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週刊少年誌のラブコメ史 概観 Part 2/2

どうもこんにちは。
アニヲタの、マガジンで最近連載が始まった『真夜中ハートチューン』に編集部の戦略を勝手に読み取っている方、山本です。
きっと「複数ヒロインのハーレムもので、主人公は秀才だがすこしズレている」というフォーマットをもう少し運用してみよう、ってことなんだろうな〜。

さて、週刊少年誌のラブコメ史概観、前回(Part 1/2)はジャンプ・マガジンについてみてきました。

今回はその続きとしてサンデー・チャンピオンのラブコメ事情についてみていき、最後に本コラムシリーズ全体を総括して終わりたいと思います。


時代の先陣を切るサンデー

サンデーの掲載作品中のラブコメ作品割合の推移を以下に示します:

2000年代前半にラブコメらしいラブコメがいったん途絶えたものの、他の期間は平均的に高いパーセンテージを示しています。
期間平均は11%。
つねに2,3本はラブコメが掲載されている感じです。

マガジンの、近年のラブコメ割合急増で底上げされた期間平均14%と比べると少ないですが、サンデーで着目すべきは数ではなく他誌に先んじてラブコメを採用している点だと思います。

それが顕著な時期が1980年代と2010年前後でしょうか。
少年誌らしい硬派な作品が大勢を占め、ラブコメというジャンルがまだ目新しかった時代に18%(3本)、他誌のラブコメの勢いに陰りが見えはじめた時期に25%(6本)をそれぞれ記録しています。

主要なサンデーラブコメ作品を見てみましょう:

予想はしていましたが、圧倒的な高橋留美子・あだち充 率です。
主要作品としてここでは11本を取り上げましたが、その半分強が両先生の作品という結果になりました。

『H2』はラブコメか? と悩みましたが、私が昔読んだ記憶をたどっても野球シーンはほとんど憶えておらず(「ロージンバッグを使え、国見!」くらい)、部活のエースとマネージャーの控えめな交際の様子が強く印象に残っていたので、その印象を信じてここではラブコメとしました。

次にこれらの年代表を見てみます:

ぱっと見で2000年あたりを境にして大きく左右に分かれている様子がうかがえます

左側のグループは他誌がまだラブコメにそれほど重きをおいていない中サンデーだけが複数のラブコメを掲載していた1980年代を含む時期です。
主役はもちろん高橋・あだち両先生。
お二人の4作品『うる星やつら』『らんま1/2』『タッチ』『H2』の単行本発行部数は総計3億2千万部超。単純計算で、すべての日本人がこれらの単行本を2,3冊は持っているという驚異的な部数です。
サンデーラブコメが確立された時期、という以上に、1980年代のラブコメブームをサンデーが牽引していた時期と言えるようです。

右側のグループはサンデーが週刊少年誌では初めて6本ものラブコメ作品を掲載した2010年を含む時期です。
高橋・あだち両レジェンドと新人ラブコメ作家が競演するサンデーラブコメ継承期といえるでしょう。
こちらのグループの累計発行部数的には1980年代の一次ブームに遠く及びませんが、大事なのは、サンデーが他誌に先駆けてラブコメの可能性をあらためて示したことだと思います。
事実、2013年から2015年まではすべての他誌のラブコメ作品割合が上昇していますし、マガジンとチャンピオンは2020年以降も高い割合を維持し続けています。

ラブコメ割合推移グラフ再掲。2010年前後のサンデーの英断(黒矢印)に触発されてか、他3誌もラブコメ割合を増やしています(黒点線囲み)。

この一連の流れをみるに、第二次ラブコメブームの火付け役はサンデーといってよいでしょう。

仮に他誌に影響を及ぼしたように見えるのが単なる偶然だったとしても、サンデーがラブコメ作品の割合を4分の1にまで増やしていったことは(他誌のラブコメ割合が軒並み数%程度だった当時としては)かなり思い切った決断だったと推測しますし、サンデーのラブコメに寄せる信頼の大きさは本物だと感じます。

「ラブコメならサンデー」との自負に偽りなし。胸熱です。


我が道をゆくチャンピオン

「ヤツは四天王の中でも最弱…」と言われる(?)チャンピオンですが、ラブコメに絞ってみてみるとどうでしょうか。

下の図は掲載作品中のラブコメ作品割合の推移グラフです:

マガジン・サンデーのあとに見ているせいもあって、「少なっ」の印象が拭えません。
2020年前後からは13~16%(3, 4本)と、ブームに乗ったラブコメ割合を示してはいますが、期間全体の平均は5%とジャンプよりも小さく、1995年くらいまではラブコメに一切興味なしの姿勢を貫いていたようです。

