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ボルシア・ドルトムントの2023-24シーズンを振り返る


全体を振り返って

2023-24シーズンの結果
リーグ戦:5位(18勝9分7敗 勝ち点63)
国内カップ戦:ラウンド16敗退
CL:準優勝

一言で言うと苦しいシーズンだった。

CLでは良い結果を残せたものの、ドイツ国内での結果が象徴するように今季のドルトムントは低調なシーズンを過ごした。内容的に苦しい試合がほとんどで、チームとして何か上積みがあったか?積み重ねられたものはあったか?と言われると…答えはNOだと言っていいと思う。

テルジッチ監督の性分は”良き兄貴分”であり、戦術家ではない。
2年続けて、その悪い部分が浮き彫りになってしまったシーズンだった。

もちろん、監督として選手の良き兄貴分であることも必要になってくるだろう。戦術家かどうかが全てじゃない。いわゆるモチベーターだって監督に必要な要素だ。

でもドルトムントの場合は、昨年からずっとピッチの中に問題を抱え続けており、チームが更に強くなるためにはそこを改善しないといけないことは明白だった。

ブロックを構えたときは堅いし、カウンターは強烈なのだが、それ以外の局面で弱さを見せてしまう。4局面すべての整理という面では、どうしても不満が残るチームだった。そこがまさに、テルジッチにとってはあまり得意とは言えない分野だったのだ。

それでも戦力的にはドイツ国内ではトップクラスなので、力業で相手をねじ伏せて勝つことも珍しくはない。しかし、先述したように試合を重ねてチームとして何かが良くなったとか、何かが出来るようになったということは最後までなかった。一貫して、なかった。力で殴り勝つか、それが出来ないかという試合がほとんど。

ただ冬場に獲得した選手や、状態の良い選手たちの踏ん張りで何とかなっていた。あくまでも個人の頑張りではあるが。もちろん個人の頑張りも必要なのだが、それだけになるとキツイ。

そしてこれが今季だけでなく昨季もそうだったので、冬にはマルコ・ロイスを含めた一部選手と監督テルジッチとの間の確執が報じられるようになる。チームとしては既に限界だったわけだ。

その後、ロイス側が謝罪しテルジッチもそれを受け入れ和解。たしかに、ロイスといえども監督に歯向かうことなど許されはしない。組織としての規律が何よりも最優先であるべきだ。

しかし同時に、選手から不満が出ることも当然と言えば当然だった。いくら良き兄貴分でも、ピッチ内で困っている選手たちにあまり効果的な解決策を提示できないのだから、求心力を失うのも当たり前のこと。

それを受けてか、冬にはチームOBであるヌリ・シャヒンとスヴェン・ベンダーをトップチームのコーチとして復帰させる。報道によるとシャヒンが主に攻撃面、ベンダーが守備面とセットプレーの整備を担っていたようだ。

しかしこんなことをしているので、試合中、何かを話し込むシャヒンとベンダーの両コーチの隣にいながら全く会話に入ることが出来ない監督テルジッチがカメラに捉えられてしまうなど、とても健全とは言えないチーム状態だったように思う。

冬にはテルジッチの解任寸前とまで報じられたが、なんとか回避。
チームとしてギリギリの状態だったのは間違いないだろう。

でも最後の最後まで持ちこたえることが出来たのは、CLの存在が大きい。
CLを勝ち進んでいたからこそ、緊張の糸は切れず、最後まで瓦解することはなかった。人間のやることなので、メンタル面がどうかという点は極めて大事。CLの存在がチーム全員の心を繋ぎ止めた。そう言っていいと思う。

そこは、テルジッチの素質なのかもしれない。目標さえあれば、そこに全員を向かわせることが出来る。兄貴分であるテルジッチだからこそなのかもしれない。

しかし、繰り返すがこれは昨季も同じだった。昨季も、ピッチ内ではイマイチだったがブンデスリーガのタイトルがすぐ目の前にあったので、最後まで瓦解することなく持ちこたえた。

昨季はリーグ最終戦で引き分けに終わりリーグ優勝を逃し、今季はCL決勝で敗れてまたしてもタイトルを逃した。
大事なところで勝ち切れないのか?
僕はそうは思わない。なぜなら大事な試合以外でもたくさん負けているから。大事な試合で普段通りのプレーが出来ないとかいう問題ではない。
普段からあまり出来ていることは多くない。

