音楽ルーツでたどる、福山雅治さんの「今」
今日は福山雅治さんのデビューから「今」までの音楽性が、どのように変化してきたかを、私の個人的な解釈で書いてみようと思います。
過去から遡るので、少し長旅にはなりますが、楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
以下本文です。
まず結論で言うと、福山さんの音楽スタイルは以前と大きく変わりました。
恋愛から多様な愛の形にシフトし、生きること、過去のこと、未来のこと、残すべきテーマが生きた血となり楽曲を駆け回り、世間のイメージする福山雅治像とのギャップを感じます。
これまでの福山さんの代表曲は
『IT'S ONLY LOVE』『HELLO』『Squall』
『桜坂』『虹』『最愛』『家族になろうよ』など
J-POP史を彩る、いわゆる美メロなポップソングやバラードがイメージされると思います。
しかし、今後の福山さんの代表曲は
『道標』『クスノキ』『AKIRA』など
よりパーソナルな一面を表現した楽曲が多く加わっていくのではないでしょうか。
福山さんは最近よく「死生観」について話します。「死」があるからこそ「生」が輝く。
「今」の福山さんは、これまでになく自分自身を表に出し、これまでにないサウンドや表現方法にチャレンジしていると感じます。
今日は「音楽ルーツ」を中心に「サウンド」「歌詞」の変化も検証しながら、福山さんの音楽性の変化を探っていきたいと思います。
①音楽ルーツ
福山さんのルーツは、本人も公言されているように、THE MODS、ARB、ザ・ルースターズなどのめんたいロックバンド。SIONさん、浜田省吾さん、長渕剛さん、佐野元春さんに代表されるシンガーソングライター。ブルース・スプリングスティーン、ボブ・ディランなどの洋楽。本当はもっとあると思いますが、一般的に言われるのはこういったアーティストです。
それらのルーツミュージックが、これまでのアルバムにどう影響したかを書いてみます。
福山さんのアルバムは3枚ごとに印象が変わるイメージがあります。
1st~3rd ロック期
4th~6th ソングライター期
7th~9th ポップ期
10th~12th パーソナル期
これは異論あると思います。ソングライター期は福山さんが基本的に全ての作詞と作曲を担当し始めた時期なのでそう表現しましたが、全て勝手なイメージです。
おそらく5th~9th辺りのイメージが、世間の福山雅治像になっている気がします。
話を戻し、まず1stアルバム『伝言』ですが、この作品はめんたいロックの影響が強いです。
プロデューサーに元ARBのギタリストである白浜久さんを迎え制作されたアルバムは、後期ARBを思わせる、哀しみと影と叫びを感じる名盤です。注目は本人の希望で白浜さんを迎えたことだと思います。
楽曲は福山さんの書いた詩の断片を、白浜さんと共に形にしていったとインタビューにありました。当時スタッフから「何が言いたいかわからない」と言われていた言葉たちを、白浜さんは「何かある」と思い採用したそうです。
この出逢いがなければ、今の福山さんの楽曲スタイルは違うものになっていたでしょうし、ルーツの音楽スタイルを求めた結果が始まりの作品につながったと感じます。
その後、2nd『LION』、3rd『BROS.』では作曲家やサポートミュージシャンの方々と共作を中心に、ロックだけでなくポピュラーな楽曲も誕生していきます。この時期は隠れた名曲が多いですが、まだ音楽性が定まっていない印象です。あまり陽の当たらない時期なので、リメイクやリマスター盤の発売など、これらの作品を振りかえる機会が増えることを期待します。これは私の考察でしかないのですが、この時期は後期ルースターズのようなサウンドを目指していた印象があります。この記事を読んでくださっている皆様はどう感じているのでしょうか。
福山さんの初期の音楽性を決定づけたのは4th『BOOTS』でしょうか。この作品は自らですべての作詞作曲を手掛けながら、今後の活動の軸にもなるスローバラッド『Good night』、福山雅治らしさ全開の『約束の丘』と、対称的な2曲のシングルが核となるのが面白いです。『スタート』などはSIONさんの影響も感じますが、アメリカ横断後の制作というタイミングもあり、徐々に洋楽からの影響も感じる作風になりました。
