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スナック忘れな草~「オークス前編」&「平安S・カムカムエブリバディ」~

■ ギョニ子の嘘

2023年5月15日(月)午前9時
-常磐自動車-

真一郎の運転する車は、常磐自動車を仙台方面へ快調に走っていた。旧姓に戻すための書類を家裁で受け取ったり、市役所で転出手続きをしたりするために岩手に戻るのだ。少しだけ開けた窓から入ってくる風が心地よく、様々な手続きを行う憂鬱さを一瞬忘れることができた。

それにしても驚いたなあ。真一郎は昨日の出来事を思い出していた。ヴィクトリアマイルが外れたのをスナック忘れな草で見届けたあと、ギョニ子に公園に行かないかと誘われた。なぜ公園にと思いながら、特に予定がなかった真一郎はその誘いに応じた。

公園についてベンチに座ると、何組かのファミリーに混ざり、ギョニ子の姉夫婦と真斗君がブランコで遊んでいるのが見えた。春天1点予想をしたとき以来だ。真斗君はお父さんに背中を押してもらいながら、足を思いっきりこいで楽しんでいる。

「しんちゃん、あのね・・」

ギョニ子の暗い声のトーンに、真一郎は嫌な予感がした。ギョニ子はスマホを操作し、まだ産まれたばかりと思われる真斗君の写真を見せた。抱いているのは疲労感がありながらも、Vサインをしながら満面の笑みを浮かべている、病衣を着たギョニ子だ。

真斗君の「真」は真一郎の「真」・・・

「・・・まさか?」

真一郎の問いかけにギョニ子はこくりとうなずいた。

「しんちゃんの子だよ」

1分ほど沈黙があった。いや、実際は20秒ほどだったのかもしれないが、真一郎にはそのくらいの長さに思われた。

「あのときのか・・・」

真一郎とギョニ子は一度だけ男女の仲になったことがある。スナック忘れな草で夜中まで競馬の予想をし、珍しく一緒に店を出た日があった。店を出たとたんギョニ子に強引にキスをされて、気がついたらギョニ子のアパートで抱き合っていた。

「中に出して」とギョニ子が言うと同時に、真一郎は果てた。抱き合ったまま「大丈夫なの?」と真一郎が問うと何も言わずにギョニ子は、真一郎の頭を幼い子供にするようによしよしと撫で続けたのだった―

それから数日後に真一郎の父が病で倒れたため、真一郎は岩手に戻ることになった。2016年7月のことだ。

「あたしひとりで育てるつもりだったんだけど、真斗には発達障害があったの。自閉症スペクトラム。子供がなかなかできなくて悩んでいた姉に相談したら、それならば養子として是非うちで預かりたいってことになって・・・真斗がまだ物心つく前だったし、障害がある子なら両親がいたほうがいいと思って・・・」

最後のほうは声にならず、横を見るとギョニ子は嗚咽を漏らして泣いていた。障害がある子を人任せにした、ひどい母親と思われたくないのであろう。仕事として障害のある患者やその家族と接している真一郎には、痛いほどその気持ちがわかった。

ひとしきり泣いたあと、ギョニ子は言った。

「いつまで待ってもしんちゃんが告ってくれないから、子供ができたら一緒になってくれるかなと思ったの」

目の周りは赤く腫らしているが、表情はいつものギョニ子に戻っていた。

「ねえ、しんちゃんの本命は誰なの?」

いたずらっ子のように尋ねるギョニ子の真意はわかっていたが、真一郎はあえてはぐらかした。

「本命か・・・やっぱリバティアイランドじゃない?」

「このバーーーカ!!」

叩こうとして追いかけてくるギョニ子から逃げながら、真一郎はもう逃げられないなと思った。

■ マスターの師匠

2023年5月19日(金)午後8時
-東京都某区 スナック忘れな草-

ギョニ子がいつもの指定席、右から2番目の席に着くと、目の前にはカーネーションの花籠があった。赤が6割、ピンクと白が2割ずつのカーネーションは、少しくたびれてきたとはいえ、まだまだ店内を明るくしてくれていた。先週の日曜日に常連客のひとりが、母の日ということで麗子ママにプレゼントしたものだった。

