免疫②
◎免疫応答(一次応答)
●免疫応答(一次応答)の流れ
①
樹状細胞やマクロファージ(抗原提示細胞)が食作用を行う。
病原体やその構成成分(抗原)が取り込まれる。
②
樹状細胞等は近くのリンパ節に移動しながら抗原提示の準備を行う。
すなわち細胞内に取り込んだ抗原をMHC(主要組織適合抗原)と結合する。
このように抗原提示に必要な構造を準備する。
最後はそれを細胞膜に運んで、細胞外に向けて情報発信する。
つまり、細胞膜を掲示板みたいに利用する。
③
T細胞受容体が抗原提示細胞に提示された抗原-MHC複合体を認識できる場合、すなわちT細胞受容体とその複合体と結合できる場合は、そのT細胞は活性化される。
④
活性化されたT細胞がヘルパーT細胞と呼ばれるタイプの場合は、同じ抗原を認識できるB細胞を活性化させる(この時、抗原提示細胞はヘルパーT細胞によってますます活性化し、より強くT細胞を活性化させることができるようになる)。
その結果、活性化されたB細胞は増殖・分化(抗体産生細胞に変化)し抗体を分泌するようになる。抗体は抗原に結合することで塊を作り出したり、その病原菌の活動を阻害する。
さらに、別のタイプのキラーT細胞が抗原提示細胞によって活性化された場合もやはり最初は急速に細胞が増殖・分化がおこる。そして、活性化されたキラーT細胞は認識可能な抗原を提示する細胞を破壊し始める。すなわち、細胞ごと敵を殺してしまう。
⑤
このように活性化されたヘルパーT細胞は直接及び間接的に食作用やリンパ球による反応を促進する。
⑥
免疫反応が終結すると、一部のB細胞やT細胞が記憶細胞として残り、二次応答で活躍する。
●二次応答
同一抗原の再感染時には記憶細胞(免疫記憶の中心)が迅速かつ強力に反応する二次応答がおこる。
●アレルギー
過剰な免疫反応はアレルギーを引き起こす。(花粉症、アナフィラキシー)
⓪ IgEの産生
① マスト細胞にIgEが結合
② IgEに抗原が結合
③ マスト細胞はヒスタミンなどを分泌する。
● 抗体(B細胞受容体)の構造とB細胞
●抗体
抗体はγ(ガンマ)グロブリン(免疫グロブリン)というタンパク質である。これは抗体産生細胞(=形質細胞:分化したしたBリンパ球)から放出される。
分化前のB細胞では受容体として発現しており、B細胞が行う食作用に利用される。B細胞は骨髄で分化する。
●構造
抗体は長い H 鎖 2本と短い L 鎖 2本の計4本のポリペプチドが、S-S(ジスルフィド)結合によってY字型に結合した分子である。
N 末端の可変部(抗原結合部位)の部分が多様な抗原のどれかと結合する。その他の定常部は抗体に共通で補体や食細胞と結合しそれらを活性化する。
●抗体の多様性とモノクローナル抗体
・ B 細胞の遺伝子は再構成され、各 B 細胞は異なる単一の抗体をつくる。
抗体遺伝子は数百個なのになぜあらゆる病原体に抗体が結合可能?