5th『Calling』、6th『ON AND ON』はヒットシングルが含まれながらも新曲が多く、後のベストアルバムへの常連曲も含まれることから人気の強い作品だと感じます。『Calling』では小原礼さんとの出逢いもあり、幅広いジャンルのミュージシャンとの接点も増えた時期でした。中でもシングルとなった『All My Loving』では鈴木茂さんがギターで参加し、コーラスは尾崎亜美さんに坪倉唯子さんが担当しモータウンにチャレンジしました。とてつもなく豪華な布陣で挑んだ今作ではより音楽ジャンルの視野が広まったと感じます。
6th『ON AND ON』はほとんどがロサンゼルスでの録音で、小原礼さん、山木秀夫さんなども参加しますが、多くは現地のミュージシャンの演奏です。海外志向がより強くなった時期ではないかと感じました。それもアメリカよりな印象でしょうか?次作からはイギリスルーツの要素が強くなるイメージで、同じ洋楽由来でも音楽性が移り変わるのが面白いです。今作はポップスを極めながらも泥臭さのある力強い曲もあり、ファンの人気を高めつつヒットチャートの常連になりました。
その後、2枚シングルを出して、福山さんは2年半、音楽活動を休止します。この休止前にはギタリストのCharさんと楽曲制作する機会もありました。様々な音楽との出逢いが、今後の活動を考える時間を求めたきっかけになったのでしょうか。
活動再開後に放たれた7th『SING A SONG』は、ある意味キャリア史上最高にオリジナルアルバムらしい作品です。アコースティックギターが存在感を増し、歌い方も低音域が響く今につながるスタイルとなりました。内容はひと言でいえば爽やか。Oasisなどブリットポップを意識した曲もあり全体的にサウンドが明るくなった印象です。それは休止前の90年代J-POPサウンドとは違い、目の前で演奏されているかのような、音の距離感がぐっと近づいたように感じました。
中でも先行シングルの『Heart』は伝えたい想いが全面に感じられ、アコースティックで軽快なサウンドは後の『泣いたりしないで』以降のアコースティックバラード路線や、ライブでの弾き語りスタイルの定番化を予感させました。
続く8th『f』は音楽ルーツのバラエティ作品。楽曲それぞれの色がカラフルに出たアルバムです。『Escape』でのギターソロや『蜜柑色の夏休み』で故郷を歌ったことは、現在のスタイルに大きく影響していると感じました。
作風としては『Carnival』はボブ・ディラン、『HEAVEN』はキューバのブエナビスタソシアルクラブ、『家路』ではニール・ヤングをイメージし、『Gang★』ではロカビリー。最後は日本のルーツである泉谷しげるさんの『春夏秋冬』のカバーですから、これ一枚で世界を旅できる。ある意味では福山ルーツの集大成かもしれません。そしてその情報がCDに付いているライナーノーツにも少し書いてあるので、過去のCDには重要な情報が散りばめられていたなと実感しました。
その後は5年空いて9th『5年モノ』が出ます。この作品はほぼシングルコレクションなので、オリジナルアルバムかは賛否ありそうですが、楽曲自体は『f』から地続きの親しみやすいナンバーが並びました。フラメンコを取り入れたり、サーフミュージックが登場したり、新しい挑戦も見えた作品でした。締めに弾き語りの『わたしは風になる』が入る辺りは、福山雅治の音楽スタイルが定まってきた印象です。
今作のトピックとしては、前作から参加している井上鑑さんがメインのアレンジャーとなり、ここからの作品のほとんどが鑑さんとのセッションになります。元々ロック志向だった福山サウンドに、歌謡曲はもちろん、フュージョン、シティポップなどを彩った井上鑑さんの音作りが融合し、未知なる音楽スタイルに突入していきます。
そして「今」の音楽性にぐっと近づくのが、10th『残響』です。この作品はファンの人気も高く、空気感が変わり、新しい表現へ向かう重要作です。ルーツとして影響を感じるのは福山さんのリスペクトする全てのシンガーソングライターでしょうか。つまり、1人の表現者としての決意表明のような作品でした。
『残響』は少し影がありますね…なので『伝言』に近いです。『18 ~eighteen~』では長崎時代のことも歌われ、過去の福山雅治と、今の福山雅治の表現者としてのつながりを感じます。このアルバムを持ったツアーでは、福山さんが10代の頃に憧れていたルースターズの井上富雄さんがベーシストとして参加するなど、過去との接点も増えた印象です。
戦争へのメッセージを込めた『群青』や、東京という街に向き合った『東京にもあったんだ』、新たな代表曲になり得る『道標』も生まれました。いろいろな物事を考えることが多く「大きな心境の変化があった」と推測します。今後の音楽性を決める大切な時期だったのかもしれません。
