2023年アニメ映画・3月

ドラえもん のび太と空の理想郷

 6点。あまり印象に残らなかった作品。オーウェル「1984年」の変わり種といった感じだが、子供向けらしく単純一途なので、へえ、という感じ。空を飛ぶ島に理想郷があって、そこでは競争や迫害はなく、全ての人間が幸福に暮らしている。ただし、それは科学技術によって利他性を強められた結果であり、本来の人格は抑えつけられていたのであった。のび太の演説によって仲間たちの洗脳は解け、未来の警察も踏み込んで島は崩壊する。最後に自爆装置が発動した島をソーニャ(猫型ロボット)が安全な場所まで運ぶが、爆発に巻き込まれて死ぬ。
 空を飛ぶシーンなんかは結構よくって楽しめたが、話の筋はどうかと言うと、どうなんだろう、って感じ。根本的には人の心理を捻じ曲げるのは間違っているという話になるのだが、ジャイアンの粗暴な性質に関しては治した方がよいと思えることもあるわけで、個性的なら何をしても許されるのか? という気分にはなる。また、アンガーマネジメントなんかの否定と言えなくもなく、矯正と抑圧の微妙な差異が気にかかる作品である。
 マリンバは理想郷の秘密を明かすためのキャラクターなのだけれど、早々に天道虫にされるという、未来の倫理観ってヤバいな、という事態に陥るのでイマイチ恰好がつかない。ラストも、まあそうなるよね、というかソーニャとしては人間を監禁したうえ、その人の個性や自我を奪った(騙されていたとはいえ)ことへの罪滅ぼしに当たるわけだから、意味は理解できる。けれども自己犠牲とは安易である。更に言ってしまうと、未来の警察が大規模ワープをしているシーンがあり、じゃあ島もワープさせろよとなるので、筋が通らない感じになってしまう。そもそもドラえもんの世界設定だと時空間がかなり自在に制御できるので、座標が分かっているならタイムリミットというが成立しない。それもラストがヘンテコに思える原因である。要するに、タイムマシンとどこでもドアの高出力版があれば、大抵のことは何とかなってしまうのだ。他の作品だとドラえもんがポカをするので、そういうことができない理由が示されるのだが、今回は未来政府という大物が介入しているため、そういった誤魔化しがきかず、収まりが悪くなっている。
 本作に出てくるユートピアは、トマス・モアを踏襲している面があり、マルクス「ゴーダ綱領批判」に出てくる真の共産主義社会にも近しいところがある。まあ、マルクスの場合は個性や自由を重視している面があるので、本作のような調教・改造的なユートピアを認めるかは謎だが。
 ユートピア描写の問題点は、先にも述べた、個性はそれが残虐なものでも認められるべきなのかという点と、あの島に救われた人の心的描写が皆無な点である。
 前者の典型はジャイアンで、あの暴力的な性質は、現実社会だと刑務所か心療内科で治療されるべきとされるのではないか? その場合、治療は個性の抑圧ゆえに悪なのだろうか。またアンガーマネジメントによって感情を制御するよう推進することと、個性の抹殺は対立する問題であるが、なぜ前者は合理的と見做されるのか。個性についてはそうした問題があるけれど、本作は子供向けだからぼかされている。
 後者についても、様々な時代から住民は集められているため、生まれた場所で生きるより島で暮らした方がいいという人はいる筈で、そのような島が救ってきた人物を闇に葬ったのは納得がいかない。救済として機能していた面に目を背けたのは底が浅い。

きかんしゃトーマス めざせ!夢のチャンピオンカップ

 3点。子供向けではあるが、子供が観て面白いのかこれは、と観ながらずっと思っていた。ドラえもんやアンパンマンは大人が観ても多少良いところがあるし、子供も面白いんだろうなあ、とは感じるが、これについては意味不明とかではなく、ただただ退屈。まあ、書いていて思ったが、対象年齢が二歳とかそれくらいなのかもしれない。ストーリーよりトーマスが動いているのが大事なんだろう。それでもトムジェリの方がいいと思うが。
 レールから脱線するネタを三回も擦るのはやりすぎ。見ている側も飽きるし、脱線パターンを捻るならまだしも、毎回速度出し過ぎで終わるのは視聴者を舐めているとしか思えない。そんなにくどくど言わないと、子供は覚えられないと思っているのか。 
 キャラがちょっと難ありなのもネックで、カナなんか同じミスを短期間に繰り返していて、こいつは何をやっているんだろうと思った。あと、トーマスは凄い地味で、セリフが多いからメインキャラって感じだが、あまり目立ってなかった。レースに出て活躍はするんだが、内面的にはちょっと平板。出場するかどうかにもう少し葛藤は欲しいと思う。
 全体に道徳的な作品であり、因果応報な点や失敗を反省する点は子供に安心して観させられる要素だし、絵本的といえばそうだが、ひねりが欲しいとも思う。まあ、初めて観る映画なら絵も割といいし、それなりである。ただし観易さ、分かり易さ重視なので、凝っているカットはない。逆に言えば、絵で説明するのが上手いともいえる。二本以上アニメ映画を観た子供には、もうダメだと思うが。