だから、サポーター間でのテルジッチの評価は低いし、シーズン中に選手が反乱分子になってしまう。CL準優勝という結果は偉大だが、でもそれだけを見てしまっては意味がない。

…と、ここまで書いた後でテルジッチの辞任が発表された。
監督人事については最後に書き加えることにする。

CLでの快進撃

今季のCLではいわゆる死のグループという強烈なグループに割り振られた。ブンデスリーガでの低調な様子を見ていると、突破は難しいかもしれないと思ってしまった。

しかし意外と(特にニューカッスルとミランについてだが)、前からプレスを掛けられることなく、また強度もさほど高くなく、ドルトムントからすれば自由にノビノビとボールを保持することが出来た。タレントは揃っているので、自由にボールを持ちさえすれば色々と仕掛けることも出来る。
一方で相手も上手いのでボールを持たれることだって増える。持たれて、ドルトムントは構えてカウンター狙いという試合展開の方が強さを発揮する。つまりCLに関して言えばボールを持とうが持たれようが良い感じで試合を進めることができた。いろんな要素が積み重なり、グループリーグ突破。

ブンデスリーガでは基本的にドルトムントがボールを握るものの、前から圧を掛けられほとんど自由にボールを持てない。なんとか前線へ繋いでも、その前線も相手の激しいマークに遭っているので収まらない。そして奪われて被カウンター。お決まり「苦しい展開」なわけだが、これがCLではあまり陥ることなく乗り切ることが出来た。

CLでそうならなかったのはやはり研究されていなかったことと、相手もボールを持てること、そしてミッドウィークの試合だったということが大きいかもしれない。

決勝トーナメントに入ると、もはや理屈では説明のつかないような勝ち方を繰り返していく。

特にホームで圧巻の強さを見せた。
ラウンド16ではオランダで無双状態だったPSVを粉砕。準々決勝アトレティコ・マドリーとの試合では2ndレグで大逆転勝利。この試合はもはや語り継がれるレベルの名勝負だった。このときの選手の気迫、スタジアムの雰囲気…理屈ではなく魂で勝った試合だと断言できるようなものだった。

準決勝ではグループリーグで勝てなかったパリ・サンジェルマンを相手にホーム・アウェー共に1-0で勝利。ボールは持たれたものの、構えて守ったら堅いドルトムント。強固なブロックから効果的なカウンターを何本も打ち込み、見事に勝利した。
が、この2試合で相手のシュートがゴールポストに弾かれた場面が5〜6回はあった。これも理屈では説明できない。運というと言い方は悪いが、運もあったのは事実だろう。

決勝ではそんな勢いを見事に打ち砕かれて準優勝。悔しすぎて振り返りたくはないが、あの試合運びこそレアル・マドリーがレアル・マドリーたる所以。

なのでCLの快進撃は、
・グループリーグについてはミッドウィーク開催による強度不足、研究不足からドルトムントが優位に試合を運ぶことに成功した
・決勝トーナメントについては理屈では説明できない、魂で勝利をもぎ取って行った
…と捉えている。

戦力面から見て

次に戦力面に何がどうなっていたのかを書いてみる。

今季のドルトムントは、ジュード・ベリンガムとラファエル・ゲレイロという二人のキーマンを失うところからスタートした。

先述したようにドルトムントは後方から繋いでビルドアップをしたいけど、その整備はあまり得意ではないという状態なので、となればベリンガムやゲレイロといった「個で一枚も二枚も剥がせる選手」が必須になってくる。
というかテルジッチはもはや個で一枚も二枚も剥がして攻めることを選手に求めているようにすら思う。その辺のアイデアや球際のバトル、そして技術を求める。立ち位置がどうとか数的・質的優位がどうとかはあまり重視していないのではないか。

で、ベリンガムとゲレイロの代役として獲得したのはマルセル・ザビッツァーとラミ・ベンセバイニ。この二人、とても良い選手なのだが前任者と比べるとあまりにもタイプが違う。

