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いつか滅ぼす身のために【小説】①

Prologue

 この世界に長くいると、割と変なものに遭遇する。いやいや、そんなものは見たことがないと嗤う勿れ。あなたにも覚えがないだろうか?

 例えば、道端に片方だけ捨てられた軍手。
 例えば、水溜まりに現れる油膜のような虹色。
 例えば、植え込みに覆い被さるシーツ。
 例えば、羽ばたいているのに風上へ進めない鳥。
 例えば、…あ、もういい?あそ。

 こんな風に、割と変なものに遭遇する世界で僕たちは生きているわけだが、それは時に『そうなる理屈を知らないからだ』という論説で片付けられる。
 それはそう。
 人間は誰しも己が知らない事象に出くわす度、不思議だ奇っ怪だなどと口走るものである。
 今日ほど科学技術の分野が発展していなかった平安時代などは、『どこそこの飢饉は某公の祟りだ』とか『日蝕は凶事の前触れだ』とか、そんな【得体の知れないモノ】の解決者として、安倍晴明に代表される陰陽師が幅を利かせた。
 しかし蓋を開けてみるとどうだろう?
彼らは果たして真の『解決者』であったのだろうか?

あちょっと待って待って待って行かないで。
行かないでったら…あーぁ、行っちゃった。なんだよぅ、もう少し付き合ってくれてもいいじゃないか。本題はここからなんだから。

………君は…僕の話しをご所望だよね?
うんうんそうかそうか!よぅし、興が乗ってきたぞ。

僕はね。
何も変なものの全てを解明しようとしてるわけじゃないんだ。それはもうそう存在しているものだからね。『変』は『変』でいいんだ。

必要なものは、理屈じゃない。
変なもの、変わったものを楽しむ『隙間』だ。
分かりにくいかい?
これを極めて近く言い表すと『考察のしがいがある』ってことなんだ。何でもかんでもガチガチに理詰めで固めるのも、時として必要なんだろう。

しかし、だよ。
柳の下に幽霊を見る事象を理詰めで解き明かしたところで、なんの面白味があるだろうか?

時にバカバカしい考察でもクソ真面目に捏ねくり回してみたら、長い人生の良い暇つぶしにもなるし、何より面白いだろう?贅沢な思考の使い道だとは思わないかい?

君が賛同しようとしまいと、僕は構わない。
君と僕がここで出会ったという『事実』があるだけだ。それだけでいい。

さぁ。お待たせしたね。
これから話す僕の話しを、君がどう面白がってくれるのか、楽しみながら話していくとしよう。

僕が集めた、割と変な話しを。 

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