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追放王女と傭兵団長 ~王女は傭兵団長に奴隷として買われる~ 第一章・第1話~第4話
【この物語を読むかどうか? の判断に利用してください】
こんにちは、作者の天音朝陽です。
タイトルなどに興味を持っていただき、ここを覗いてもらっていると思います。
■あらすじは、異世界ファンタジーの世界観の小説でよくある『大変な目にあったお姫様が、強い男に惚れられて~逆襲』に似た感じの、ややテンプレに沿ったものです。
①追放された凛々しくも可憐な王女を、獣のように逞しい傭兵団長が奴隷として買います。
②王女は団長からは最初ひどい目にあいます。それでも王女は、鍛えたり、悪知恵を身につけたり、仲間を得たりして乗り越えていきます。
③様々な事件がありますが、王女と団長ってけっこう仲良いんじゃ? 的な流れに。
……みたいな感じです。
50~60話完結の予定。
主要キャラが死んだり、バッドエンドにはなりません。
■この物語の楽しむ部分は
・細かい人間模様、キャラクターの色んな意味での成長、傭兵団の生活
・傭兵団長と王女、それぞれの企み
・ふたりの恋の行方
・エロ(序盤はエロ多めです)
・ときどきアクション
・本当の自分に立ち返ってゆく王女
・ハードボイルド的な傭兵団長の生き様
これらの要素を楽しむ作品にしております。
異世界ファンタジーの分類ですが、モンスターや魔法はほぼ出てきません。しかし、剣での戦い、剣を用いなくても格闘術での戦いのシーンはそれなりにあります。
性的描写がかなり入れてあります。甘々ではない性描写が多いです。それがある回はタイトルで分かるようにしてあります。嫌悪感を催すような描写、下世話な描写はしておりませんが苦手な方はご注意ください。
最後に、現在確定しております目次をコピペして貼っておきます。これを眺めるだけでも貴方にとって『読んでみるかどうか?』の判断材料になると思います。
では、良かったら作品でお会いしましょう!
【傭兵団長】ルーヴェント 【王女】ベアト(ベアトリーチェ) 【王女のライバルの傭兵団員】カシス
第1話 ルーヴェントとカシスは森に潜む
第2話 ベアトの輿入れ行列は襲撃される
第3話 連れ帰った女は暴れる①
第4話 連れ帰った女は暴れる②
第5話 ベアトは奴隷として買われる
第6話 ベアトを風呂場でわからせる
第7話 ベアトを寝室でわからせる
第8話 ルーヴェントとカシスは訓練をする
第9話 ベアトは風邪をひき悪夢を見る
第10話 ベアトは脱走する
第11話 ベアトはヤク中娼婦の扱いを受ける
第12話 ベアトは法的に説明される
第13話 ベアトは茫然自失となる
第14話 ベアトは剣術師範になる
第15話 ベアトは侍女ロザリナが捕らわれていると知る
第16話 ベアトはロザリナ救出を半泣きで懇願する
第17話 ルーヴェントとベアトは出撃する
第18話 ベアトは酒場で戦う①
第19話 ベアトは酒場で戦う②
第20話 ベアトとルーヴェントの甘々な帰路
第21話 ベアトはNTRさせられる
第22話 ルーヴェントとベアトは街デートする①
第23話 ルーヴェントとベアトは街デートする②
第24話 カシスはベアトをボコボコにする
第25話 カシスは罰として鞭で打たれる
第26話 ベアトは復讐の相談を持ちかける
第27話 ベアトは三人組と復讐をくわだてる
第28話 ベアトはカシスに復讐する
では、第1話を読んでみましょう!
