュニケーションを取りたいと思ったので、「旅の恥は掻き捨て」だと思って(旅しているのは彼らであって私ではないけど)、彼らとは努めて英語で会話するようにしていた。

3 さらに時代は下ってBJJを始めてそれなりに年月が流れてからになるが、自分の後輩にあたる若い子から「この動画で話している内容が分からないので、訳して貰えませんか?」と頼まれた。「はて・・・なぜ私に??」と思ったが、その時初めてYOUTUBEというモノの存在を知った。いや、新聞で名前を耳にしたことはあったが、それまでYOUTUBEを全く見たことがなかったのである。
 まだその時点では、YOUTUBEのBJJに関する動画を見るまでには至らなかったが、アメリカで新型コロナウィルスがパンデミック化した時に、「BJJ fanatics」という教則動画を販売しているサイトが、「JIUJITSUコミュニティを守るため」と称して、2本無料で好きな教則を配布してくれた(注2)
 その時入手したのがトム・デブラス(注3)の「ハーフ・ドミネーション」とベルナルド・ファリア(注4)の「BJJの基礎」だった・・・今考えると非常にいいセレクトだったと思う・・・。いざ視聴してみると、アメリカ人のデブラスの英語は良く聞き取れなかったが、ブラジル人のファリアの英語は日本で言う「カタカナ英語」のようなモノだったため、当時の自分の英語力でもなんとか理解できた。



 実際、ファリアの教則はB・ファリア自身が「これがBJJの基礎だ」と考えているテクニックを満遍なく網羅していたので、大変役に立った。自分がスパーで使うかどうかは別にして、彼の教則に出てきたテクニックには「知らないから掛かる」という事が無くなった。また、それを契機に上述した後輩の子とそれらのテクニックの動画を稽古終了後に打ち込みするようになったので、自分の技術的な引き出しも徐々に増えて行った。
 面白いもので、ブラジル人の英語でも繰り返し聞いていると、語彙が増えるせいか、アメリカ人のデブラスの英語も段々と理解できるようになって来たのである。そして、今度はデブラスの教則を繰り返し見ていると、ジョン・ダナハーの早口の英語も理解できるようになった。
 確かに、私の英語力は語彙がBJJ関連に偏っているのは事実だから、ビジネスで使えるレベルには程遠いし、英字新聞が辞書なしで読めるわけではない。だが、少なくともYOUTUBEであれ、教則であれ、BJJ関連の動画であれば英語は苦にならないし、道場に出稽古に来る外国人と意思疎通するのも苦ではなくなった。
 私の経験を踏まえて言えるのは、英語に限らず外国語を学ぶために一番必要なのは、「何のために外国語を学ぶのか」という点に関する動機付けではなかろうか。「学校英語が使えない」と言われるのは、結局のところ授業で子供達に自発的に英語を学びたいと思わせる事に失敗しているからだと思う。動機付けさえセッティングできれば、授業などなくても、子供たちは自発的に英語の習得に取り組むだろう。
 BJJに興味のある方は、教則で英語を学んではどうだろう。注2で掲げたキャンペーンはもう終了しているが、Digistuでは今でも次の教則は無料で視聴・DL出来る(https://www.digitsu.com/specials.html)また、BJJ fanaticsの動画(https://www.youtube.com/c/BjjSuperDeals)も英語を学ぶ格好の教材になると思う。興味のある方は参考にして欲しい。
 
注1)なんでもフィンランドでは、全てのテレビ番組はフィン語と英語の二か国語放送になっており、彼らは子供の頃は英語に親しんでいるため、英語で話す事に違和感がないそうである。
注2)http://btbrasil.livedoor.biz/archives/55817097.html 
注3)https://www.bjjheroes.com/bjj-fighters/tom-deblass ゲーリー・トノンの最初の師匠・・・今はジョン・ダナハー・・・として有名だが、BJJfanaticsで一番教則が売れている人だそうである。
注4)https://www.bjjheroes.com/bjj-fighters/bernardo-faria-facts-and-bio ムンジアルで輝かしい実績を残して引退後、マイク・ゼンガと共にBJJfanaticsを立ち上げた。

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