グリッドマンユニバース

 7点。グリッドマンの最終形態。マルチバースを導入したので、この先無限に話は繋げられるが、このIPは果たして続くのだろうか?
 テレビ版を観たのが結構前で、特に「ダイナゼノン」は薄っすらとしか話を覚えてなかったが、あまり問題なかった。ほぼ「SSSS.GRIDMAN」に絡む話なので、そっちを覚えておけば良いって感じ。ファンムービーとしてはかなり面白いし、戦闘シーンも含め絵はかなり良かった。バトルのエフェクトなんかがいい。ただ、ラストのバトルシーンはカメラが死ぬほど動き回るので、何が起きてるのかよく分からず、置いてけぼりを食らってしまった。あれは他の観客は理解できてたのだろうか。あと、普通に酔った。
 細かいことをぶっ飛ばしている話で、グリッドマンが宇宙になった原理も、グリッドマンって結局何なのという疑問もまるで解消されなかった。アレクシスもよく分からん存在だし、ラスボスも何だったのか……。とはいえ、そういうのを受け入れているシリーズファンが観る、一見さんお断りムービーなので、ケチをつけるわけではない。
 「ダイナゼノン」が実はグリッドマンの作った宇宙でした、というのはかなり衝撃を受けたし、裕太と六花のラブロマンスも一応オチがついて、視聴者としては満足だった。前者については取って付けた感があり、なるほど、というよりは、そんなのあり? という風に驚いてしまった。まあ、ユニバースとタイトルについているので察せられそうではあるけれど。
 放り投げて終わったのは割と不服な点で、多分三期を狙ってるから敢えて余白を増やしているんだろうとは思うが、それでもなあ、という感じ。グリッドマンやラスボスの正体、怪獣使いの姫が生きてた理由などは出すだけ出して放っておかれていた。また、今回はよくテーマが分からなかった。裕太がグリッドマンを救うという負うた子に教えられて浅瀬を渡るというネタが根幹だったのか? 全体的に、裕太の恋愛や蓬とガウマの別れといったテレビ版の宿題を片付ける作品で、独自の何かはあまり分からなかった。

劇場版アルゴナビス AXIA

 5点。割引の日に観て本当によかった作品。多分、通常料金だと不満タラタラだったと思う。観たのは松竹系のムビックスという映画館なのだけれど、大手シアターだというのに、観客が自分しかいなくて驚いた。こんなことは「100日後に死ぬワニ」以来である。そんなに人気ないんだろうか? 確かに映画もテレビシリーズも駄作ではあったが。
 テレビ版はストーリーがありきたりで、「ギブン」の方がまだ山あり谷ありではある。ドラムの万里が色々あって体に障害を負ってしまう点はケータイ小説的だなと思いつつ、こだわっている部分だと思うが、そのままライブに出てしまうのはどうなのか、とは思った。普通にドラマー生命に関わるという話があったから、何を考えてるのか。それが追い詰められていて最後のチャンスとかならまだしも、売れ始めていて、となるとライブ一回くらい待てないものかと感じてしまった。ドラム叩けなくなったらどうする気だったんだろう? メインキャラはなんかちょっと凡庸。才能のなさを気にするギターの五稜には、それでも諦めないところにぐっと来てしまった。まあ、でもこいつと的場弟以外にまともな奴いないから、もうちょっと常識人であることを誇ってもいいとは思うが。
 テレビ版はともかく映画の話をすると、CGの映像と手描きが織り交ぜられる構成で、回想は手描きになっている。テレビのCGはなんかカクカクしていたが、映画はやや解消されていた。
 だいぶ前に観たので、ちょっと記憶が曖昧。それだけ印象に残らなかったということでもある。話の主軸は、父から那由他へのDVで、何か普通に見ていて辛くなる話である。しかも誰も助けてくれないというハードモード仕様。那由他があまり人に頼らない性質のため、結局他人からの助けがあったような、なかったような感じで話は終わってしまう。一応、那由他自身は父からの無碍な圧力には自分で決着をつけ、音楽で見返すことを改めて決意するというところで終わる。ここら辺は「キルラキル」みたいにお気持ちを叫び合うという謎の場面である。因みに父親もかなり謎で、虐待シーンでなんかよく叫んでいた。絶叫映画といって差し支えない。ヘンテコだが、ライブシーンを押さえて、本作の白眉たる熱量があった。
 那由他がバンドメンバーとの絆を確かなものにするという筋でもよかったように思うが、孤高の天才という位置づけをズラすわけにはいかなかったのか、基本的にメンバーが悶々とするだけで終わる。気持ちのぶつけ合いはしても話し合いはないという、解散寸前のバンド感が漂っている。話がつまらない原因は、那由他が変化も成長もしない点で、もちろん彼に依存しているバンドメンバーも大して変化しない。そのため物語の起伏に乏しく、ダラダラした感じになっている。
 なお、GYROAXIAと那由他パパの曲はかなりイカしてる。

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