第1話 ルーヴェントとカシスは森に潜む
(約2300文字)
曇った空は低く、重い。
国境近くの緩衝地帯。
大木の立ち並ぶ深い森は、わずかに霧が立ち込めている。
そして、かすかに苦い匂いがする。
森の中の街道を取り囲むように、百人近くの盗賊団が身を潜める。全勢力をあげての勝負をかけるとでもいうのか、気配も消せず気負いを隠しきれていない。
更に、そこから僅わずかに距離を取り、茂みに潜む男女。
年齢はともに二十代前半といったところ。
男は商人の身なりをしている。
しかし、その屈強な体格と黒髪、鋭い目つきに通った鼻筋は精悍そのものである。彼が放つ獣の気配は、戦いに身を置く者であると雄弁に語っている。
女は黒い皮鎧にハーフパンツとひざ丈のブーツ、指ぬきの皮手袋。黒髪ショートヘアに白い肌。その整った顔つきは聡明さを物語っている。
しかし彼女の眼も、獲物を前にした獣に似ていた。
「だ……団長、こんな時に、やめて下さい」
女は少し体を震わせ、黒い皮鎧のスキマから胸に差し入れる男の武骨な手を払いのける。
団長と呼ばれた男は、低い声でつぶやく。 子宮に響くかのように、低い声で。
「なかなか、やって来ないな」
「情報屋の話だと、もう少しで来るはずですが」
女も澄み通る良い声だ。
「ちっ、早く来すぎたぜ。すまねえなカシス、休みの日につき合ってもらって」
「私はかまいません」
カシスと呼ばれた女は、わずかに頬を赤らめると、わざとらしく横を向いた。
男の名は【ルーヴェント】、傭兵団の団長である。
つい先日『盗賊団が、エフタル王女の輿入れ行列を襲撃する』という話を情報屋から入手したところだ。
上手くいけば何か拾いモノがあるかもしれないと、団の副官である【カシス】を誘って見物にやってきたのだ。
「エフタル国からの輿入れって言っても、降伏の証としての人質みたいなもんだろ?」
「そうです、人質です。惨めなものですよ、敵国ガシアス帝へ二十五番側室としての嫁入りですから……実質はハーレムの性奴隷として売られたにすぎません」
カシスは猫のような表情で笑い、王女の不幸を喜ぶような素振りをみせる。
相変わらず、かすかな苦い匂いが漂っている。
さて、ハーレムの性奴隷というカシスの言葉は過激だが、今回の輿入れの実態はそうだ。
この世界では奴隷や娼婦の売買が普通に行われている。
輿入れの王女【ベアトリーチェ・ラファン・エフタル姫】は『エフタル軍の麗騎ベアトリーチェ』と呼ばれた十八歳の若き姫騎士だった。
ルーヴァスはかつて戦場に赴くベアトリーチェを遠くから見たことがある。
一騎当千といえる強い意志のやどる眼に、銀のサークレットが亜麻色の髪を飾り、ドレスの上に白銀の鎧を身にまとった凛々しく勇壮な姫であった。
以前よりエフタル国は、有能な先代王のもと敵国ガシアスと対等の戦いを繰り広げていた。
しかし、その先代王が病に倒れると後をついだ王子は甚だしく無能であった。ガシアス帝国との戦いは妹である王姫ベアトリーチェの奮闘により一進一退で踏みとどまっていた。
「ベアトの野郎は、五倍の戦力差をひっくり返したんだろ? 緒戦では」 ルーヴェントは野太い声でカシスに問う。
「ええ、この前の戦いではベアトリーチェ姫の率いる王軍第二部隊が鬼神の働きをみせたようです」
「なんでそこからエフタル国は上手く和平交渉にもっていかなかったのかね。まさかの全面降伏だぜ? 理解に苦しむよ」
ベアトリーチェ姫はルーヴェント達が聞いたように、ガシアス軍との五倍の戦力差を覆して勝利をおさめた。それにもかかわらず、ベアトリーチェの兄であるエフタル国の王【グスタフ】はガシアス帝に全面降伏を申し入れたのだ。
