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映画『ELVIS』、いま観るべきキング・オブ・ロック。


エルヴィス・プレスリー。
わたしにはオールディーズ歌手、ド派手な衣装で、もみあげ長めのキングオブロックという程度の認識しかなかった。要するに『ELVIS』を観るまで何一つ彼のことなど知らなかったのだ。

しかし、この物語を観たいま、まるで新しいお気に入りのアーティストを発見してしまったかのような高揚感を感じている。苦悩するエルヴィスの一面を知ることが出来た以上に、アーティストとしての彼に出会えたことが非常に大きい。


わたしにとって衝撃的だったのは音楽だ。
バズ・ラーマン監督のギラギラした演出がエルヴィスとは相性抜群、『ELVIS』は素晴らしい音楽体験となった。原曲の持つテイストを損ねることなく、低音やドラム音が身体に響き、新たなアレンジで体感する彼のナンバーは古さを全く感じさせない、なんなら一周回って新しい。

そして何より興味深いのはこの物語がエルヴィス・プレスリーのマネージャーであるパーカー大佐の視点で語られることだろう。エルヴィスを巧みに操る強欲な大佐をアカデミー賞俳優、トム・ハンクスが見事に演じている。

エルヴィスとパーカー大佐は光と影だ。
共依存ともとれる両者の関係性は一言で説明出来るものではない。仮にエルヴィスが大佐から解放されていたとしても、彼がより偉大なアーティストになれたかは誰にも分からないミステリーだ。

大佐にとってのエルヴィスはそれこそカーニバルの客寄せのための見せ物、geek(獣人)だったのかも知れない。結果的に大佐の作り手出したカーニバルから抜け出すことが出来なかった彼は利用されていたと言えばそれまでだろう。

しかしエルヴィスがgeekと決定的に違うのは、囚われの身でありながら、彼が人々に希望を与え続けたことではないだろうか?わたしがエルヴィスに惹かれるのもそこだ。

1968年キング牧師が暗殺され世界は一つの希望を失った。その年末にテレビライブ特番「68 カムバック・スペシャル」でエルヴィスは「If I Can Dream」を歌う。これはキング牧師のIf I have a dream〜の演説のアンサーソングであり、希望を捨てず、困難に立ち向かう信念をエルヴィスは力強いパフォーマンスで世界に示したのだ。

この曲を聴いて希望や生きる力を与えられた者がわたしを含めどれだけいるであろうか?


白人でありながらゴスペルやブルースに育てられたエルヴィスは、黒人音楽を白人に普及させ、人種間の分断の融和に多大な影響を与えた人物だろう。これまでの歴史観が次々とキャンセルされる現代カルチャーにおいて、否定しようのない彼の存在はますます重要視されていくだろう。

そして「If I Can Dream」は世界に暗雲が立ちこめようとしている現在、再び聴かれるべき歌なのだと思う。

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