抗体の可変部領域の遺伝子情報は、V領域、D領域、J領域などに分割されている。さらに、各領域とも複数種類の遺伝子情報を持っている。これらが組み合わされて多様な抗体が作られる(イメージはレゴ)。
B細胞の分化に伴う遺伝子再編成では、H鎖の可変部はV領域(約300種)、D領域(約20種)、J領域(約6種)の部分の組み合わせから、L鎖の可変部はV領域とJ領域の遺伝子の組み合わせから決まる。
結果的に、莫大な多様性
が生じ、あらゆる抗原に反応(結合)できる抗体が作られる。
不要な(選ばれなかった)遺伝子は消失するので、1つのB細胞(当然、それらの細胞から分化した抗体産生細胞も)は1種類の抗体しか作れない(モノクローナル)。
●クローン選択
あらゆる病原体に対して機能するが、自己には反応しないリンパ球が機能する仕組み
骨髄において、未成熟なB細胞は自己由来の抗原と反応するとアポトーシスを起こして排除され(免疫寛容の成立)、非自己の抗原にのみ反応するB細胞が選抜される。そして、これらが抗原と出会うと増殖する。
● T細胞受容体の構造とT細胞
T細胞受容体は2つの異なるポリペプチドから成る二量体タンパク質である。これはB細胞同様に可変部と定常部を持ち、可変部の遺伝子は再構成され各T細胞は異なるT細胞受容体をつくる。
ただし、B細胞とは異なり、T細胞はMHC(主要組織適合抗原)に挟み込まれた抗原にのみ反応する。そのため抗原提示を受けるのはT細胞のみとなる。
・拒絶反応とMHC
T細胞がMHCの型の違いを見分けるため、拒絶反応が起こる。
MHCは遺伝的な多様性が高くほとんどの場合において個人ごとに異なる。
そのため、生まれて間もない子供以外では他人のMHCを利用して抗原提示が行われるとそれを異物、すなわち抗原として認識する(MHCが抗原提示に使われるため)。
ただし、ヒトなどの生物では生まれて間もない段階で、自己のMHCに反応するリンパ球が除かれるという反応が生じるため、その期間に移植を行えば拒絶反応は起きない(起きにくい)。これを免疫寛容と呼ぶ。
・ 正の選択、負の選択(自己・非自己の成立過程)…
T細胞は胸腺で分化するが、この際、自己由来の抗原に反応するものは排除される。
正の選択:
胸腺上皮細胞でMHCと自己抗原の複合体に適度に結合するもののみが増殖(MHC拘束性)ここで、T細胞は自己のMHCの型(タイプ)を覚え、自己の認識が成立
負の選択:
胸腺上皮細胞や抗原提示細胞のMHCと自己抗原の複合体に過度に結合するものが排除される。
胸腺上皮細胞:
様々な細胞で発現するタンパク質をつくることができる特殊な細胞。ただし、胸線はすぐ老化する。
● 適応免疫に関するまとめ
あらゆる抗原に結合できる抗体遺伝子が形成される。しかし、その反面で自分を攻撃するような危険な細胞たちも生じてしまう。そのため、これらは除去され(負の選択)、非自己にのみ上手く結合できる細胞のみが選抜される(正の選択)。
★免疫関係の色々
身の周りには無数の病原体が存在している。しかし、私たちは毎日病気になったりはしない。なぜなのだろうか。
これは生体防御のおかげである。免疫不全だと基本的にずっと病気である。
生体防御、特に免疫 (Immunity) の研究は病原体との戦いだった。コレラやペストなど感染症が流行ると西洋では多数の死者が出た(そして、国が滅んだりした)。
この際、教会や騎士団が病人を看病するので多くの聖職者も死んでいった。だが、中には治癒するものもいて、彼らは神聖視された。なぜなら、彼らはその病気の患者と接しても同じ病気には二度と罹らなかった(神の御加護と考えられた)。そのため、彼らは教会からの税が免除された(immunitus:ラテン語で課税免除)。これが、免疫(Immunity)の語源である。
一度病気に感染すると、より素早く強力に、その病原体に反応できるようになる(重症化せず病気の症状が出にくくなる)。これは体が病原体のことを記憶するからであり、免疫記憶と呼ぶ。