「戦力差に恐れをなしたのだと思われますが、おそらくグスタフ兄王の真の目的はベアトリーチェ姫の追放ですね」
「人気者の妹ベアトを追放して国の実権を確かなものにし、ガシアス帝国の庇護下に入るか。……無能者のグスタフ王にしちゃあ良い戦略だと思うがな」
そういうルーヴェントにカシスは顔を近づけ、怒り気味に言葉を返す。「良い戦略ですって? 馬鹿じゃないですか? 普通に考えて下さい。ガシアスが協定をやぶって攻め込めば、エフタルは終わりです」
「わかってるよ、お前がどう返すか試しただけだ。顔を近づけるな」
ルーヴェントは野太い腕をまわし、カシスの柔らかい喉元を指先で撫でた。
「団長……」
隊列の気配を感じとったカシスが目で合図を送る。 二人の視線の先、森に潜む百名の盗賊団には明らかな緊張が走っている。
「いよいよ輿入れ行列が来たか」
「だ、だから、やめて下さいって……」
ルーヴェントの指先が、喉から襟もとへと下り鎖骨を撫でる。滑るようにカシスの皮鎧のなかへ割り入っていた。
霧が立ち込める森の中、視界の中に先頭を進むガシアス帝国の騎兵が入って来る。
「ガシアスの騎兵に、エフタルの近衛兵も護衛についていますね、数にして五十ほどでしょうか」
「数の上では盗賊団が有利だな、脅して金目のものをガッツリ奪う気だろ。姫の身柄まで押さえられたら上出来だろうが」
「は……ぃ」
それなりに膨らんだ柔らかいところ。そこを掴んだルーヴェントの武骨な指が動くと、カシスの息がわずかに乱れかかる。
「いいか、カシス。目を凝しとけ、いい動きをする奴がいたらウチの団にスカウトするぞ」
「は! はい、わかってます……んっ」
尖った先端をかすめるように爪先で搔き、ルーヴェントは襟元から手を引き抜く。
「わかっています」
カシスは呼吸をととのえ、従順にもういちど返答した。
そして、しつこいように漂う苦い匂い。
輿入れ行列の中央付近、おそらくは王女ベアトリーチェの乗った馬車を守るエフタルの近衛兵長が気配に気づいたのか抜刀する。
「潜むは盗賊か! 王女ベアトリーチェ様の輿入れと知っての狼藉か!」
霧深い、国境近くの森に戦闘の気配が立ち上った。 張り詰めたような空気をやぶり、弓を抱えた盗賊団が立ち上がる。
第2話 ベアトの輿入れ行列は襲撃される
(2500文字)
国境近くの緩衝地帯、霧の立ち込める深い森。
街道を取り囲むように潜む百名近い盗賊団。そこを進む王女ベアトリーチェの輿入れ行列、護衛に着く兵は三十。
わずかに距離を置き、茂みに潜み見物を決め込む傭兵団長ルーヴェントと女性副官カシス。
かすかに漂う、苦い匂い。
―――ここからは傭兵団長ルーヴェントの視点で物語は進む。
輿入れ行列の中央付近、おそらくは王女ベアトリーチェの乗った馬車を守るエフタルの近衛兵長が気配に気づいたのか抜刀する。
「潜むは盗賊か! 王女ベアトリーチェ様の輿入れと知っての狼藉か!」
霧深い、国境近くの森に戦闘の気配が立ち上った。
張り詰めた空気をやぶり、弓を抱えた百名の盗賊団が立ち上がる。護衛の兵士めがけ一斉に矢が放たれた。
(あれは毒矢! 匂いの正体は毒矢か、盗賊団のやつら覚悟キメてきやがったな)
矢を放ち、武器をそれぞれの物に持ち替えた盗賊団が一斉に襲いかかっていく。
一気に街道沿いは乱戦となる。
「盗賊団も倍の戦力差を活かしたいところですね。上手くやれば王女の身柄をとれるかもしれません」
副官のカシスが狼のように澄んだ目つきで、冷静に状況を見つめる。
「上手くやればな」
俺は肘を地につき指を顎にかける、さらに目立たぬように体を茂みに潜ませる。