「土曜日にカーネーションカップがあるわね。1枠3枠8枠のボックスを買ってみようかしら?」

ギョニ子がそう言って生ビールのジョッキを傾け始めると、左角にいたタコ社長が手を振りながら言った。

「やめときやめとき。そんなんで当たったら誰も苦労しないさ」

小馬鹿にした言い方にカチンときたギョニ子は、意地でも買ってやろうとスマホを操作したが、3枠と8枠はともかくとして、1枠が単勝万馬券の穴馬なのを見て、やっぱりやめておこうと思った。これなら枠3-8の1点買いで勝負するようなものだ。枠3-8といえば先週のヴィクトリアマイルだなと思いながらマスターのほうを見ると、パソコンで何やら調べものをしている。

「ねえマスター。マスターは普段どこで情報収集しているの?」

ギョニ子の問いかけに顔を上げたマスターは答えた。

「そうですね。基本はJRA関連の媒体であるホームページ、YouTube、Facebookでしょうか。あとはサイン仲間の立ち上げた掲示板ですね。私の師匠のひとりと言っていい、くろたんという方の限定掲示板です」

マスターの説明によると、その掲示板の管理人であるくろたん氏から、競馬のサインアイテムの使い方、考え方をたくさん学んだという。

「キーになりそうなある馬がいたとして、その馬の直近勝利日のリザルトだけでなく、同日のメインレースのリザルトも見るというのは、私にはなかった引き出しです。そのほかにも出馬表における前走馬体重、調教師、種牡馬の同枠配置などから、サインを導き出す手法も考案されています」

「へえ、マスターはその掲示板で自分のサイン読みを磨いているのね」

ギョニ子がそう言うとマスターはうなずいた。

「サイン読みの手法に正解不正解はないと思います。自分に合うやり方を見つけてそれをブラッシュアップする。ときに他の手法も試してみる。そうやって試行錯誤していると、いつの間にか有馬記念を迎えている。そんな感じですね」