続く11th 『HUMAN』は長崎出身の福山さんが被爆二世であることを公表したことが大きく影響した作品です。新曲9曲とシングル+セルフカバーの9曲で構成されたキャリア初の2枚組は『残響』と地続きな作風でありながら、サウンドは明るくなり、福山さんにしか作れないオリジナリティがより強まった作品です。
注目は被爆クスノキを歌った『クスノキ』と戦後の日本を歌った『昭和やったね』です。これまではサウンドとしての音楽ルーツを書きましたが、ここからは福山さんの人生のルーツが語られていきます。他には『家族になろうよ』『生きてる生きてく』『誕生日には真白な百合を』など家族愛や生命のつながりをテーマにした楽曲が並びます。
今作は限定盤のジャケットデザインから浜田省吾さんの名盤『J.BOY』を彷彿させます。浜田さんは広島出身で核兵器や戦争などへのメッセージを歌で問いかけました。それは広島に育ち、いろいろな経験を乗り越えてきた浜田さんにしか伝えられない言葉たちです。
『HUMAN』はその作品を愛聴した福山さんからの「先輩、僕はこう思いました」という返答にも思えます。それぞれ広島、長崎に生まれ、平和へのメッセージを発信し続けるお二方には、いつかスタジオやステージで共演してほしいなと思います。
12th 『AKIRA』では青年期の父との別れを取り上げます。テレビ番組でアジアや南米の音楽にも触れる機会があり、演奏やアレンジのスタイルも幅広くなっています。『聖域』はニューオリンズ、『漂流せよ』は南米。『甲子園』では青年期のブラスバンドへの原点回帰もありました。
中でも黒柳徹子さんの小説をドラマ化した際に主題歌となった『トモエ学園』は作家・福山雅治の集大成にも感じました。ここ最近では自身のパーソナルな部分に焦点を当てることが多いですが、この曲は徹子さんの人生がベースです。歌詞を見てもその情景が思い浮かび、様々なメッセージが優しく伝わります。福山さんは人それぞれの持つ魅力を引き出すのがとても上手いと感じます。徹子さんの想いが丁寧に表現されたこの曲は時間をかけて愛されていく予感がしています。
ロックをルーツにして幕を開け、洋楽の影響が入り、弾き語り中心での楽曲製作のベースが定着する。最終的には現在の「THE 福山雅治」にたどり着いたイメージでしょうか。『Heart』の歌詞ではないですが「ずっと探してた」自分らしい表現方法が今、見つかったのかもしれません。
こうして振り返ると、どの作品も「求められる音楽」と「伝えたい音楽」がうまく共存しています。たとえば5th『Calling』であれば、前者は『MELODY』、後者は『Good Luck』でしょうか。そのスタイルがそれぞれのアルバムの個性につながって魅力を引き立てています。
ルーツへの憧れから、自分らしさ溢れる作風へ。そしてサウンドも大きく変化しています。
②サウンド
最近は作詞、作曲だけでなく、編曲も単独で手掛けることが多く、最新アルバムのタイトルチューン『AKIRA』は福山さん本人の打ち込みを中心に作られています。ギターの演奏に関しても、Charさん、 SIONさん、泉谷しげるさん等から評価され、演奏全体の質も向上している印象です。個人的には『クスノキ』における終盤のギターは絶品で名演だと感じます。
福山さんのサウンドは、暖かみのある生音が魅力的なアコースティックの世界観や、激しいロックの音作りが中心ですが、本質は「アコギ1本で成立する楽曲」だと思います。現在は、その本質は変わらずに新たなステージに飛び込んだ印象です。現代のトレンドを自らの音楽性にうまく落とし込み、令和世代の『AKIRA』『心音』『光』はもはやBTSのような透明感のある最先端なサウンドにも近づいている気がします。
『AKIRA』発売時のインタビューでは、NATIVE INSTRUMENTS KompleteやSpliceのサンプルを使って、自分の手で打ち込んだという話もありました。自ら構築するサウンドはもはや「俳優でアーティスト」というイメージの域を超えていると感じますし、そこに達するまでに様々な挑戦や努力をされたのだと思います。
ただし、サウンドはどんどん進化を遂げるのに対し、歌詞はむしろ本人のパーソナルな部分により近づいているのが面白いです。
③歌詞
直近のテーマにあげられるのは先程もあげた「死生感」。
福山さんの楽曲の歌詞を見ると
「長崎」「平和」「つながり」「愛情」
私はこのワードが浮かびましたが、皆さんはどんなイメージでしょうか?