(王女を人質に身代金の交渉を行えば、相当額の金を得る事ができるだろうが……国相手の取引はリスクが高すぎる。まあ、このカシスなら上手くやるかもしれんが) わずかに風が吹き、カシスの黒髪のショートヘアをなびかせる。その鋭い横顔をしばらく見つめた。
「なっ、何を見ているんですか」
視線に気づいたカシスが、慌てたように表情を崩し狼狽する。
「お前は状況だけをしっかり見ておけ」
カシスの頭を拳骨で殴った瞬間、戦場の空気が変わるのを感じた。
(馬鹿が、隠れていればいいものを)
白いドレスを纏った王女が、剣を振りかざし馬車から降りてくる。
盗賊団のひとりが、その王女に斬られた。
毒矢の奇襲をうけた行列護衛の兵は、身動き取れなくなっている者も多く、混乱におちいっていた。兵数も半数近くまでに減っており、なかにはすでに逃走している者もいる。
それでも王女自ら盗賊と戦うなど、悪手もいいところだ。
ふいにカシスの手が俺の腕を掴んだ。
「団長、あの侍女、……見て下さい」
その視線の先には、剣を取ったひとりの侍女がいた。王女に続いて馬車から飛び降りて来たのだ。白いドレスを纏った王女を守るように次々と盗賊たちを切り捨てている。
(いい腕だが、もうこれ以上は戦うんじゃねえ、早く場をおさめて交渉に入れ……ああっ)
血しぶきがあがり、白いドレスを着た王女が斬られた。悲鳴をあげて王女は倒れる。
「あはっ、王女、斬られましたよ」
カシスは嬉しそうに声を殺して笑っている。
(エフタルの麗騎ベアトリーチェもここまでか。いや……しかし、あの侍女)
ルーヴェントとカシスの眼を引きつけた侍女。地味目のメイド服に身を包んだ若い女性が盗賊を切り捨てていく。
敵味方入り乱れた乱戦のなか、侍女の亜麻色の長い髪がみだれ、火花を散らし剣線が走ってゆく。
「強えぞ、あの女……」
つぶやく俺の腕を掴むカシスの手に力が入る。
「エフタルの王宮剣術の使い手でしょう。確かに強いですが、私にすら勝てないと思います。間違っても助けにいかないでくださいね」
そういうとカシスは、切れあがった目で俺を睨みつけて来た。
野盗が三人がかりで、倒れた王女を担ぎ連れ去っていく。金目のものを剥ぐ為にも侍女から引き離す必要があるのだろう。
その事態に、侍女は絶叫に近い金切り声をあげ王女を奪い返そうと剣を振るう。
目の前の男を袈裟に切り、回転すると後方の男の胸を突いた。剣が胸から抜けない。短刀を懐から出すと、さらに行く手をさえぎる男の首を掻っ切る。
返り血を浴びながら、侍女は違和感を感じたのか自分の腕に目を移している。
左二の腕に毒矢が刺さっていた。
盗賊団の撤退の合図だろうか、鳥の鳴き声に似た笛の音が鳴り響く。護衛の兵を壊滅に追い込み、王女の遺体と略奪品を手に手早く撤退していく。
盗賊団からすると、上々の戦果だろう。なかなかに良い動きをする者が数名いた、しかし、俺の視線は例の侍女に捕らわれていた。
毒が全身に回ったのか、足元がふらつき身動きが取れなくなっている。それでもなお、短刀を放さず、逃げ去った盗賊団のほうへ足を向け進もうとしている。
(おいおい、王女付きの召使いごときが、いい気迫じゃねえか)
カシスの腕をふりほどき茂みから駆け出した時、血と泥にまみれた侍女は静かに倒れた。
駆け寄り、意識のない侍女を懐に抱き上げる。血と泥にまみれたメイド服の肩の部分を破ると、無理矢理に毒矢を抜いた。自分の肩にさげた商人風のカバンから水筒を取り、傷口を洗い流す。毒消しの膏薬を塗り、白布で縛った。
イラつきを隠せない様子でカシスが俺の横に来る。
「何をしてるんです。毒が全身に回ってるんです。助ける必要はないでしょう、薬が勿体ない。さあ、帰りますよ」
