92歳 三石巌のどうぞお先に 40
三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)
大腸がん進行の段階
患者側の急所は『修復遺伝子』
前回、大腸がんを例にだしたから、それについてもうすこし書くことにする。大腸がんがふえているって話もあるからな。
大腸がんに急所が四つあることをいぼえているだろう。こういうのを発がん四段階説っていうことになっている。
ボクは一九七二年に『ガンは予防できる』って本を書いた。考えがたりなかったもんで、そこには発がん二段階説をだした。ボクはしろうとで論文をみていなかったんだが、そのころすでに二段階説をとなえる学者がいたんだ。第一段階には、イニシエーションって名前がついていた。日本語だと『引き金段階』だ。第二段階には、プロモーションって名前がついていた。日本語だと『後押し段階』だ。
その後、研究がすすむと二段解説はつぶれた。あとにでてきたのは、発がん多段階説だ。前回はそれを紹介したことになるんだな。
この多段階説だと、第一段階はイニシエーション、第二段階はプロモーション、第三段階はプロパゲーション(増殖)ってことになる。プロモーションやプロパゲーションのなかに、いくつかの段階をつくることになるんだな。
大腸ポリープってことばを聞いたことがあるだろう。大腸がんの場合、『急所1』は二つあるんじゃないのかな。『1』をやられればポリープができ、『1’』をやられれば、ポリープはできないって考えるわけだ。
『急所2』はがん抑制遺伝子なんだな。だから、これがアタックされれば、がん化のスタートってことになる。これがプロモーションってことだ。
つぎにプロパゲーションだが、ここまでくれば異常増殖がはじまって、悪性化ぶりがはっきりしてくることになる。アタックをうけるのは『急所3』と『急所4』だが、そのやられ方によって、がんの進行のスピードや増殖のようすが違ってくるのではないだろうか。
ここまでのところの見方は、まったくがんの側からのものだった。患者の側からみると、急所をもう一つつけたしたくなる。
それは修復遺伝子だ。DNAのどこかがアタックされて異常をおこしたとき、それをもとにもどす遺伝子だ。
DNA修復遺伝子はがん化の妨げになるんだから、発がん段階の一つとする理由はないだろう。ただし、これがアタックされれば、がん細胞がもとの、まともな細胞にもどることはなくなるわけだ。
三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。
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