見出し画像

『シャロックの子供たち』天秤にのった誇りと金

2023年2月鑑賞 ネタバレあり 65/100点 

本作は、池井戸潤原作の同名小説の映画化。
主演の阿部サダヲが探偵役となり、銀行内部で起きた汚職事件を暴く。

この映画は、東京第一銀行という架空の銀行を舞台に
2人の人物が描かれる。

一人は、営業部所属の滝野(演者:佐藤隆太)だ。
滝野は上司たちからノルマ達成に向けて強烈なプレッシャーをかけられている。
日々の営業活動を必死に行う中、滝野はある客先から融資を持ちかけら、怪しいと思いながらも協力してしまう。しかしそれは、返す宛のないお金を融資させる〈架空融資〉という詐欺行為だった。

もう一人は、窓口で客先対応を行うお客様係の西木(演者:阿部サダヲ)である。
西木は部下からの信頼も厚い、古株の係長。飲み屋で知り合った友達を職場に呼ん
で相談に載ったり、口座を作らせたりで人情があり抜け目がない。ある時、滝野
の不審な動きを疑念を抱いた西木は架空融資事件に関する調査を開始する。

10億円もの架空融資事件をきっかけに、二人は選択を迫られる。誇りか、金か。
片方を取れば、もう片方が無くなる。2つに一つしか選べない状況の中で、何を選ぶのか。シェイクスピア『ベニスの証人』の証人に登場する悪役、金貸し業者であるシャイロックをモチーフに銀行員達の葛藤を描く。

まず、見ていて辛かったが営業マンの滝野だ。叱責される同僚、目標数字へのプレッシャー。マイホームのローンもある。守るべき妻子もいる。頑張るしかない状況の中、藁にも縋る思いで飛びついた案件が、詐欺の片棒を担ぐ行為だった・・・。これが自分だったらと思うと、鳥肌が立つホラー展開だ。

私も営業を経験して10年が経つが、目標数字に対するプレッシャーは、何年たっても辛いものだ。どこかで心を麻痺させて、来月こそは頑張ろうと言い聞かせて、何とか自我を保っている。そんな日々の中、滝野のように目の前に1000万円を出されたらと思うと、懐柔されてしまうのは仕方ないと思える。実際、汚職事件の典型例でもある。

だが、滝野には妻子という良心が残っていた。物語の最後、西木に説得され息子に誇れる父親でありたいと思った滝野は、汚職事件の全てを告白する。そのせいか服役して塀の中から出てくる描写があるが、妻と息子が出迎え来て滝野の物語は幕を閉じる。道を踏み外しても、最後は家族が支えてくれる。これが誇りを選んだ者の結果。

一方で、この映画では探偵役で活躍する西木。彼は滝野の周辺を調査し、架空融資事件の黒幕を突き止める。自らの上司である九条支店長(演者:柳葉敏郎)と滝野を脅して操った経営者の石本(演者:橋爪功)だ。滝野を説得し、事件の真相を解明する西木。それだけに留まらず、義憤に駆られ九条支店長への仕返しを決意する。仕返しの内容は至極単純で、飲み友達の沢崎(演者:柄本明)が所有している二足三文の耐震偽装物件を20億で売りつけるという計画。

危ない橋は渡ったが、無事に物件を売りつけることに成功した西木。勧善懲悪で一件落着、めでたしめでたしかと思たのだが・・・。計画成功後、西木は沢崎から3000万の小切手を渡される。「今回の謝礼だよ。西木ちゃんも色々大変なんだろ?黙って受け取ってよ」と。物語中盤で明かされるのだが、西木は兄が事業で失敗した借金600万を背負っている。しかも闇金。逡巡する西木だが、最後には小切手を受け取り、闇金への返済に充ててしまう。

物語の最後、数年たった東京第一支店に西木の姿は無かった。自ら辞めたのか、小切手を受け取ったことがバレて辞めさせられたかは描かれていない。義憤に駆られた西木だった、最後には受け取ってはいけないお金を受け取ってしまった。誇りを抱いていた自分、元いた場所には戻れない。これが、金を選んだ者の結果。

この物語は、2人の人物を描く
金で自分を見失ったが、家族への愛で誇りを取り戻した滝野
正義感と誇りで動いたが、最後にはそれを金に変えた西木。

天秤がどちらに傾くかは、その人の選択次第。
誇りか、金か。何者になるかは、いつだって自分の選択次第かのかもしれない。

以上。





この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?