俺はカバンから丸薬をひとつ取り出し、カシスに手渡す。
「これは?」
「毒消しの特効薬だ、お前が口移しで飲ませてやれ」
「なんで、こんなつまらない女を助けるのですか」
カシスは獣のような目で俺をにらみ上げ、奥歯を噛みしめる。そこには、はっきりとした俺に対する憎悪の色が見えた。
「わたし、嫌……です」
丸薬を捨てようとしたカシスの頬を平手で強くうつと、細い顎を掴んだ。
「なら俺が、口移しで飲ませたほうがいいのか? お前の目の前で」
掴んだ顎に力をいれて何度も揺さぶる。
カシスは、俺の手を払いのけると返事もせずにしゃがみ込む。半開きに口をあけると、水筒の水と共に丸薬を含む。そのまま目を閉じ、侍女に唇を深く重ねてゆく。
まず舌をつかい乱暴に薬を押し込むと、つぎに唾液のまざった水を流し込んだ。
侍女の喉が上下に動いている、とりあえず薬は飲みこんだようだ。
「この女は俺がもらう、帰るぞ」
「知りません……お好きにどうぞ」
カシスは斜め上空に視線をうつし、投げやりな返事を返してきた。こちらを観ようともしない。
濃い霧がふたたび毒と血の匂いを包み込むまで、もう少し時間を要するだろう。
「帰るぞ」
もう一度そう言うと、ぐったりとしている侍女を肩に担ぎあげた。
第3話 連れ帰った女は暴れる①
(2700文字)
王家の侍女を担ぎ、副官カシスとともに傭兵団の本拠地【ロンバルディア】の街に着いたのは夕方近くになってだった。
このロンバルディアは、エフタル国の国境関門の外に自然発生的に出来た街といえる。
はじめは通関待ちの旅人のために簡易的な宿・食事処があり、荷馬車の修理をする鍛冶屋、旅の必需品を売る道具屋などが細々と商売を始めた場所にすぎなかった。
しかし、ルーヴェント率いる【黒鷲傭兵団】が拠点として館を立てると、じつに様々な者たちがそこへ流れ込んだ。
旅人の宿は本格的なつくりとなり、食事処もエフタルの王都ほどではないが豪勢な料理を出すところも出て来た。
道具屋は、今では鍛冶屋と提携して武器や鎧まで取り扱っている。ついには数軒の娼館や診療所、教会まで備える自治領に近いものになってしまった。
今や黒鷲傭兵団は、自治領自警軍と商会組織をたばねる存在となっていた。傭兵団の拠点となる木造りの館も見た目はもはや『豪華な商館』である。
俺(=ルーヴェント)は拾ってきた侍女を肩に担いだまま、副官の女カシスと館の中に入る。
「ただいま」
広い木造の館中に、よく通るしかし不機嫌そうなカシスの声が響く。
「あ、姐さん、お帰りです」
「団長!」
「団長!」
「団長、姐さんお帰りなさい」
十程のテーブルがある広く天井の高いホール。奥にはカウンターがある。そこで留守番をしていた数名の団員が振り返ると一斉に立ち上がり声を上げる。
食堂を兼ねた会議室、簡単な商談などの打ち合わせはここで行われる。酒場に似た雰囲気だが、トラブルを避けるため指定日以外の飲酒は禁止してある。
見まわすとホールにいる団員の数がいつもより少ない。
「団長、今日は『娼婦替え』の日じゃんか。みんな部屋をとって楽しんでるよ。そうそう、ヴィオラ姉さんは団長の部屋でお待ちかねさ」
俺の様子を察したのか、赤髪ボブヘアーで丸い縁の眼鏡をかけた金庫番の【ユキ】が言った。
ユキとは女みたいな名前だが、れっきとした男だ。体つきも小さく華奢で、可憐な少女っぽい雰囲気もある。そのため彼を狙っている団員も多い。
ただ、実務能力は並みの男をはるかにしのぎ、傭兵団の資金繰りなど商売面を任せられる頼れる部下だ。
(忘れていた、今日は娼婦替えの日だった、ヴィオラの野郎が来ているのか)
