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マトリックスの原理1° 誰かの金融資産は誰かの金融負債

金融資産と金融負債を対象にしている金融マトリックスには従っている原理があります。ここでは『誰かの金融資産は誰かの金融負債である』と『決済手段は銀行の金融負債として供給されている』という根本的な2つの原理とそこから派生する4つの原理を述べます。

金融資産・負債は人が作った契約であり同じ契約の一方の当事者にとっては金融資産、もう一方の当事者からは金融負債となります。従って個々の金融資産・負債でも、それを集計したマトリックスでも、残高(ストック)、取引額(フロー)、時価変動(調整)は資産・負債で同じ残高、同じ動き、同じ評価変動になります。この原理1°は金融を資金循環的にとらえる重要な観点になります。

上のパネルの論理フローを補強します。
①1個の契約で金融資産と金融負債を計上しこの契約の金融資産と金融負債は従って同じ残高、同じフロー、同じ調整(時価評価差額)となる。
②マトリックスは個々の契約の集計体であり、従って全部門合計では金融資産と金融負債の残高、フロー、調整は同一となる。
唯一の例外は通貨当局保有の「金」で、資産サイドのみで負債サイドには計上されていない。
③マトリックスは1契約に同じ項目名を使用し資産サイドの部門と負債サイドの部門に計上している(例えば住宅ローンは国内銀行部門の資産サイドの「住宅貸付」、家計部門の負債サイドの「住宅貸付」に計上されている)。
従って全部門合計では項目毎の金融資産と金融負債の残高、フロー、調整は同一となる(例外は「金」)。
④金融負債が増加すると金融資産が同量増加するが、バランスシートのほとんどが金融資産と金融負債からなる金融機関は捨象でき、非金融部門の金融負債が増加すると非金融部門の金融資産が増加し、減少すると減少する。
⑤各部門のネット金融資産(金融資産と金融負債の差額)も同様に全部門合計は常にゼロで、ある部門のネット金融負債が増加すれば他の部門のネット金融資産が増加するかネット金融負債が減少する。

パネルの1980年3月末から2021年3月末までの部門ごとのフロー差額累計の年度ごとの推移が次のグラフ。

一般政府部門の大幅なネット金融負債の供給(中央政府の国債発行による支出)と海外部門のネット金融負債の供給(経常黒字の累積)により家計部門が大幅なネット金融資産となっている。非金融法人部門は1997年度まではネット金融負債の供給(資金不足)、98年度以降はネット金融負債の減少に(金融負債のネット返済)、2014年度以降はネット金融資産に転じている。

マトリックスの原理1°から導かれる資金循環的な観点は、
①非金融部門の金融負債が増加すると非金融部門の金融資産が増加する。
家計部門の金融資産(中心は現預金)が増加し続けているのは中央政府の国債発行残高が増加し続けているから。
②ネット金融資産も同様に家計や非金融法人企業のネット金融資産の増加は中央政府と海外部門のネット金融負債が増加しているから。
③非金融部門の金融資産残高と金融負債残高はほぼ同量であることから、非金融部門の金融負債残高が減少しなければ家計部門(非金融部門)がどんなに消費しても、あるいは投資しても非金融部門の金融資産は減少しない。
中央政府が国債残高を減少させない限り家計がどんなに消費しても、投資しても非金融部門内を資金循環し非金融部門(中心は家計と企業)の金融資産は減少しない。
です。

9月20日に資金循環統計の2022年第2四半期速報と21年度確報が公表されました。
資金循環 : 日本銀行 Bank of Japan (boj.or.jp)
コロナ対策で増大した非金融法人企業部門の金融負債の動向や中央政府の過ってないネット金融負債の増加に伴って急増を続けている家計部門の金融資産の動向が注目されます。原理の紹介後に分析結果を紹介する予定です。

原理2°『決済手段は銀行の金融負債として供給されている』へ続きます。

原理1°の詳細につきましては、
金融マトリックス―国債と銀行の運命 | 磯野 薫 |本 | 通販 | Amazon
を参照してください。


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