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映画の外側 『大脱走』 (1963)

キャスト


監督
ジョン・スタージェス
脚本
ジェームズ・クラヴェル
W・R・バーネット
原作
ポール・ブリックヒル
製作
ジョン・スタージェス
製作総指揮
ウォルター・ミリッシュ
(クレジットなし)
出演者
スティーブ・マックイーン
ジェームズ・ガーナー
リチャード・アッテンボロー
音楽
エルマー・バーンスタイン

あらすじ

第2次世界大戦下のドイツ。北部の捕虜収容所に、連合軍兵士の脱走常習犯たちが集められる。脱出不能と言われるその場所でも、逃げ出すことを諦めない男たち。やがて、総勢250名にも及ぶ集団脱走の計画が動き始める。

概要

1963年公開のアメリカ映画。戦闘シーンのない集団脱走を実話を元に描いた異色の戦争映画です。

制作にあたって

原作は実際に第三空軍捕虜収容所の捕虜だった元連合軍パイロット、ポール・ブリックヒルが執筆した同名のノンフィクショの本でした。
彼自身は実際に脱走しなかったものの、計画そのものには加わっていました。

50年に出版されて大評判となった同著の映画化を、かなり早い時期から温めていたというジョン・スタージェス監督。
当時MGMと専属契約を結んでいた彼は、最初に社長のルイス・B・メイヤーのもとへ企画を持ち込んだものの、「物語が複雑すぎるうえに予算がかかりすぎる」として断られたそうです。

その後独立してからも、あちこちの映画スタジオやプロデューサーに相談したが、スタージェス曰く「どこでも話を逸らされておしまいだった」みたいです。
最大のネックとなったのは、脱走した主要登場人物の大半が死んでしまうこと。気持ちの良いハッピーエンドがお約束だった当時のハリウッド映画において難しかったのかもしれません。
また、映画に華を添える女性キャラが存在しないこともマイナス要因だったそうです。


制作の風向きが変わるきっかけとなったのは、黒澤明監督の『七人の侍』(’54)をスタージェス監督が西部劇リメイクした『荒野の七人』。これが予想を上回る大ヒットを記録したことから、同作の製作を担当したミリッシュ兄弟およびユナイテッド・アーティスツは、いわばスタージェス監督へのご褒美として『大脱走』の企画にゴーサインを出したそうです。

セット

当初はカリフォルニアのパームスプリングス近郊を、戦時中のドイツに見立ててセットを組むという計画もあったそうです。
ところが、組合の規定によってエキストラでもプロを雇わねばならず、そのため現地で人材調達をすることが出来ませんでした。
それではあまりに不経済であることから、やはりドイツが舞台ならドイツで撮影するのが理に適っているということで、ミュンヘン郊外のバヴァリア・スタジオで撮影することになりました。
ちょうどスタジオの周囲も実際の収容所と同じく森に囲まれていて、大勢のエキストラも近隣の大学生を安く雇うことが出来たようです。
収容所の屋外セットは400本の木を伐採し、森の中に空き地を作って建設したそうです。

ちなみに、撮影終了後は倍に当たる800本の木の苗を新たに植えたそうです。

撮影の準備で最大の難問だったのは、この第三空軍捕虜収容所のセットをどれだけ忠実に再現できるかということ。
本来は実際に現地へ赴いて参考にすべきところだが、収容所のあったザーガン(現ジャガン)周辺は戦後ポーランド領となり、当時は東西冷戦の真っ只中だったため視察が難しかったそうです。
現存する写真資料だけでは難しかったようで、そこで白羽の矢がたったのは実際に脱走計画でトンネル掘削を担当した元捕虜ウォリー・フラディでした。
劇中ではブロンソン演じるダニーのモデルとなった人物です。
製作当時、母国カナダで保険会社重役となっていたフラディは、本作のテクニカル・アドバイザーとして招かれセット建設に携わり、捕虜収容所の外観だけでなくトンネルの中身まで、限りなく正確に再現したということです。

終盤の劇中ヒルツが絡まって痛そうな鉄条網は実はゴム製で、出演者たちが撮影の合間に作ったそうです。

キャスティング

当初、この映画でアメリカ兵捕虜ヒルツを演じるマックイーンは、自分勝手に脱走を企てるだけのキャラクターではお気に召さなかったみたいで、ヒーローとしての見せ場を得意なオートバイで撮ることを条件にヒルツ(Hilts)役を承諾したようです。

また、当初は単なるアウトサイダー的な描かれ方をしており、そのため撮影途中でラフ編集版を見たマックイーンは憤慨して席を立ってしまったそうです。
おかげで撮影も一時中断することになりました。
そこでスタージェス監督はマックイーンの意見を取り入れて脚本をブラッシュアップすべく、ハリウッドから脚本家アイヴァン・モファットを招きました。
オープニングでヒルツが立ち入り禁止区域にボールを投げ込むシーンは、その際に書き足された要素のひとつだったようです。

また、オートバイの腕を買われてか、オートバイで逃げるマックイーン演じるヒルツを追うのが、マックイーン演じるドイツ兵だったそうです。

ヒルツがドイツ兵からオートバイを奪うために道路にワイヤーを張って、これにより転倒するドイツ兵の役をマックイーンが監督に申し出て、マックイーン自身が演じました。

柵越えのシーンで、当初ドイツ車のBMWではどうしても跳べず、英車のトライアンフに替えたそうです。

チャールズ・ブロンソン演じる“ザ・トンネルキング”ことダニーとその相棒(名前失念)は親友と描かれていますが、実はホモの恋人同士という設定です。
当時の規制で同性愛はタブーだったようです

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