ユキの言う『娼婦替え』とは、娼館が抱える娼婦たちを大きく入れ替えることをいう。娼婦たちがずっと同じ顔触れだとマンネリが発生し、売り上げと関わってくる。また、色恋のもつれから傷害事件へと発展することもよく聞く話だ。
その娼婦替えを、娼館との間で取り持つのも黒鷲傭兵団だった。新しく入った娼婦の値付けは傭兵団員の仕事で、彼らにとっては役得だった。
部屋で待っている娼婦ヴィオラは、傭兵団直属で娼館の経営をまかせている高級娼婦である。
「団長、その女は?」
聞いてきた茶髪の男の骨太の声が重い。筋骨たくましい男は自治領自警軍をまかせている男【ディルト】である。
カシスが戦略面の副官だとすれば、このディルトは戦闘面での副官にあたる。戦場での右腕と言っていい。
「おうディルト。こいつはエフタル国の侍女だ。拾いモノだ、壊滅した輿入れ行列から俺が助けたんだ」
「ほほう、ちょいと失礼するっす」
ディルトは立ち上がると、担がれた侍女の顔や体を覗き込んだ。居合せた団員たちも興味津々だ。
「いやあ綺麗な顔だちっすね、しかし血まみれの泥まみれじゃないっすか、早く湯船にでも入れて奇麗にしてあげてくださいよ」
「そのつもりだ。ディルトお前、女はいいのか?」
侍女を担いだままディルトに聞いた。
「大丈夫っす、もう五人の新顔をおさえています。ゆっくり朝までやるっすよお!」
ルーヴェントに負けず劣らずの獣のような体格のディルトである、一晩の相手も五人くらいが丁度良いのだろう。
「私も、そろそろいいですか?」
つまらなそうな顔をしてカシスが聞いてくる。
「おお、すまねえな、今日は色々と楽しかったぜ」
「別に……」
漆黒のショートヘアをかきあげると、俺と目も合わさずカシスは自室へ引き上げてゆく。ディルトがニヤニヤしながら俺に親指を立ててみせる。
カシスもまた、男娼を部屋に待たせているのだろう。
「んっ、んん……、こほっ、こほっ」
担いでいる侍女が、意識を取り戻したのか声をあげた。
(気が付いたか)
そっと床の上におろしてやる。
「大丈夫か?」
ディルトが気遣う。
侍女はふらつきながらも立ち上がる。本来は美しく整えられているであろう亜麻色(薄い栗色)の長髪までも血まみれ泥まみれである。
それでも可憐というか、気品のある顔立ちだ。
当然のことながら、自分がなぜここにいるのか、事態が飲み込めていない。腰に剣はなく、輿入れ行列を襲撃した賊に捕らえられたとでも認識したのだろう。
侍女の足元の板が削れるような音を立て踏みこまれた。迷いを腹に飲みこむ。
爛々と輝く眼を強く見開き、空間を裂くかの気迫とともに叫んだ。
「何者だ、貴様らは! 私はエフタル王女にして王軍総帥ベアトリーチェ。エフタル国王女ベアトリーチェ・ラファン・エフタルである」
(やはりそうか)
俺は犬歯をむき出しにして笑う。
副官ディルトをはじめとして団員は、王女を名乗る女の一瞬の気合いに押されているのがわかる。
しかし、それぞれ顔を見合わせると卑屈な感じで、そして小さな声で笑いはじめた。
「……は、ははは、この汚い侍女が王女様だと?」
「……ショックで、気が動転してるんだよ」
「だ、団長、早いとこ奴隷商に引き渡したほうが……」
団員が女の気配に押されながらも、数を頼むように遠巻きに取り囲む。
女は、ふらつきながらも背後から強大な圧を放ち、こちらへ詰め寄って来る。
「……貴様が盗賊団の頭か、メ、メイド長の仇は取らせてもら……う」
俺はざわつく団員に手の平を見せ、静かにするよう制止した。
「やはりお前が王女ベアトリーチェ。斬られた女は入れ替わった偽物だったか、お前も侍女の恰好で死んだふりでもしていれば、毒矢も食らわず助かったのに、馬鹿な女だ」
