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アカデミー賞脚本賞『イタリア式離婚狂想曲』

 ピエトロ・ジェルミというと『刑事』『鉄道員』が有名だが、それ以外の作品も優れたものが多く、この2本で終わってしまうのはもったいないです。特に私のお気に入りはこの『イタリア式離婚狂想曲』で、アカデミー賞脚本賞を受賞したのも納得できるほどの優れたシナリオです。

 例によって私が書いた本作の概要がこちらです。

 シチリアの没落貴族の末裔フェルディナンド(マルチェロ・マストロヤンニ)は12年連れ添った女房ロザリア(ダニエラ・ロッカ)に辟易としていた。彼は事あるごとに彼女が死ぬことを妄想する。離婚が禁じられているこの国では、妻が死なない限り別れられないのだ。そんなフェルディナンドは年甲斐もなく美しい従妹アンジェラ(ステファニア・サンドレッリ)に憧れを抱いていた。ある夜、フェルディナンドはアンジェラの日記を通じて、彼女もまた自分に恋心を抱いていると分かり有頂天となった。そして町の話題をさらったある裁判をきっかけに「妻の不倫を見て逆上し、名誉を汚され、憤りで死に至らせた者」は軽い刑で済むという法律があることを知った彼は、ロザリアに不貞を働かせて殺すため、適役の男を探し始める。
 かつてイタリアの法律では「酌量すべき情状」とみなされていた名誉殺人を悪用し、口うるさい妻を殺害しようと目論む男を描いた風刺喜劇。ピエトロ・ジェルミ監督ら三人の共同執筆による脚本(G.アルピーノの小説に基づく)は、オスカー脚本賞を受賞。また作品自体、カンヌ国際映画祭の最優秀喜劇賞を獲得し、国際的に高く評価された。マストロヤンニの喜劇演技も絶品。
 本作の見所は3つあります。
 まず、1つ目がマルチェロ・マストロヤンニの軽妙洒脱な喜劇的演技。彼は深刻な映画での深刻そうな演技が多いですが、本作ではライトタッチの演技を披露しています。この人はこんな役もできるんだと感心しました。マストロヤンニふんするフェンルナンドという男は、物事がうまくいかないとチェッと舌を鳴らす癖があり、何度かその場面に出くわすのですが、そこが面白いです。
 2つ目はそのマストロヤンニ本人が出演したフェリーニの『甘い生活』の封切を見に行くシーンがあるのです。まさかスクリーンの中の自分を見ることになるのか?!とドキドキして観ていましたら、そこはうまく処理しています。もちろんアニタ・エクバーグは出てきます。
 3つ目はステファニア・サンドレッリ。なんと当時15歳にしてすごい色気と存在感です。ジェルミに気に入られてその後の『誘惑されて棄てられて』にも出演しましたね。この人の本当にマストロヤンニが好きなのかどうかちょっとよくわからない感じの微妙な雰囲気をうまく演じていました。今の日本の15歳の女優さんでこんな演技ができる人がはたしていりうのだろうかと思ってしまいます。
 『イタリア式離婚狂想曲』は筋書きにもある通り、アンモラルな男の話ですが、ジェルミは皮肉な結末を添えて締めくくっています。このあたりがアカデミー賞協会員たちにウケたのかもしれません。

 以下無用のことながら。

 かつて一世風靡し、日本中いや世界中に旋風を巻き起こしたイタリア映画も今や封切られる作品数は減り、若い映画ファンの間でもほとんど語られなくなってきてさびしいところです。DVDが売れないので、劇場公開するけれど、上映権だけ買って配給して終わる配給会社さんも少なくありません。
 もう鑑賞するのはなかなか難しくなってしまいましたが、そんなイタリア映画の中で私のお気に入りを1本ご紹介します。DVDにもならなかったので、もしかすると二度と観られないかもしれませんが、もしBSなどで放送される機会があればお見逃しなくチェックしてください。
 その映画は『愛の果てへの旅』(2004年)です。

 スイスのホテルで一人優雅に暮らし、すべてが謎めいたイタリア人、ティッタ・ディ・ジローラモ(トニ・セルヴィッロ)。ある日彼はホテルのバーで美しいウェイトレス、ソフィア(オリヴィア・マニャーニ、アンナ・マニャーニのお孫さん)にひと目惚れしたことから、彼の身に異変が起きる。実はジローラモはマフィアの会計係であり、彼の元へは定期的にスーツケースを持って銀行マンが訪れる。ソフィアと言葉を交わす仲になり、そして彼女の身の上の話を聞いているうちにジローラモはある決意をする。それがどんな結末を迎えるかは痛いほど良くわかっているにもかかわらず。
 この現代イタリア映画は、洗練され、最小限のセリフで状況と心情を表現し、何より主演の二人の静謐な演技が素晴らしいです。アンナ・マニャーニャのお孫さんのオリヴィア・マニャーニャが美しく、血は争えないなあと思いました。そして都会風景をとらえた撮影が見事で、この背景がこの映画のもう一つの主役でしょう。
 かなしき中年男の恋。身につまされるものがありますが、この男の選んだ道は、かつて何度も繰り返し語られてきたイタリア映画の美学を感じました。この映画を配給したマーメイドフィルムさんは復刻シネマライブラリー時代のパートナーで大変お世話になりました。本作もマーメイドフィルムさんのご紹介で鑑賞することができました。大人の男性ならじっくりと堪能できる秀作です。恋愛映画のような、犯罪映画のような、不思議な感覚の映画です。時代が時代なら復刻シネマライブラリーとは違うブランドでDVD化していたでしょう。

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