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収穫・ねどこで

その人の手を覚えていました。

私を土の中に隠した大きな手。

また会おうとその人は言ったので、暗闇も恐ろしくはありませんでした。

茎を上へと伸ばし、空の機嫌と大地の夢をゆりかごに私は私を増やしていきました。

時折、むずがゆい虫をつまんで、肥を足し、土を寄せてくれたのもきっとあの手だったのでしょう。

百日を過ぎると、ささやかな花も茂らせた緑の葉も枯れてゆきました。

ある日、地が割れ、ジャガイモの目には眩しいほどにあたりが明るくなりました。

優しく掬い上げてくれたのは、手袋を通してでもわかる懐かしさ。

「やあ、豊作だね」

お待たせいたしました、どうぞすっかりお食べになって。土を拭ってくれる指に私達は頬ずりをしました。

僕がベッドの上で叔父さんの前髪を撫でていると、「細くてきれいな指だ」とその手を掴まれ天井にかざされた。

「欲しい? 瓶に詰めたら飾ってくれる?」

「ヤクザじゃあるまいし。四課に聞いたが、極道でエンコ詰めはもう流行らないらしい。道具がうまく持てなくなるし」

「拳銃とかドスが?」

「ホイッパーとか絞り袋が」

解放された右手で晒された腹の傷跡をなぞる。

中年に差し掛かっても、正義感の強いダックワーズ警部は厭わず危ない橋を渡ろうとする。昨晩みたいに崩れそうな顔で笑うのに。

叔父さんにはできるだけ長く僕だけを追っていてほしい。

手柄を立てられなくてごめんね。

この怪盗ブルトンヌが鮮やかな手口で守ってみせるから、何度でも。

「ねどこで」と同じ世界観

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