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映画の外側 『めまい』(1958)


監督

アルフレッド・ヒッチコック

イギリス出身のヒッチコックは多くの映画監督に影響を与えました。特にこの映画の放映後に起こる1950年代末にはじまったフランスの映画運動“ヌーベルバーグ”の中心的監督であるフランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダールらから支持を得ました。

出演者

ジェームズ・ステュアート(ジョン・“スコティ”・ファーガソン)

キム・ノヴァク (マデリン・エルスター/ジュディ・バートン)

音楽

バーナード・ハーマン


あらすじ


高所恐怖症のため警察を辞めた刑事が友人から妻の監視を依頼される。その彼女が教会の鐘楼から飛び降りようとした時、追いかけて階段を登った彼は“めまい“に襲われ、彼女を見殺しにしてしまう。美しい彼女の姿が忘れられない彼は、ある日、街中で彼女そっくりの女と出会うが……。


タイトル映像

タイトル映像の刻々と変化する光のパターンを製作したのは「CGの父」と呼ばれる実験映像作家のジョン・ホイットニー・シニアと
映画のタイトルデザインにモーション・グラフィックスを持ち込んだ第一人者と言われているソール・バスの共同作業です。
初めて映画にCGを持ち込んだとされています。

CGなどのデジタル技術がなかった撮影当時にヒッチコック監督が考案した観客を惹きつけるための効果的な撮影テクニックは、その後の映画界に大きな影響を与えています。

ドリーズーム

・有名なのは「めまいショット」と呼ばれるドリーズーム。
高所恐怖症の主人公が高い場所から下を見た時の恐怖心を表現しています。これは、カメラレンズをズームインさせながら、カメラ自体は被写体から引き離す(ドリーアウトさせる)ことで、被写体のサイズが変わることなく背景だけがどんどん広くなっていくという映像が撮影できるテクニックです。逆に、カメラ自体を被写体に近づけていくことで背景だけを狭くしていくこともできます。

この手法を「鐘楼の螺旋階段にて、上から下を見下ろす」という垂直シーンで用いようとしていたそうで、スタッフがざっと見積もったところ、これにはカメラを垂直方向へ移動させるための重厚な装置が不可欠なので、その開発や設置に5万ドルもの経費がかかるとの見通しが出たそうです。


ヒッチコック監督は、「このシーンはあくまで主人公の主観映像に過ぎない。つまり、被写体として鐘楼の螺旋階段さえ映っていればそれで十分。人が映り込む必要など全くない。ならば、実寸大セットを使うのではなく、螺旋階段のミニチュアを作ってはどうか。それを真横に倒し、カメラを普通の位置にセッティングして(通常のドリー撮影で水平方向に)トラックバックしながらズーム・アップしよう。」というアイディアを出したそうです。

結果的にこのシーンだけで5万ドルかかるはずだった費用は2万ドルほどで済んだようです。




・今作は当初、『間違えられた男』で起用したヴェラ・マイルズをヒッチコックが出演を希望していましたが、ヴェラ・マイルズが妊娠して出演できなくなったため、代わりに起用したキム・ノヴァク(マデリン役)は魅惑的な女優でした。
しかし演技の態度や演出への口出しなどでヒッチコックを苛立たせたました。

また、彼女はセクシュアリティーを強調するために、全編ノーブラで出演したそうです。

カットシーン

・「めまい」には撮影はされたが本編からカットされてしまった別のエンディングがありました。
それはジュディ/マデリン(キム・ノバック)が塔から墜落死した後で、スコティ(ジェームズ・スチュワート)がアパートでガールフレンドのミッジと共にラジオを聞いているシーンです。
ラジオのニュースは、スコティを罠にはめて自分の妻の殺害計画に利用したギャヴィン・エルスターが逮捕されたことを伝えていました。
法と正義が執行され、ジュディを失ったスコティもミッジのおかげで立ち直るだろうことを予感させる内容だったが、いささかぬるま湯的なエンディングに思われたためにカットされたそうです。
画面のインパクトを強めるために、「白い恐怖」のラストのピストルを握る手のように、ラジオは実物より大きな模型を使って撮影されました。


・もう一つ
マデリンの偽装自殺のシークエンスで、塔へ走るマデリンがスコティから離れて走り始めたと思ったら次のシーンですでに大分距離を走っているという風にカットが飛躍するところがあります。
映画の他の部分にはこのような奇妙なカットはありません。
もともとこのシーンはきちんと撮影され普通に編集されていましたが、試写を見たヒッチコックの妻アルマが「走っているキム・ノバックの足が太く見えるから」という理由でその部分をヒッチコックにカットさせたそうです。

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