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92歳 三石巌のどうぞお先に 16

三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)


突然変異

3度目には修復不可能でがんに

 DNA(遺伝子)分子から電子をぬすみだすやつがいたら、それが設計図をくるわせる犯人だから、発がん物質ってことになる。それを知っているからこそ、ボクはがんの予防に成功しているわけさ。これから、それを一席やろうっていうんだ。
 ミクロの世界にスリ団がいる。かれらは原子のもっている電子をねらう。カネとまちがえるはずもないんだが。カネドロボーじゃなくて電子ドロボーだ。
 細胞の中心には核がある。核のなかにはDNAがある。DNA分子をつくる原子のどれかが電子ドロボーにやられると、その細胞はまともじゃなくなる。死ぬのがおおいが、死なないやつはタチがわるい。がん細胞になるやつがいるんだな。
 DNAがくるえば設計図がくるったわけだ。こういう現象を突然変異っていう。どこかで聞いたことがあるんじゃないか。
 がん細胞がひとつやふたつやふたつできたからといって、がんになったとはいわない。そんな小さなものはみつかりっこないんだな。
 がんの増殖ってこともきいたことがあるだろう。がん細胞はふたつに分裂し、それぞれがまたふたつに分裂する。それをとめどなくやらかすんだ。それが増殖ってことだな。
 がんの早期発見っていうことばを見たか聞いたかしたことがあるだろう。このとき、がん細胞の数は十億をこしているのがふつうだ。そこまでこないとみつけるのがむずかしいってことなんだ。そこまでくるにはさいしょのがん細胞ができてから二十年ほどかかるって話だよ。
 いまがんの告知をうけた人がいるとしよう。その人は二十年まえからがんにかかっていたわけだ。知らないでいたってことさ。
 がんが一人前になるまでの二十年のあいだに、おなじDNAが三度ほどドロボーにやられているという話になっている。一度やられたDNAも、二度やられたDNAもなおしがきく。いたんだところの修復がきく。
 修復してしまえばがん細胞はふつうの細胞にもどる。がん細胞ができてはなおり、できてはなおりってことが、キミのからだにおきていないとはいえない。
 三度目の正直ってことばがあるけれど、修理のきいていない二度の突然変異に三度目がおいうちをかけると、もうもとにはもどらないって話ができあがったようだ。

三石理論研究所


三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。


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