●免疫の医学との関連
エイズ( AIDS )…
主に獲得免疫を阻害し、日和見感染を引き起こす病気。HIVがヘルパーT細胞に( 後天性免疫不全症候群 ) 感染し、獲得免疫の活性化を阻害する。ただし、免疫全般の機能調節にも関わる為、免疫全体が弱まる(免疫不全)。
予防接種…
ワクチンを接種して、病原体への抵抗力をつくらせる。
*ワクチン
抗原として接種する物質(不活化・弱毒化した病原体、及び病原体の成分)
*仕組み
二次応答の準備(ワクチン⇒ 獲得免疫の活性化⇒ 記憶細胞の分化)
血清療法…
馬などに病原体や毒素を注射して抗体を作らせる。これを血清として取り出して患者に注射し、症状を抑える(抗原抗体反応を利用)。毒性の高い病原体などで有効である(獲得免疫が成立するまでに、個体が死ぬ危険性が高いため)。しかし、何度も使うと、血清中の抗体自体に反応してしまうので多用はできない。
アレルギー…
Ⅰ~Ⅳ型まであるが高校等では主にⅠ型を指す。過剰な免疫応答の事(特に粘膜で起こる)。
アレルギーの仕組み
①体液性免疫で抗体(IgE)が作られ、抗原が除去される(一次応答)。
②再び同じ抗原に接すると、二次応答が起こり大量の抗体が放出される
③抗体の定常部(C末端)が、
肥満細胞(マスト細胞)の細胞膜の受容体に結合
④肥満細胞の細胞膜上に結合している抗体の可変部に、抗原が結合
⑤肥満細胞が活性化し、ヒスタミンなどの物質が放出される
(生体防御を促進)
⇒ 粘液の分泌促進、血管の拡張、腫れが起こる。
その結果、涙や鼻水、鼻詰まり等(気道の閉塞)が起こる。
ABO式血液型…
赤血球の細胞膜表面にある糖タンパク質には遺伝的にいくつかの型(A、B、O)がある。これを凝集原という。
免疫は非自己を攻撃するので、A型のヒトにB型の血液を輸血すると、前者のリンパ球は後者の赤血球を非自己と見なして抗体で攻撃する。その結果、抗原抗体反応で赤血球が凝集する。
赤血球にはMHCが無いが、代わりに凝集原があるため、自己・非自己の目印に利用されている。この際に働く抗体は、特に凝集素と呼ばれる。
A型… B型に対する凝集素を持つ
B型… A型に対する凝集素を持つ
AB型… 凝集素を持たない
O型… A、B型に対する凝集素を持つ
⇒ 膜に糖タンパク質が無い。
ツベルクリン反応…
結核への免疫の有無を調べるためのアレルギー反応。結核菌のタンパク質を皮下(Ⅳ型〈遅延型〉) 注射し、一次応答と二次応答のどちらが起こるかをみる。免疫記憶が成立していれば、数日で炎症や腫れが見られる。
一次応答の際はBCGというワクチンを打つ。結核菌は細胞内で増殖するため、免疫記憶を行うのは細胞性免疫に関わるT細胞である。
臓器移植…
体を構成するほとんどの細胞には個人ごとに決まった他人とは異なる型のMHCが発現している(家族の場合は、兄弟で4分の1の確率で同一となる)。そして、生後間もなく胸腺においてT細胞がMHCのタイプを学習し、リンパ球が自分の細胞のMHCに反応しないようになり、自己、非自己の認識が成立する(免疫寛容)。
よって、ある程度成長した後に他人の臓器(細胞)を移植すると、MHCのタイプが自己のものと異なるため免疫応答が起こってしまい、それらを排除しようとする。これを拒絶反応と呼ぶ。
ただし、赤血球はMHCを発現しない細胞であるため膜表面の糖タンパク質等が同じであれば容易に移植(輸血)可能である。
・なぜMHC(HLA)が多型なのか?
MHCが1つのパターンしかない場合、ウイルスなどの病原体はそれさえ逃れることができれば免疫から攻撃されなくなると考えられる。つまり、病原体の方が有利になる。構造としても、MHCが多様であるほうがいろいろな形の抗原を提示することができるので、つまり抗原提示の強さや構造を変化させることができるので様々なMHCが存在した方が良いと考えられる(平衡多型)。
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