そういう俺を、ディルトがまあまあという感じで制する。言葉をつづけて王女にかけた。
「落ち着いてくれ、俺たちは盗賊団ではない、黒鷲傭兵団だ。あんたは毒に倒れたところを団長から助けられたんだよ」
「傭兵団……だとぉ? 下賤の者どもがぁ……」
王女ベアトリーチェを名乗る女は、毒がまだ抜けきっていないのか大きくふらついた。
しかし、言いようのない気品と気迫をたたえているのは明らかであり、予想外の事態に誰も動けなくなった。
そして、俺を睨みつける藍色の瞳は逸らされることなく一歩も引かない意思をみせている。
第4話 連れ帰った女は暴れる②
(2700文字)
「傭兵団……だとぉ?」
そういうと王女ベアトリーチェを名乗る女は、毒がまだ抜けきっていないのか大きくふらついた。
すぐさま、副官ディルトが駆け寄る。背後に回ると鍛え上げられた身体で両脇を抱え、彼女の体を支える。
「おい、あんた本当に王女様なのか? 侍女と入れ替わっていたのか?」
普段は乱暴に喋るディルトも声のトーンを押さえ、丁寧に問いかけている。
俺(=ルーヴェント)を睨みつける藍色の瞳は逸そらすことなく一歩も引かない。にらみ合ったまま時間がたってゆく。
彼女が無言でいることが、なによりディルトの問いを肯定し『自分が王女だ』と認めている事だった。
(間違いない、本物の王女だ)
恐らくは(本物の)侍女が機転を利かせて、互いに服を替えた後に変装した王女ベアトリーチェを逃がつもりだったのだろう。
突如ベアトリーチェは膝を折る。副官ディルトの体にもたれかかるように崩れる。
「おい、王女様しっかりしろ。ああもう、毒が抜けてないのに、無理に体を動かすからだ、団長どうするっすか?」
「盗賊ごときが、私に……触れるでない……」
ベアトリーチェは、ここまできても気が強い素振りをみせる。
「だから盗賊じゃないって言ってるだろう、まったく」
そう言われたディルトが困ったような顔を俺にむける。
「何やってんのよ、まったく騒がしい。団長はまだなの?」
声の方をみると、露出の多い、しかし気品のある紫のドレスを纏った女がホールの奥の扉をあけ覗いていた。おっとりとした顔つきだが、鼻筋は奇麗に整っている。
「あ、ヴィオラ姐さん、良い時にきてくれたね!」
金庫番のユキが丸縁の眼鏡に手を当て立ち上がと、ヴィオラの手を取りこちらへと連れてくる。
「どうしたんだこの娘は?」
「俺が拾って来たんだ」
「ルーヴェントが拾った? 汚れてるし、ふらふらじゃない? 麻薬中毒者は買えないわよ、でもよく見るとすごい綺麗な目をしてるわ!」
ヴィオラは驚いたような声をあげる。くわえていた煙管を口からはずすと、ふうぅっと紫煙を吐いた。
「盗賊団の襲撃から助けた女だ。ヤク中(麻薬中毒者)じゃないぞ、毒をくらってるんだ、薬はのませてある。風呂に入れてやってくれないか? 綺麗にしてやってくれ、風呂につかっていりゃあ毒も抜けるだろう」
ヴィオラは俺の説明を聞きながらも、ディルトの逞しい体に支えられているベアトリーチェをじろじろと覗き込み観察した。
「全身血まみれじゃないかお前、大変な目にあったんだね。ルーヴェントの頼みじゃあ断れないね。ディルトさん、この娘をバスまで運んでやってくれないかな?」
「了解、わかったっす」
ディルトはお姫様だっこにして、ぐったりしているベアトリーチェを抱える。
「ディルトさん、ありがとう。さ、行きましょ。体を奇麗に洗ってあげる、替えの服は、娼婦の予備のドレスがあったはず」
そのままヴィオラは、ディルトとともに廊下の奥へと歩いてゆく。