マスターが笑ってそう言うと、みんなが頷いた。

「そうなんだよなぁ。ついこの間金杯だと思ったら、今週はオークス、来週はダービーっつうんだから、あっという間に年を取るわけだ」

タコ社長がそう言い終わると、つまみを用意していた麗子ママが言った。

「社長さん、今日子ちゃん、ほやは大丈夫だったかしら?」

「お!俺は大好物!ほや、なまこ、食えねえやつの気が知れねえよ」

「あたしも大好き!あの磯臭さがいいのよね」

麗子ママがふたりの前に置いたのは、ほやときゅうりをポン酢であえたものだった。知人が新鮮なほやを送ってくれたという。

「これなら眞露より日本酒だな」

ほやを一口食べたタコ社長がそう言い終わる前に、マスターは日本酒を全員分用意していた。

■ ゲスト本郷奏多

みんなでほやと日本酒のマリアージュに舌鼓をうったあと、オークス当日のゲスト、本郷奏多の話になった。

「俺はどうもこのゲストサインっつうのが苦手でね。マスター、この本郷奏多ってどう解釈すんのかなあ?」

タコ社長がそう問うと、マスターはパソコンをみんなに見えるように向きを変えた。

「ちょうど先ほど話したくろたんの掲示板で、くろたんが考察したものがあります。当日ゲストの誕生日に施行された、直近GⅠをみる方法です」

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名前:くろたん 2023/05/16(火) 12:57 

オークス当日のゲストには
相応しいとは言えない本郷奏多ですが、
サインを追ってくと、納得してしまいます。

本郷奏多 1990.11/15

G1のゲストなら
直近G1にサインがある。

11/15直近G1レース

2020.11/15 エリザベス女王杯
1着 8ー18 ラッキーライラック

これを見た瞬間、何かあると感じるのは
私だけじゃないでしょう。

ラッキーライラック
桜花賞とオークス

特殊決着の見本

2018 桜花賞
1着 7ー13 アーモンドアイ
2着 1ー01 ラッキーライラック
3着 5ー09 リリーノーブル

これだけ見ても、サインは見えてこない。

2018 オークス
1着 7ー13 アーモンドアイ
2着 1ー01 リリーノーブル
3着 1ー02 ラッキーライラック

ここまでたどり着いたら、感じますよねー。

2023 桜花賞
1着 2ー03 リバティアイランド
2着 5ー09 コナコースト
3着 7ー14 ペリファーニア

究極の配置なら

2023 オークス
1着 2ー03 リバティアイランド
2着 5ー09 ペリファーニア
3着 5ー10 コナコースト

配置まで期待していませんが、
最低でも馬連、最高で3連単まで期待したくなるサインです。

出走馬情報

2頭だけゼッケンが、確認できる写真があります。

3番 リバティアイランド
14番 ペリファーニア

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※くろたん掲示板より

「本郷奏多の誕生日に施行された直近GⅠが、ラッキーライラックが勝った連覇年のエリザベス女王杯。そこから同世代のアーモンドアイに着目し、リバティアイランドの二冠と、2.3着馬もリピートがあるのではないかという考察です」

「なるほどなぁ。アーモンドアイのオークスのように、リバティアイランドがまたしても3番とはならなかったけど、コナコーストとペリファーニアは同じ位置に入ったじゃねえか?」

タコ社長のことばにマスターがうなずいた。

「おっしゃる通りです。2.3着馬の2頭だけでなく、2番ライトクオンタム、13番ドゥーラも同じゲート。これはサイン読みファンの多くが気づくことであり、また、悩むところでもありますね」

「桜花賞で馬券になった馬が、オークスでも同じゲートに入ったことって、今まであるのかしら?」

ギョニ子のこの問いには、マスターはすでに答えを用意していた。

<桜花賞3着内かつオークスで同ゲートに配置された馬>

1997 メジロドーベル 16番
桜花賞2着(キョウエイマーチ)→オークス1着

2018 アーモンドアイ 13番
桜花賞1着→オークス1着

2023 コナコースト 9番
桜花賞2着→オークス?着

ペリファーニア 14番
桜花賞3着→オークス?着

「コナコーストとペリファーニアのどちらか、または両方が馬券になるってことかしら?」

ギョニ子の問いにマスターが答えた。

「それもあるかもしれません。ただ、2頭が同ゲートに配置されたことと、アーモンドアイは桜花賞、メジロドーベルは阪神3歳牝馬ステークスですでにGⅠ馬を勝っている点が、コナコースト、ペリファーニアとは異なります。2.3着馬を同ゲート配置にすることで、実は桜花賞1着のリバティアイランドを示唆ということもあり得ます」

マスターはそう言うと、ワードに書き込んであった別のデータを見せてくれた。

<2020 無敗の三冠馬 ゲートサイン>

高松宮記念
7-13 デアリングタクト(秋華賞)
7-13 ファストフォース

大阪杯
5-09 デアリングタクト(桜花賞)
5-09 ジャックドール

桜花賞
2-03 コントレイル(菊花賞)
2-03 リバティアイランド

皐月賞
1-01 コントレイル(皐月賞)
1-01 ソールオリエンス

オークス
3-05 コントレイル(ダービー)
3-05 リバティアイランド 1着?

ダービー
2-04 デアリングタクト(オークス)
2-04 ソールオリエンス 1着?

