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三石巌の分子栄養学講座−9

この文章は三石巌が1984年に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。



カスケード理論

ビタミンCにいくつもの作用があって、その優先順位が人によって違うという仮説を説明するために、私は、目に見えるようなモデルを工夫しました。

私は、頭のなかに一つの段々滝を描きました。階段のようになった滝に、上から水が落ちてきます。その水は、一つ一つ段々をおりてゆくはずです。その段々に、いくぶんでも水がしみると、するといちばん下の段まで水が落ちるためには、水量が十分なければなりますまい。水量が不十分ならば水は途中の段までしか落ちないでしょう。

このモデルに対して、私は、カスケード理論という名前をつけました。カスケードというのは、段々滝のことです。私は、このモデルを思いついて、私の白内障の説明がついたことで、悦にいっていました。 どうして白内障の説明がついたと考えたかというと、それはこういうわけです。

カスケードを流れ落ちるというのは、いうまでもなく水です。しかし、私のカスケードは、水のカスケードではなく、ビタミンのカスケードです。そしていまそれは、ビタミンCのカスケードです。このカスケードは頭のなかのものですから、流れ落ちるものが水でなくたって、少しも困りません。ビタミンCが水に溶けていなくても、さしつかえはないのです。

カスケードの段々の数について、私はよくわかりませんが、仮にそれを5段としましょう。ビタミンCの抗白内障作用が、私の場合には5段目、家内の場合は2段目だったとします。2段目まで滝が落ちてくるのは、5段目までとくらべれば、楽なことです。ビタミンCの量がとくに多くないとき、2段目までなら水が落ちてきても、5段目は無理、というケースがあるに違いありません。

私の家の食事は、とくにビタミンCをたっぷりとるかたちのものとはいえませんでした。とするなら、抗白内障作用を5段目にもっている私が、家内よりもこの眼病にかかる確率が高いことになるでしょう。 これが、私の白内障を説明する手がかりを与えようとして思いついたカスケード理論でした。これをとくに「理論」と名付けるのはおおげさすぎるかもしれません。理論と名の付くほどものではないのです。それなのに、カスケード理論などというのは、これが、私にとっては、自分がことさらに白内障になったと理由を説明する1つの理論になる、と考えたからにほかなりません。

ここで私は、カスケードの段々に水がしみるといいました。しかし、なぜ水がしみなければならないかという点について、とことんまで考えることはしませんでした。この問題についての仮説をたてることができたのは、私が分子生物学を知ってからのことなので、1981年頃のことになります。

代謝と酵素

私のカスケード理論の原型は、ごくごく荒けずりのものでした。カスケードの段々に、水が浸みこむといいました。それは、ビタミンが浸みこむということですから、浸みこんだビタミンがどうなるかが問われているはずです。

もし、実際の段々滝で水が浸みこむとしたら、段々をつくっている岩に、割れ目があるとか、こまかい孔があるとか、そういったことがなければなりません。そしてそこで、水は損失になるはずです。ビタミンならば、それがロスにならなければ、つじつまがあわなくなるでしょう。

ビタミンCには壊血病を防ぐといったような、積極的な作用があるはずです。 風邪を防いだり治したりする作用もあるはずです。 もっとも、1962年頃とすれば、ビタミンCについての知見は、これが精一杯で、ほとんどゼロに等しいものでした。

それにしても、このような積極的な作用を例えるのに、水が岩に浸みこむとするのはほめたことではないでしょう。 分子生物学を知ってからの私は、段々に落ちる水の行方について、漏斗を考えるようになりました。漏斗に落ちる水には、損失ではなく、積極的な作用をもたせようとしたわけです。積極的な作用とはなにかといえば、もちろん代謝です。

代謝の説明は、ここでは省きたいと思いますが、念のために一言しておきます。代謝とは、生物の体内で、遺伝子の指令によっておきる化学反応のことです。 生体の温度は37度前後の低いものですから、そこでの化学反応は特別な条件がなければ難しいことになります。特別な条件とは、反応のなかだちをする物質、つまり、酵素の存在です。代謝は全て、原則として、酵素のなかだちによっておこるのです。

酵素の主成分を主酵素といいますが、これはタンパク質です。そこで、代謝にとって何より大事なものはタンパク質ということになります。

ビタミンCのカスケードの話にもどりましょう。そのどこかの段が代謝にかかわっているとします。すると、そこには漏斗があるはずでした。その漏斗がタンパク質でできているとすれば、話はうまくゆくでしょう。上から落ちてくる水が、その漏斗に入れば、代謝がおこる、と考えるのです。

ところが、代謝というものは物質の運動ですから、運動をおこすものをここにもってくれば好都合です。そこで私は、漏斗を落ちる水で、廻る水車を考えました。タンパク質の漏斗にビタミンの水が流れこめば、それが代謝という名の水車をまわす、と考えるのです。 カスケードを落ちる水は、岩に浸みこんだり、水車をまわしたりすることになります。


三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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