ふたりの姿が視界から消えると、団員がまた騒ぎ始める。
「マジでエフタルの姫かよ! 身代金がガッポリとれるぜ」
「やっぱ高級娼婦で売り飛ばそうぜ」
「うちの系列の店で客を取らせようぜ」
「それ、エフタル王家に見つかったらとんでもねえことになるぞ」
「僕は最初から、あの人が王女じゃないかと思ってたんだよなあ、やれやれ……困った」
「おいユキ、嘘つくんじゃねえよっ!」
俺は無責任に騒ぐ団員らを無視し、椅子に腰かけると脚を組みテーブルに肘をついた。ヴィオラの手で綺麗に洗ってもらうのを待つとしよう。
盗賊団相手に戦うベアトリーチェの姿が何度も脳裏によみがえる。
そして今も、団員たちを前に放った、空を引き裂くような気迫。
挑みかかってきたときの、狂気に満ちながらもどこか澄んだ藍色の瞳。
強い女だ。
それも……中途半端に。
(……くくくっ、くははははっ!)
笑いが腹の底からこぼれそうで、必死に我慢した。
(中途半端なものは、……叩き潰すしかない)
しかし。
気づくと金庫番のユキが恐怖をこらえるように、かつ神妙な顔をして傍に立っていた。眉をひそめ、丸縁眼鏡の端に右手を添えている。
「ルーヴェント団長、あの王女ですが、あれは……」
普段は砕けた口調のユキだが、おずおずと堅苦しい。
「ああっ? あの女は俺の拾いもんだと言っているだろ?」
俺は苦々しい顔つきをつくり、怒気をわかりやすく滲ませた。
意を決したのか、ユキは喋りはじめた。
「女は団長が拾ったものに間違いないですが、この街この敷地に連れて帰ってきた以上、まずは団の共同財産になります」
「ああん?」
ユキを睨みつける。ユキは目を合わせきれないでサッと逸らす。
「団員の誰が連れて帰ってこようと、家族知人でない限り、規則上まずは団のものになります。たとえ名もなき村娘であろうと王女であろうと、商取引の在庫品になりますから」
(やはり、テメエはそう来るか、まあ立場上そう来るしかねえよなぁ)
「ああ、そのあたりは団の決め事だからな、面倒くせえ」
「王女ともなると相当強い商材になることはお判りですよね。これ重要な問題です、団長個人の所有ってわけには……」
そこまで聞いて、俺はユキの襟首をつかみ持ち上げると、近くのテーブルに投げつけた。木の板が割れる音が響いた。
「ムカつくなあ、わかってんだよ。ユキてめえ、偉そうに」
壊れたテーブルに挟まったユキが、眼鏡のズレを直しながら腰を持ち上げる。ユキを心配して団員の数名が駆け寄る。
「団の財産を扱う金庫番として僕にも責任がありますから。会議にかけますよ、いいですね」
(フッ……)
ユキは目も合わせきれないのに、みごと言うべきことは言ってのけた。
「仕方ねえ」
俺は表情を崩すとユキに手を伸ばす。白く細い枝のような腕を掴んだ。 奴はその俺の手を握り返し、立ち上がって来る。
ユキの持つ商売感覚・金銭感覚もそうだが、団のためなら相手が俺だろうと意見を述べる。
俺はその根性を気に入っていた。
「僕の治療費とテーブルの修理費は、団長の月給から引いておくから。賞与の査定にも影響があると覚悟しといてね!」
団員から笑い声と拍手が巻き起こる。
俺はふたたびユキの尻に蹴りをいれた。
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追放王女と傭兵団長 ~王女は傭兵団長に奴隷として買われる~ 第5話~第7話 +1章まとめ (合計9000文字)|天音朝陽(てんのん ちょうよう) (note.com)
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