「なんじゃこりゃ?デアリングタクトとコントレイルの三冠ゲートが、こんな風に使われてたってわけかい?」

タコ社長が目を丸くして言うと、マスターが頷いた。

「結果論ですがそうなりますね。ダービーゼッケンとオークスゼッケンだけ、秋競馬に持ち越すとは思えません。オークスでコントレイルのダービーゲート、ダービーではデアリングタクトのオークスゲート。綺麗に使い切って二冠馬が2頭誕生。十分にあると思っています」

オークスの軸はリバティアイランドでいいだろうということになり、10分ほど休憩することになった。

■ 鶴 蛸 蛆

「しんちゃんからメールが来てるわ」

休憩が終わるころ、スマホをいじっていたギョニ子が言った。

真一郎は岩手でもろもろの手続きを終え、水曜日には東京へ戻ってきていた。面接を受けていた病院から火曜日に採用の連絡があり、水曜日に各書類への記入と、健康診断を受けにくるようとの指示を受けていた。

仕事開始は来週あたりからと考えていた真一郎であったが、可能であれば明日から来てくれということで、木曜日が新しい職場での仕事始めとなった。

岩手からの長距離運転、アパートへの入居、仕事の再開。今週ずっと忙しかった真一郎は、金曜夜の予想には参加しないとギョニ子に連絡済みだった。

新しい職場での初日は、指導役の言語聴覚士のリハビリ場面を見学させてもらった。前の職場に入職したとき以来の見学で、心地よい緊張感を味わった。

一人目の患者は発話面にはほぼ問題はなく、軽度の高次脳機能障害がある60代の男性患者だった。高次脳機能障害とは、脳梗塞や脳挫傷などの脳損傷により、注意障害、記憶障害、遂行機能障害などを引き起こすものだ。身体に麻痺がほとんどなく、発話面にもほぼ問題がない場合、周囲の人からは怠け者とか性格が悪い人だという誤解を招くという問題がある。

「この文字を並べ替えるとある芸能人の名前になります」

指導役の先輩言語聴覚士が提示した文字は以下のものだった。

ごみひろう

「ゴミ拾う」と頭が勝手に読んでしまうため、すぐに芸能人の名前に変換するのは意外と難しい。真一郎が正解にたどり着く前に、患者が答えた。

「郷ひろみ!」

「正解です。ではこれは?」

言語聴覚士は新しい問題をホワイトボードに書いた。

ひまできつい

これも「暇できつい」と読めることが邪魔をする。今度も患者のほうが早かった。

「ま、松井秀喜!」

「そうです。ゴジラ松井ですね」

言語聴覚士がうなずきながら言った。

「ではこれはどうでしょう?」

鶴 蛸 蛆

今度は漢字で問題が提示された。「つる、たこ・・・」はて、3文字目はなんと読んだかなと考えていると、患者からも質問があった。

「つる、たこの次はなんでしたっけ?」

「“うじ“です」

言語聴覚士が答えた。

「つる たこ うじ  さて、芸能人は?」

言語聴覚士が言い終わらないうちに、患者が笑いながら答えた。

「鶴田浩二!なんだよ、そのままかー」

「そうなんです。漢字三文字で書かれると分かりづらいですよね」

言語聴覚士がそう言うと、患者は頭をかきながら「やられたなあ」と笑った。

真一郎からのメールは、このときの3問、「ごみひろう」「ひまできつい」「つる たこ うじ」が書かれていた。競馬のサイン読みに疲れたら、みんなで考えてみてと書かれてあった。

タコ社長、マスター、麗子ママに出題してみると、最後の鶴田浩二にみな苦戦した。なんだよ鶴田浩二かーと笑ったタコ社長は、カラオケで鶴田浩二の『傷だらけの人生』を入れて熱唱した。

その間、東京競馬場のイベントページを見ていたギョニ子は、なんとなく「ほんごうかなた(本郷奏多)」で、アナグラムが作れないか考えていた。「ほんごうかなた・・ほんごうかなた・・ほん、ごう、かなた・・ほん、ごうかな、た・・・」

