パスタを茹でる想像

今日はパスタを食べようと思った。
それも少し本格的なものにしよう。
最近読んでいる伊丹十三の本に触発された。
俺も本物を知る粋な男になろうと。

それには、まずパスタを3分の早茹でから本格的なイタリア産の湯がき時間9分位のものにしよう。

時短の為に麺に施された細工とは今日でおさらばだ。  

あの細工が俺を本場から引き離している。

忙しいビジネスマンや主婦、効率重視の人からしたら考えられないだろう。

そして鍋の中で茹でられ踊る麺や、鍋のどこからともなく現れ沸騰する泡ぶくを眺めてその9分間を過ごす。   
休日の限られた時間。タイムイズマネーとするならこれは散財にも値する行為だろう。 
時間が無限にあるかの様にゆったり過ごす。

休みだから贅沢に使うよそんなもん。効率なんて関係ない。  休みの日も慌てて過ごすなんて結構です。

しかしじっくりと鍋を見ながら思うだろうな。

鍋底から突如現れ、ゆらゆらと上昇して水面で弾け消える泡ぶくや、鍋の外側から中心に縦回転し続け湯がかれるパスタ。 パスタ。 パスタ!

じっと観察するとさぞ不思議だろうな。

そして職業によってはこの煮えたぎる鍋を見るにしても様々な目線があると思う。


そういえば葛飾北斎は、波の描写にこだわり晩年は描き続けたとか。
日々何時間も海辺で波を観察し続けて、あんな様な水の動きを見事に描いたらしい。
そして近年になり、ハイスピードカメラで波のしぶきをスーパースローで見ると北斎の絵と瓜二つだったとかテレビで見たことがある。  
それくらいの集中力や想像力や洞察力を持って観察すれば、僕も煮立つ鍋底なら突如現れる泡ぶくの発生の瞬間を捉えられるのか。

また、柳宗理なら鍋の泡の立ち方にムラを見つけ出し、均等な熱を伝える鍋底なんかを開発するのだろう。   
パスタが逆に縦回転する楽しい鍋とかも作れるかもしれない。  

なんて事を考えれば9分なんてのはあっという間だ。

こんな時間の散財は贅沢だよ。 人によってはドブに捨てる様な使い方と思うかも知れないけど。

よし、今日は帰ってパスタを作ろう。  
今はまだ自転車を漕ぎながらパスタの事を考えただけに過ぎない。  
予習にしては濃密だった。

実際の9分間が楽しみになってきた。 

目を凝らすぞ。

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