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摘果シードル/ヒモと干物王
りんご農家に居候している山猿から呼び出された。
猿は樹上で熱心に実すぐりをしていた。
未熟なうちに九割方を間引くのは、栄養が行き渡った大玉を育てるのに不可欠な作業だ。
ーテキライテキカカテキライテキ次の世でこそ赤くなれー
落とされた幼果が彷徨わず土に還れるよう、歌を絶やさず身軽に枝を渡っていく。
「頼み事というのは」
「酒を造ってほしい、この実でな」
投げてよこしたのは摘んだばかりの緑の実。
「身を守るために苦く酸い、猿でも食べぬよ。キレや渋みがありながら飯に合う、麦や葡萄の酒にも劣らない林檎酒をお主なら造れるだろう?」
慣れてももげば聞こえるのだと『エラバレタカッタ』足元に広がる一面の幼な声。
「承知しました」
ーーーーーーーーーー
ヒモ失格で追い出され、港町にやって来た。
金を稼いで女を見返してやる、ハチマキ頭の漁師に「少々お時間よろしいでしょうか」忙しいと断られた。
畜生、誰も選んでくれない人生。
ひなびた売店の軒先に並ぶ金目鯛と目が合った。
「汝、そのままいじけて干からびるか」
威厳のある声だった。干物の王かな、たぶん。
「我は運悪く干されていたが、あがくことにした。汝、我を頭に乗せ大波に向かって走るがよい。世界に夜明けをもたらそうぞ」
俺は選ばれたと思い、金目鯛を曇天に高く掲げた。
それを合図に近隣の干物たちが一斉に走り出した。
カマスは跳ね、洗濯バサミの付いたアジが空を飛んだ。
炙られるだけなんて糞そくらえ、海を切り裂け、夜明けだ!
(300字)
「Twitter300字ss」企画参加作品 第六十九回/お題「選ぶ」
いただいた引用RT感想
シードル最近飲んでないけど好きなお酒。落とされちゃった子たちもお酒になれるんかな…。ヒモと干物www その様子を想像するだけで楽しいですね!! https://t.co/rOyRhR8MJY
— 服部匠@一次創作/お菓子屋さん小説と男女逆転系ラブコメ小説 (@tencus) October 3, 2020
干物の王…!金目鯛だもの、そりゃ王様だ。カマスやアジもついて来るよ! https://t.co/n0KoLHkhMD
— 鳥飼泰 (@torikaitai_yo) October 3, 2020
「摘果シードル」
— 秋桜みりや (@mrycs0219) October 3, 2020
最後まで不思議な世界観でした!
これが猿の日常なのだと思うくらい描写が緻密でした!
「ヒモと干物王」
言葉選びや台詞がおもしろくて、最後まで夢がある作品で元気が出ました!
これからも作品を楽しみにしております* https://t.co/obazNV8ORe
どちらも、世界観がたまらなく好き。とくにヒモと干物王の滑稽さ、勇ましさ、まるでドン・キホーテのよう。捨てられても濡れても笑われてもそのまま進んで欲しい。 https://t.co/oFneGQFtVs
— なかの (@butaneko311) October 6, 2020
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