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三石巌の分子栄養学講座−10

この文章は三石巌が1984年に初めて分子栄養学を勉強される方へ向けて書いたものです。




優先順位は個体差

カスケード理論では、タンパク質でできた漏斗に、ビタミンの水が流れこみ、落ちる水が、代謝という名の水車をまわすわけです。すると、タンパク質とビタミンとは、漏斗と水の関係になります。その関係は、たまたまそう考えただけかというと、そんなことではありません。そこには、必然的な、切っても切れない関係があるのです。

もうご存じのとおり、タンパク質は代謝を媒介する酵素の主成分です。これは、主酵素とよばれます。ここでわかることは、タンパク質だけで酵素ができているわけではないということです。酵素は、一般的に、タンパク質と、非タンパク質とからできています。タンパク部分は「主酵素」、非タンパク部分は「助酵素」とよばれます。ビタミンは非タンパク部分ですから、助酵素にあたるのです。

カスケード理論では主酵素で漏斗をつくり、助酵素をそこに流れこむ水にしました。漏斗と水とのどちらが欠けても、水車はまわらない、という関係をつくったわけです。このことから、タンパク質がなくても、ビタミンがなくても、代謝はおこらないという関係がわかると思います。そしてこれは、分子栄養学で強調する点なのです。

ところで、漏斗と水車のセットは、カスケードの段々の一つひとつにあります。その例として、抗壊血病作用の水車と、抗白内障作用の水車とをとることにしましょう。無論そこには、この二つの作用が代謝による、という仮定がなければなりません。

ここでおこる大きな問題は、二つの水車のどちらが上位にあるかという、優先順位の問題だということは、もうおわかりでしょう。そしてそれが、人によって違うだろうというのが、私の考え方でした。 漏斗というものには、管の部分がつきものです。その管には、太いものも細いものもあるでしょう。その細いものが上位にある、と私は考えます。なぜかというと、太いものが上位にあれば、滝の水が下まで落ちてゆくことが難しくなります。無論、水量がたっぷりとないという前提のもとにおいてですけれど。

これと反対に、管の細い漏斗があれば、水が下へおりるのが楽になるでしょう。カスケードの最下段まで、水が下へおりることが理想だとすれば、管の細い漏斗ほど上位にあるのがよいことになります。それは、「生体の合目的性」にかなうことだ、と私は考えます。無論、それについての説明には別のアプローチもあるのですが、それはあとに譲りたいと思います。

このように考えると、私のビタミンCの抗白内障作用の漏斗は、人並みより太いので下位にあった、と考えることができます。家内のそれは、私ほど太くないので、白内障にならない、という説明になります。

ビタミン必要量の考え方

カスケードの各段にある漏斗の太さを問題にしてきました。その太さは、何によって決まると考えたらよいでしょうか。

管が太いということは、ビタミンがたくさん必要なことを意味します。そこで、同じ代謝に、ビタミンがたくさん必要な場合、少しも良い場合があるのか、が問題になります。結論から先にいえば、「ある」というのが私の意見です。

酵素というものが、主酵素と助酵素と、二つの部分をもっていることは、もうご承知でした。主酵素はタンパク質で、その製法は、親から教わっています。これはいわゆる遺伝の現象なのですが遺伝子というものは、十人十色の主酵素に助酵素であるビタミンが結合するわけですから、その結合に難易の違いがあって、不思議はないのです。ある人は、その仲が悪いという事態は、珍しくないはずです。

主酵素と助酵素との仲が悪いとき、その結合体である酵素をつくるのに、助酵素がたくさん必要です。そういう場合、漏斗の管が太くなければならないことになるでしょう。漏斗の管の太さは、主酵素と助酵素との仲の良さで決まるといってよいのです。その仲の良さを「親和力」という言葉で表すことにします。カスケードの漏斗に管の直径は、主酵素と助酵素との親和力が小さいほど大きいことになります。漏斗の太さは親和力で決まるといってよいのです。

ビタミンCが口から入ると、それは、血液に運ばれて全身にゆきわたるでしょう。そして、その持場にくれば、そこで働きを表すわけです。そのとき、現実に働きを表すのは、まず、ビタミンCが少量ですむ持場でしょう。それはつまり、親和力の大きい酵素が優先するということです。優先するということは、あとまわしにならないことを意味します。少量ですむところがあとまわしになるはずはないではありませんか。これはつまり、親和力の大きい酵素による代謝、つまり、管の太い漏斗が上位にくることを意味するのです。

生体の合目的性からしても、親和力の点からしても、カスケードの上下関係について、同じ結論が導かれることになりました。 主酵素と助酵素との親和力には個体差があります。一人びとり違います。だから、ある特定の代謝が、Aさんではかなり上位にあるのに、Bさんではずっと下位にある、というようなことがおこるに違いありません。

ビタミンCばかりではなく、全てのビタミンに、そして、全ての助酵素について、私はカスケードを想定したいと思っています。この理論は、ビタミンの必要量を考えるうえで、大きな助けになるのです。


三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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