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モーツァルトのレクイエムを歌う 4

本番1週間前になると、マエストロによる合唱指導の機会が設けられた。
今回の指揮者である西本智美さんは女性なので、なんとなく神経質そうな偏見を持っていたのだが(実際音楽関係者には神経質な、線の細いタイプもいる)、私の事前の予想に反して、指揮も指導もわかりやすかった。
声は低く背は高く、男性的な雰囲気があって、指揮をする姿はとにかく格好いい。一流の人物というのはえてして腰が低いが、西本さんの場合は女性で、おそらくそれに伴う苦労も多かったのではないかと思うし、やはり偉そうにしていてはオケも、合唱がいる場合は合唱も付いてこないので、柔らかい雰囲気をまとっておられるのかもしれない。しかも彼女は大阪出身であるらしく、関西の訛りがあるのも、逆に好ましい。

指揮者という人種は概して、恐ろしく耳がいい。西本さんの場合も、ホールの残響を考慮して、最終的な振り方を決めるという。指揮者による合唱指導が行われたホールは、本番のホールとは違うホールだったので、オケ合わせの時に現場の音を聞いて、最終調整するという話だった。

指導は初めのほうの曲に時間を使いすぎて(それだけ合唱に問題がある、ということだったのかもしれないが)、後半時間が足りなくなっていく。もっとも、モーツァルトレクイエムの場合は、前半の、モーツァルト自身が作曲したところのほうが、重要かつインパクトの強い箇所が多いので、その時間の使い方で問題ないのだが。
練習時間が残り1時間となったところで巻きが入り、ちゃんと予定通りに練習が終わったのも、さすがプロだ。

指揮者指導は、通常の毎週火曜日の練習とは異なり、土曜日夜に余分に設けられたものだったが、翌週火曜日の通常練習の時に、合唱指揮者が、西本マエストロの指導を完璧に再現したのには舌を巻いた。テンポも完璧に再現した。その際に合唱指揮者は、BPM(1分当たりの拍数)まで把握していた。合唱指揮者というのは、テンポを体感として会得しているのか、もしくはメトロノームでも持っていって測定していたのかは不明だが、ともかくBPMを把握されていた。どの世界でもプロというのはすごい。

そんな合唱指揮者のおかげで、土曜日に行われたマエストロ稽古の指導内容が、火曜日の通常練習で完璧に復習できて、助かった。それを合唱団が(というより私が、かもしれないが)完璧にマスターしているかどうかということは、また別の問題だが、いずれにせよ、人間は忘れっぽい動物なので、復習は大切だ。

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