温故知新

1 BJJのテクニックには流行りがある。ファッションと似たようなモノであると言っても過言ではない。
 昨年は「バギーチョーク」というルオトロ兄弟の開発したテクニックが大流行した。
 https://www.youtube.com/watch?v=r7qmFUTFtRw
 https://www.youtube.com/watch?v=igCTjLWbrnI
 「バギーチョーク」の解説が上、下がケイド・ルオトロが「バギーチョーク」で勝った試合である。ONEでルオトロが青木真也選手とグラップリングマッチを戦ったせいか、その試合後MMAをやっている若い子から「『バギーチョーク』を教えて下さい」と言われたのを覚えている。
 彼に対して私は、「『バギーチョーク』は足が長くて、身体が柔らかくないと出来ないし、膝や肘にかかる負担が大きくケガが怖いので、止めた方がいい」と答えておいた。
 程なくしてMMAで「バギーチョーク」を使った方の選手が自分で自分の肘を折るという事件があった(膝を壊した選手もいたらしい)から、「バギーチョーク」を彼に勧めなかったのは正しかったと思う。

 ちなみに、日本ではほとんど流行しなかったが、一昨年アメリカで大流行したのがバックからの「ダブルリストコントロール」である。
 https://www.youtube.com/watch?v=ffNAIWSxhaY
 ゴードン・ライアンがバックを取ってから「ダブルリストコントロール」を経て「裸締」で連戦連勝だったので、1年前は「ダブルリストコントロール」でYOUTUBEを検索すれば、この技術の紹介動画が山のように出て来た。
 だが、今YOUTUBEを「ダブルリストコントロール」で検索しても、検索結果でピンポイントにこの技術を扱っていた動画は上にリンクを貼ったモノだけである。

 そう、たった2年余りで「ダブルリストコントロール」はほとんど絶滅してしまったのである。「バギーチョーク」も来年にはおそらく消滅していると私は予想している。
 
2 他方で、流行のサイクルに揉まれながらも生き残っている技術もある。
 「オモプラータ」はその代表だろうが、ここではその例として「バラトプラータ」を挙げておく。
 https://www.youtube.com/watch?v=dxd8Bi5gG6s
 「クローズドガード」の攻防が忌避されがちなBJJの試合ではほとんど見られなくなった技術ではあるが、オープンフィンガーがあっても使えるためBJJよりもむしろMMAの選手が使っているようである。
 BJJと古流以外の武術の経験がないので、憶測の域を出ないが、他の武術ではBJJほどの技術の流行り廃りはないのではないかと思う。
 柔道で「背負い投げ」が流行ったり、空手で「中段突き」が廃れたりするという事態は想像し難い。
 BJJにおいてそういう技の流行り廃りがあるのは、ひとつには試合で勝つためには対戦相手の知らないテクニックを駆使した方が有利だという点が挙げられる。だが、もっと重要な点は、試合のルールが変われば、それに合わせたテクニックが生まれてくるという点だろう。
 「50/50」「ベリンボロ」を始め、古くは「デラヒーバガード」や「スパイダーガード」を始め、それらは全て競技柔術の試合の中で生まれたテクニックである。
 ここまで書いてきて、以前ヘンリー・エイキンスが彼の教則の中で「ヒクソン(注1)は、モダンなガード、90年代に登場したデラヒーバやスパイダーガードさえ使ったことがない。彼が使ったオープンガードは、ニーシールド(注2)とフックガードだけだ」と言っていたのを思い出した。
 
注1)ヘンリーの師匠がヒクソン・グレイシーである
注2)「ニーシールドハーフ」ですらない。
 
 流行りのテクニックを習得する事は試合に勝つためには必要なのかもしれない。だが、そうしたテクニックを短期間で習得して試合で使いこなせるレベルにまで高める事の出来る人は、ごく限られた一部のプロ(=BJJで生計を立てている人の意)だけである。
 ファッションと同じように流行するテクニックを追いかけ続け、新しく登場する技術を片っ端から習得できるごく一部の人はいいかもしれないが、柔術を練習している人の9割9分が流行りのテクニックを追う事は、投入した労力や時間に見合ったリターンが得られないという意味で、不毛だと思う。
 日本のBJJ村だけがそうなのかは分からないが、相手との体格差や、自分の身体能力及び技術レベルを無視して、新しいテクニックや「なんとかガード」を相手にはめ込むようにして使うのは止めた方がいいといつも感じている。
 少なくとも自分を知っていれば、自分に合わない新しいテクニックや「なんとかガード」を使う事はなくなるはずである。
 柔術の稽古も、ベーシックスをやった方が長い目で見れば伸びるし、流行を追う不毛さに疲れる事もない。
 私は武術を稽古する事の目的のひとつに「自分を知る」というのがあると考えているが、新しいテクニックや「なんとかガード」も一度はやってみればいい。その過程で自分には合わないモノが何かが分かれば、「自分を知る」事の第一歩は踏み出せたと言えると思う。
 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があるが、「百戦百勝」とは言っていない。まず「百戦」して負けなくなる、生き延びるという点に気付く事が重要だろう。敵を知る前に自分を知る事。BJJのテクニックの流行の速さを見ていてそういう事を私は考えた。
 

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