「あああ!」

ギョニ子が大声をあげたものだから、タコ社長がびっくりしてカラオケを止めた。

「てめえこの野郎、競馬に関係ないことだったら張り倒すぞ!」

「ありもあり。オオアリクイよ!オークスゲストの本郷奏多、名前に『豪華な』があるわ!」

ほん(豪華な)た

ギョニ子はスマホのメモ画面でそう書いてみんなにみせた。

「これは気づきにくいわね。苗字の後半と名前の前半で『豪華な』。ミッキーゴージャズってわけね」

麗子ママが目を輝かせて言った。

「それはそうとよう。残りの『ほんた』はどうなるんだよ」

ひねくれもののタコ社長が難癖をつけたとき、マスターが言った。

「『ほんた』にも意味があるかもしれません。『ほんだ』と濁らせて『本田優』示唆じゃないでしょうか」

マスターが見せてくれた画面には、カワカミプリンセスのオークスが表示されていた。

「3戦3勝。つまり無敗馬。そして芝1800のスイートピーSからの戴冠でしたから、ミッキーゴージャスと合致します」

カワカミプリンセス
3戦3勝 4連勝でオークス制覇
前走スイートピーS 芝1800

ミッキーゴージャズ
2戦2勝 3戦目がオークス
前走 芝1800 1着

「なるほどなあ。戸崎圭太のミッキーゴージャス。ヴィクトリアマイルのソングラインに続いて、一発あるかもしれねえな」

タコ社長がそう言ったところで、10分休憩してから明日の平安ステークスを予想しようということになった。

■ カムカムエブリバディ

10分後、マスターはすでにワードにまとめてあったものをみんなに見せた。

●平安ステークス

2021 オーヴェルニュ 1着
(2020 名古屋城S 1着

2022 テーオーケインズ 1着
(2021 名古屋城S 1着

2023 グロリアムンディ ?着
(2022 名古屋城S 1着

「今年も名古屋城S勝ちのグロリアムンディかしら?」

ギョニ子の質問にマスターは言った。

「そうかもしれませんが、昨年一昨年と違うのは、今年は京都開催に戻るということです」

あ!と声をあげてタコ社長が言った。

「そうだったそうだった。去年とおっとしは中京での代替開催だったよなぁ?だからこその名古屋城S組だったってことがあれば、グロリアムンディ頭は危険かもな」

「そういうことです。ましてや鞍上はリバティアイランドの川田将雅。春天のルメールのように、土日重賞連勝もあるかもしれませんが、普通はどちらかひとつでしょう」

マスターが言ったのは、青葉賞スキルヴィング、春天ジャスティンパレスと、土日重賞連勝したルメール騎手のことだった。

「そうなると他に狙える馬はなにかな?」

タコ社長の問いに、マスターは答えた。

「今年の平安Sが面白いのは、30回目にして初めて、『前走平城京S組』が参戦することです。平城京Sが今年5月に移動したことで実現しました。平城京、長岡京、平安京と都は移動しましたから、平城京S組のいる5枠は無視できません」

1-02 グロリアムンディ
2-03 ハイエンド(前走:平城京S11着
2-04 ホウオウルバン

5-09 メイショウフンジン
5-10 タイセイドレフォン(前走:平城京S1着
6-11 ハギノアレグリアス

「2枠と5枠。枠が違う隣馬まで含めるとグロリアムンディ、ハギノアレグリアスの人気馬にあたるわね」

ギョニ子がそう言うと、ガラケーで出馬表をチェックしていたタコ社長が言った。

「9番のメイショウフンジンだけどよう、3走前がアルデバランS1着じゃねえか。アルデバランといえば『カムカムエブリバディ』の主題歌だったよな?」

「よく知ってるわねタコ社長!AIが歌った曲。あたしよくカラオケで歌ったわよ」

ギョニ子がそう言うと、タコ社長はえへんと咳払いをしたあと、胸をそらして言った。

「あの『カムカムエブリバディ』ってほら、ラジオ英会話の話が出てくるじゃねえか?俺は普段まず朝ドラなんか見ねえんだけど、英語が得意科目だったからよう、つい気になって最後まで見ちまったってえわけさ」

タコ社長が英語を得意としていたのは本当だった。だが、英語を頑張って勉強した理由が、思春期のころ雑木林で見つけた洋モノの無修正エロ本にショックを受け、いつか俺は金髪姉ちゃんとハメまくってやるんだという、不純な動機だったことはもちろん隠していた。