そして、ラブコメで大ヒットした作品もほとんど無いようでした。
チャンピオンの主要なラブコメ作品のリストも以下の通り寂しいものです:

私が調べた限りでは『実は私は』以外に100万部を突破したラブコメ作品は見つかりませんでしたし、個人的な実感としても、チャンピオンの代表的なラブコメとして思い当たる作品はひとつもありません。

チャンピオンはかつて『ブラックジャック』や『ドカベン』などの有名作が多く輩出し、今も『グラップラー刃牙』『浦安鉄筋家族』などのシリーズ作品が現役で掲載されている名門といえますが、ことラブコメに関しては他誌の後塵を拝していると言わざるを得ないようです。

チャンピオンには他の三誌とは一線を画したクセの強い作品が多い印象がありますが、現在掲載されているラブコメ作品は案外フツーというか、べつに他誌に載っていてもたぶんそんなに違和感ない印象があります。
それはそれでアリなのですが、個人的にはそれがすこし物足りないと感じました。

チャンピオンは掲載作品のジャンルの振り幅が極端すぎて、正直、どういう気持ちで一冊を読み進めればいいのか分からなくなることがよくあります。
一方で「オレ今チャンピオン読んでるな〜」と雑誌のカラーをこれほど強く意識させてくれる週刊少年誌は他にないとも思っています。

チャンピオンにはそんなチャンピオン感あふれるクセつよなラブコメ作品をもっともっと世に送り出して欲しいと心から思っています。

がんばれ、チャンピオンラブコメ〜!


まとめ

以上、四大週刊少年誌のラブコメ作品を整理してみましたが、予想していた以上に、各誌の性格が浮き彫りになったように思います。

ラブコメに絶大な信頼を寄せ、自身の大切な柱のひとつとして扱っているサンデー。
同じくラブコメの可能性を信じ、今では誌面の半分近くを使って読者に奉仕するマガジン。
ラブコメへの拘りは見せずとも内容には拘り、質の高い作品を発信するジャンプ。
ラブコメ戦線では辺境の地、これからどうなるのか予測不能ッッなチャンピオン。

各誌の主要なラブコメ作品をもう一度まとめてみましょう。

ここで取り上げた主要な作品の数と累計売上を参考にすると、ラブコメへの力の入れようはサンデーがもっとも強く、ついでマガジン、その後にジャンプ、かなり遅れてチャンピオンといったところでしょうか。
ただ、近年の状況だけみていると、飛び抜けた大ヒットのないサンデーとラブコメ掲載割合0%のジャンプはやや元気がなく、累計1000万部超の作品を複数擁するマガジンや高ラブコメ掲載割合を5年以上維持しているチャンピオンの方が勢いのある印象です。
マガジンがサンデーを追い越し、チャンピオンがジャンプを喰う、そんなダブル下克上に果たしてなるかどうか…。

全誌のラブコメ年代表を合併するとこんな感じです:

こうして並べてみると、二度のラブコメブーム(1980年代・2000年代後半以降)はおもにサンデーとマガジンによって支えられていたこと、ジャンプとチャンピオンはわりとマイペースを貫いていることなどが改めてわかります。
こういうところにもラブコメに対する各誌の態度の違いが現れているのが面白いです。

ラブコメ作品にその掲載誌らしさはあるか、という視点でみると、サンデーのラブコメは質・量ともに充実しておりマガジン同様サンデー感を見いだせそうな気がします。
高橋・あだち両先生の作品のみでサンデーらしさを説明できてしまうのか、それとも第二次ラブコメブームで台頭した作品が新たならしさを持ち込んだのか。そのあたりがカギになりそうです。

ジャンプのラブコメはサンデー・マガジンと比べるとボリュームがワンランク小さいので、ジャンプらしさというほどの空気感を形成できているかというと少し微妙な気がしています。
ここ最近の傾向だとアニメ寄りの安定した絵柄がジャンプラブコメの特徴のようにも見受けられますが、桂正和先生や河下水希先生はまたそれぞれ違う画風なので、まだ一概には結論できそうにありません。

チャンピオンのラブコメにチャンピオンらしさを感じるには現状まだまだヒット作が足りていないと言っていいでしょう。
人外ラブコメを標榜する『実は私は』のスマッシュヒットを突破口として、他誌とは一味違うラブコメを今後量産していけるのか、チャンピオン編集部の手腕に期待です。

ということで、本コラムシリーズはここまでです。
長々とおつきあいいただき、どうもありがとうございました。

次回はサンデー感についての検討結果をまとめていくつもりです。
年内の公開を目指します、くらいのスケジュール感ですので、気長にお待ちください。

投げ銭・コメント・ご質問など、軽率にどうぞ