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中島敦『光と風と夢』

(モンテーニュを読んだ後)  斯うしたどえらい書物を読んだ後では、どんな作家も子供に見えて、読む気がしなくなる。それは事実だ。しかし、それでも尚、私は、小説が書物の中で最上(或いは最強)のものであることを疑わない。読者にのりうつり、其の魂を奪い、其の血となり肉と化して完全に吸収され尽すのは、小説の他にない。 (中島敦『光と風と夢』)

    • 坂口安吾『精神病覚え書』

      (利己的で内省とは無縁な新聞記者と比較して)  精神病者には、こういう内省のなさ、他人への無礼に対して自ら責めることを忘れている者は居ない。だから、もし、精神病患者が異常なものであるとすれば、精神病院の外の世界というものは奇怪なものであり、精神病的ではないが、犯罪的なものなのである。  精神病者は自らの動物と闘い破れた敗残者であるかも知れないが、一般人は、自らの動物と闘い争うことを忘れ、恬として内省なく、動物の上に安住している人々である。 (坂口安吾『精神病覚え書』)

    中島敦『光と風と夢』