「オークスゲストの本郷奏多と『アルデバラン』がつながりましたよ。『カムカムエブリバディ』に本郷奏多が出ています」

マスターがそう言って示したパソコン画面には、『カムカムエブリバディ』の相関図が映し出されていた。3代目ヒロイン大月ひなたに関わってくるのが、本郷奏多演ずる五十嵐文四郎であった。

みんながうんうんと頷いていると、スマホを操作していた麗子ママが言った。

「YouTubeに登場したメジロドーベルだけど、オールカマーを勝ってるわね。オールカマーってカムカムエブリバディと同じ意味じゃないかしら?」

「ビンゴだよママ!オールカマーもカムカムエブリバディも、みんな来い来いだからなあ」

タコ社長がそう言うと、ギョニ子が大きな声を出した。

「佐々木蔵之介の誕生日が、今年のアルデバランSの日と同じだわ!」

佐々木蔵之介(2月4日生まれ)

2023/2/4 アルデバランS 
メイショウフンジン 1着

「つながったじゃねえか、ギョニ子!『ウマのそら』で誕生日の話題があったから、こりゃいいんじゃねえの、メイショウフンジン!」

タコ社長がそう応じると、今度はマスターが注目したいゲートがあるという。

■ 長岡禎仁

「前走平城京S組が初参戦の平安Sですから、この騎手のゲートは要注意でしょう」

平城京
  ↓
長岡京
  ↓
平安京

「平城京から直接平安京に遷都されたのではなく、長岡京を挟んでいます。『長岡』を持つ長岡禎仁騎手のゲートを見てみましょう」

<長岡禎仁 5/20(土)騎乗馬>

京都04R
4-08 ティーティースター

京都09R メルボルントロフィー
2-02 トウシンカーリン

1-(02)グロリアムンディ
4-08)ロードヴァレンチ

「2番と8番・・・メイショウフンジンには重ならなかったわね」

ギョニ子が残念そうに言うと、マスターは首を振った。

「そうとも言えませんよ。こうするとどうでしょう?」

4-08 長岡京
5-09 メイショウフンジン
5-10 平城京

「『4枠8番』のロードヴァレンチは長岡騎手のゲートなので『長岡京』、10番タイセイドレフォンは前走『平城京S』で『平城京』。メイショウフンジンは『長岡京』と『平城京』に挟まれているというわけです」

うんうんと頷くみんなに、マスターはさらに続けた。

「『ウマのそら』佐々木蔵之介編ですが、ふわっと上空に浮かんだあと、横になって気持ちよさそうな表情を浮かべています。あれはもしかしたら、お酒に酔っているということを示しているのかもしれません」

5-09(メイ)ショウフンジン()井学

「メイショウの『メイ』と酒井学の『酒』で『銘酒』ってわけかい?なるほどこりゃいいかもなあ!」

タコ社長がそう言うと、スマホを操作していたギョニ子が言った。

「見上愛ちゃんの誕生日は10月だからまだ先だけど、長澤まさみちゃんの誕生日は6月3日。その日はアハルテケステークスがあるわ。去年のアハルテケステークスを見てみたら、11番のハギノアレグリアスが出走してて4着よ」

「それはいい情報ですね」

マスターが後を引き継いだ。

「先ほどの『前走平城京S組』の隣でもありますし、メイショウフンジンの相手はこのハギノアレグリアスと2番のグロリアムンディでいいのではないでしょうか」

「よし!平安Sはメイショウフンジンの単複、5枠から1枠6枠への馬連で行こうじゃねえか!」

新しく入れられた生ビールで乾杯し、平安Sの買い目が決まった。

スナック忘れな草の勝負馬券
平安ステークス
単複:9番メイショウフンジン
枠連:5-1.6

スナック忘れな草
~「オークス前編」&「平安S・カムカムエブリバディ」~
-完-


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