ここ最近の楽曲ではそのメッセージがより強くなったと感じます。
『道標』→亡くなったお婆ちゃんとのこと
『生きてる生きてく』→遺伝子、つながり
『クスノキ』→戦争を耐え抜いた被爆クスノキ
『AKIRA』→17歳のときに亡くなった父のこと
『彼方で』→別れ、その後のこと
『誕生日には真白な百合を』では亡くなった親への感謝など、これまでになく直接的なメッセージになりました。何気なく聴く『幸せのサラダ』『幸福論』『1461日』も実は深いテーマです。
一見明るい曲調でも、「いつか死ぬ」という人間の誰もが持つ影を表す一節が織り込まれています。そんな楽曲たちにあわせて『桜坂』などのヒット曲を聴けば、また違う景色が見えます。
「今」の福山さんの楽曲は、街を生きる人々の何気ない生活にも刺さり、何かを問いかける楽曲たちだと感じます。
これからは多様性の時代にもなり、「血のつながり」などのテーマも描きにくくなるかもしれません。ただ、福山さん自身は『家族になろうよ』を紅白で披露する際には、誰も傷つかない演出を依頼するなど、あらゆる多様性に理解のある方です。今後はまた時代にあった新しい表現方法で、これらのテーマが歌われるのかもしれません。
いろいろ書きましたが、福山さんをよく知らない人に1曲だけ勧めるなら、歌詞という観点でも『道標』かもしれません。2009年の曲ですが、これから出る全ての作品の根っこにもこの曲の影はあると思います。
少し気になったのは『道標』も『クスノキ』もPVが存在しません。長崎の映像を使えば地域のPRにもなりますし、これらの歌詞は世界中にも響くと思いますので、ぜひ数ヵ国語の翻訳字幕なども含め、今後の展開に期待したいです。
未来にも残るけど、過去にこの曲が存在したとしても、きっとこの曲は愛されたんじゃないか。そんな曲を作れるのも福山さんの魅力です。
・まとめ
ここまで書いたように、今後はより「福山雅治らしさ」を全面に、新たなサウンドが混ざり合う楽曲が登場し、今を生きる人たちの「鼓動」「想い」「生きざま」が表現されると考えると、昔よりも新曲のリリースが楽しみになってきます。
「福山雅治ってどんなアーティストなの?」
と聞かれたときに、昔の私は
「爽やかで元気になれる曲を歌ってる人だよ」
と答えそうですが、今は
「平和や命のつながりを歌ってる人だよ」
と答える気がします。どちらも正解です。それよりも「バラードの帝王」と話す人も多いかもしれませんし、むしろ大正解です。
でも確かに感じます。長崎や日本、世界の平和などに対し「自分の音楽が何かの役にたてないか」と。そんな想いを感じます。
そう考えたときに、1st『伝言』の1曲目の『PEACE IN THE PARK』が浮かびました。曲のタイトルはその名の通り長崎の平和記念公園から。
この曲、最近の曲とのつながりが確かにある。
思えば、最初からたどり着く音楽性はここだったのかもしれない。
今も公園でぼんやりと人の流れを眺めている心境かもしれない。
ある時は毎週のようにラジオで弾き語り、ライブのダブルアンコールでもギター1本で魅せる演奏の軸。音楽性は変われど、音楽のベースや想いは変わらなかった。それを続けていたからこその「今」の楽曲だと感じました。
最近ラジオでも話されていましたが、福山さんが一貫して歌いたかったのは「生と死」です。音楽スタイルは変わりましたが、曲に込める想いの軸は変わりませんでした。
福山さんのいいところは、新しいチャレンジをしつつも、これまで愛された楽曲やテイストもずっと大切にしてくれるところです。
今後さらに生まれる新しい音楽性や代表曲と共に、王道ラブソングや爽快なロックナンバーも響く、音楽における多様性、それこそが福山雅治さんの魅力だと感じています。
そしてやはり福山さんはとにかく視野が広い。この記事ではライブにもバラードにもラジオにも弾き語りにも俳優業にも、活動休止期間や長崎についてもほとんど触れていないです。ヒット曲の誕生にまつわる想いや、参加されたミュージシャンの方々からの影響にも言及もしていません。
福山さんの「今」はここで書けなかった多くの活動や心境の変化もあってこそです。本文に書いたのは、あくまで1リスナーの1つの解釈です。
最後に、福山さんは誰に向かって音楽を届けようとしているのか。
本人も話していましたが、福山さんは自分の音楽を聴いて笑顔になってくれる人たちをイメージしている気がします。もちろんこれから出逢う人たちも含めて。
歌の先にあるのが誰かの笑顔であるからこそ、多くの楽曲が今も愛され続けているのかと思いました。人間の感動は分析できません。まさにその1人1人と向き合った音楽と言えるでしょう。
ここまで書いたのは私の思う福山さんの「今」。このイメージを超える、これからの「未来」を楽しみにしたいです。長文を読んでいただきありがとうございました。
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