特に適応に苦労したのがベンセバイニ。SBがプレッシャーを受けた状態で相手を剥がしたりドリブルで切り裂いたりというスキルがドルトムントでは必須に近いので、そういったプレーが得意でないベンセバイニは苦戦を強いられた。
ザビッツァーも苦労はしたが、それでも後半戦には彼本来の持ち味である運動量や思い切りのいい攻め上がりでチームにフィットすることに成功。彼の後半戦の活躍は本当に大きかった。

前線に目を向けると、昨季後半戦に復活を遂げたセバスティアン・アレのコンディションが上がって来ず、AFCONでの離脱も見込まれていたので、移籍市場終了直前にニクラス・フュルクルクを獲得。

このフュルクルクの獲得は本当に大きかった。彼がいないと、リーグ戦の順位はもっと下だったかもしれない。
しつこいようだが保持面の整備が出来ていないので大事なのは「個人の頑張り」になってくる。で、フュルクルクはめちゃくちゃ頑張れる選手だった。ハイボールにもしっかり競り合うし、ポストプレーで収めてもくれる。そしてフィニッシュの局面では必ずゴール前に飛び込んでいく。マレンに次ぐチーム2位の12得点。文句のつけようのない活躍だった。

(にもかかわらずテルジッチはシーズン中に「ストライカーのクオリティが足りない」とメディアに対して発言してしまうので、本当にこの人のことはよく分からない。)

なので前半戦を一言で表すとするなら、相変わらず作りが粗いチーム(であるが故に一部新加入選手は苦戦)ながらもフュルクルク、もはや欠かせない存在のユリアン・ブラント、好調のドニエル・マレンらの個人技爆発でなんとか勝ち点を拾っていったという感じ。

後半戦に入ると、さすがにマズいってことでジェイドン・サンチョとイアン・マートセンを補強。そして先述したようにシャヒンとベンダーの両コーチを加えて、再建を図る。

後半戦は保持時の立ち位置が変化したし、より明確になった。
それだけでもだいぶ変わった。
今までは曖昧だったものが明確になっただけだが、それが大きい。両コーチ加入の効果だろう。
左SBのマートセンはボランチのような立ち位置を取り、アンカーのエムレ・ジャンは最終ラインに落ちる。サンチョとリエルソンが幅を取り、フュルクルクをブラントやマレンら攻撃陣が近くでサポートできるように整備。

そして守備陣では、フンメルスが絶好調を維持してくれた。彼のおかげでピンチをいくつ防いだか、失点をいくつ防いだか。ズーレのコンディションが上がらない中、フンメルスが年齢を感じさせない高パフォーマンスでチームを支えてくれた。
サンチョは加入当初こそ体の重さを感じたが、試合を重ねるごとに感覚を取り戻し、終盤にはかつて見たようなキレキレのドリブルと得意の角度45度からのシュートも見られるようになった。

しかしいずれも応急処置に過ぎなかったし、根本的に「作り込みが甘い」というところに変わりはなく、後半戦も思ったように順位を上げられずに5位フィニッシュ。なんとか滑り込みでCL出場権を確保するに留まった。
ドルトムントは決してCL出場権確保で満足していいチームではないだろう。

前半戦と後半戦で大きくチームが変わった、というか変えざるを得なかった。
変えざるを得ない状況に追い込まれたことそれ自体が、チームの苦しい現状を物語っていると思う。


来季への展望

まだ何も決まっていないが来季について少し。
前途多難な船出になることは間違いないだろう。

後半戦のチームを支えたサンチョ、マートセンの左サイドコンビはいずれもレンタルだ。ユナイテッド、チェルシーというプレミアリーグからのレンタルなので、買取にはかなりの金額が必要。両者揃っての買取は難しいかもしれない。

ただでさえ手薄なSBはヴォルフとモレイが退団。ここも補強は必須だ。

年齢を感じさせない大活躍を見せたフンメルスも、今季で契約が満了。ただでさえ薄いCBが更に薄くなってしまう。
(そのフンメルス、一部報道では「テルジッチ監督継続なら退団、監督交代なら延長の意思」という報道があった。たしかにテルジッチの手腕については疑問だらけだが、選手自身がこういう姿勢を明らかにするというのは問題ではないか、と思わざるを得ない)

そして何より一番はマルコ・ロイスの退団。もはや語る必要性すらない、クラブのアイコン的存在。いやそんな言葉じゃ済まされないくらいの存在。確かに全盛期は過ぎたかもしれないが、そこにいてくれるだけで雰囲気が変わる。そんな選手を失ったのは痛恨だ。

