自分のお店と思う事

自分のお店と思う事 

「加藤さん、おはようございます」
「店長、おはようございます。声が明るいですね」
「わかりますか」
 ヨコシマスーパーの青山店長は、加藤さんの提案を受け、開店前の品出しの従業員、夕方の商品の顔を揃える方を採用したのです。2時間以上の勤務で、食事を無料にしたところ、断るくらいの応募があったのです。
 応募してきた方は、面接し、今回は定員を超えたので、断りましたが、また、機会があれば、声をかけるという約束がとれた方が、多くいたのです。
 青山店長のお店は、私鉄の駅前の団地で、学生も多く、大学生の応募も多かったのです。
 なぜ応募したのですか、と質問すると、加藤さんが提案した、食事が付いている事が、応募の動機になっている方が思ったより多かったのです。
 食事と言っても、毎日、白ご飯と味噌汁、漬物、焼き魚だけなんですが、この朝食セットを自分で作るのは、思ったより大変かもしれません。
 特に焼き魚は、厨房に、ガスの遠火で焼くことの出来る、魚焼き器が入っていたので、ガス台に載せるだけで簡単に焼くことができるのです。通常は、塩干の魚を焼いていたのですが、生の魚が大量に入った時は、サンマ、鰯などを焼いて出していたのです。
 旬の美味しい魚が食べられると、従業員の間で、評判になっていたのです。
 味噌汁は、毎日、出汁をきちんと取っていたので、美味しいとこれも評判になっていたのです。
 ヨコシマスーパーでは、新人教育で「自分のお店と思ってください」と教育します。
 一般的には、お店は、お客様のもの、株主の物と教育しますが、売り場の商品、売り場の床などは、自分のもの、自分の大切な方に食べていただく物として、考えてくださいと教育します。
 もう一つの教育は、古いと汚いは異なり事を教育します。ヨコシマスーパーの床は、確かに古くなってきていますが、毎日磨き混まれている状況になっています。
 良く、教育で伝える事は、包丁は、切れるだけで無く、毎日磨き混んで光っていることが大切です。車も自分の車であれば、磨いて、ワックスを掛け、水で濡らすと玉になるようにワックスを掛けると思います。包丁も磨き混むと、水で濡れた時に、水玉になるまで、磨く事が必要と話します。
 しかし、もっとも大切な教育は、自分の大切な方に食べてもらう商品を取り扱っていると言うことを教育することです。
 新人教育を行うと、教育を受けた方から、提案が出てきます。
 ヨコシマスーパーでは、品出しをするときに、手に怪我をしないように、一般的な軍手をしていました。もちろん軍手は、新品を使用し、汚れてきたら交換していたのですが、段ボールを開けるときに使用した、軍手で、そのまま、中の商品を触り、並べるのは、違うので無いですか、との意見があったのです。
 確かに、段ボールを触ると、軍手が汚れる事があるので、そのまま、大切な方が食べる商品を触ることは、気になるかもしれません。
 提案を受けた青山店長は、直ぐに、段ボールを開けるときは、今まで通りの軍手で、商品を並べるときは、薄い手袋に交換したのです。手袋は、プラスチック製の使い捨ての物より、洗って何度でも使える方がいいとの意見もあったので、洗える物にしたのです。
 自分のお店との教育をすることで、脱プラスティックの考え方も、従業員の中に自然に広まったのです。手袋を洗う方法も、休憩室で洗ってロッカーの中で干しているかた、家に持って帰って干している方など様々ですが、特に指定はせず、自分のお店と思って行動することを認めて、自主性に任せたのです。
 もちろん、手袋を洗うために必要な洗剤、シンクなどは、提案があるたびに、準備したのです。
 他店の品出しを見て見ると、汚れたままの軍手を使用している、品出し前の商品を直接床に置いている、特にひどいのは、冷凍食品を大量に売り場に置いて、商品の入った段ボールを床に並べて、品出しをしている所でした。
 アイスクリームなどは、バックヤードの冷凍庫も、-25℃以下のアイスクリーム専用の物を使用しないと、溶けてしまうのに、まったく気にすること無く、大量に台車に載せている光景を見たときには、私は驚きました。
 冷凍食品のチャーハン等は、一度溶けてしまうと、パラパラとするおいしさを感じることが出来ない別物の商品に変化してしまうのです。
 冷凍庫のケースに入れてしまえばどうせお客にはわからない、と言う発想ではなく、自分の大切な方が食べる商品であることを忘れてはならないのです。
 夕方の顔を揃える、従業員を増やした所、万引きの被害が、目に見えて減ったのです。
 万引きを、毎日、見かける事もあったのですが、棚卸しを行った所、大きな数字に表れるくらい減耗が減ったのです。
 従業員を減らして効率を上げることを、本部から言われていたのですが、夕方の従業員を増やすことで、減耗が減り、減った減耗のお金で十分人件費をまかなうことが出来たのです。
 なにより、お客様が、何時来店されても、綺麗な売り場で迎えることが出来るようになったのです。

あくまでも、架空のお話です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?