なのでドルトムントというチームの特性上、やむを得ない部分はあるにせよ、今オフもまた昨オフと同じように戦力の入れ替えが多くのポジションで行われるだろう。CB、両SB、アンカー、WG。パッと思いつくだけでもこれだけ補強必須なポジションがある。

フロントも体制が変わるようだが、仕事は山積だ。

ベテランや主力の入れ替わりが見込まれ、かなりの補強が必要。監督も替わる。再建期と言っていいと思う。なので多少上手くいかなくても我慢するつもりを今から持っておきたい。

監督交代について

これを書いている途中に、監督テルジッチの辞任が発表された。

正直に書くと自分としてはテルジッチはあまり支持していなかった。だから監督交代はやむを得ない、というか妥当だとすら思う。

でも、テルジッチ一人だけの問題ではないことは明らかだ。

そもそもの話、2年前にテルジッチが監督に就任した経緯そのものが不明瞭だ。2021-22シーズンを2位で終えたマルコ・ローゼが、「クラブからの信頼を感じない」としてシーズン終了後突如として辞任。後任として、TDを務めていたテルジッチが監督に就いた。

現監督がクラブからの信頼を感じられず辞任。そして次期監督は内部の人事異動で済ませる。ここから既におかしな話は始まっていた。

繰り返すが結果だけ見れば悪くないが内容は散々な試合が続く。そして今冬、一部選手が不満爆発するという最悪な結果を招いた。なぜこうなるまで放置したのか。それはテルジッチだけの責任ではない。

シーズン途中に二人のコーチをベンチに加えたことも前代未聞だ。そんなことをしては監督であるテルジッチの立場がない。

更に、今冬にテルジッチ解任の話が持ち上がった際も、ヴァツケCEOはテルジッチを「監督は解任してもTDの職に戻す」つもりだったらしい。じゃあ、現TDのケールはどういう立場になるのか。監督を解かれたテルジッチがフロント入りするなんて、選手はどう思うのか。テルジッチ本人はどう思うのか。疑問しか浮かばない人事だ。

規律面での緩みも気になる。
シーズン中にロイスはじめ一部選手が監督に対して不満をぶつけるなんて…そうなるまで放置したフロントもフロントだし、監督も監督だし、一方でそんなことをしてしまう選手も選手だ。全ておかしい。

フンメルスだって、「テルジッチ続投なら退団希望」だと報じられていた。もしこれが真実ならさすがに許されることではない。いくらフンメルスでも許されない。たとえ監督の手腕がイマイチだとしても許されることではない。

そして何より、最後はテルジッチもロイスもフンメルスもいなくなった。

結局、惜しいところまでは行ったが何も得られないまま、あれだけ無理して引っ張って続けさせた監督も、クラブのために尽力してくれたベテラン選手も、みんないなくなった。

この2年は何だったのか。

…と、地球の裏側からそういう思いだけは一丁前に持っている。

遠く離れた場所で一人の日本人が色々考えたところで何も変わらないのは分かっているが、それでもそういう思いを持っている。

新監督にはヌリ・シャヒンが就任した。
賛成か反対かという問題ではなく、シャヒンしかいないだろうというのが正直なところだ。

今のドルトムントは誰も監督をやりたがらないだろう。
そのくらい、外から見ていてもわかるレベルでゴタゴタしている。

少なくともシャヒンは今季の後半戦をベンチから見ており、チームの課題も認識できていると思うし、一部報道では(嘘か本当かは分からないが)かなり戦術面に詳しいタイプの監督らしいので、チームの課題と照らし合わせても適任はシャヒンしかいないだろう。

今はシャヒンが結果を残してくれることを願うばかりだ。

そして、的確な補強をすること。チームを作り替えるには良い機会だし、思い切ってもいいかもしれない。

ネガティブなことばかり書いて申し訳ないが、この際、変革期だとポジティブに捉えるしかないと思っている。悪い部分を変える、絶好のチャンスだ。

そしてジャパンツアーまでにはチームの骨格が見えていることを願うばかり。

いろいろ言ったけどドルトムントを生で見れる機会はそうそうあるものではないので、楽しみで仕方ない。

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