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長編脚本:Brute Belly(Short Ver)

<本文>
◯武家屋敷・裏庭
  表に二畳ほどの畳が敷いてある。そこの
  上には、白い着物に身を包んだ武士が一
  人。武士の目の前には、切腹用に用意さ
  れた短刀がある。
  切腹を行う武士は、志村右之助である。
  右之助は、銚子に注がれた酒を飲み、短
  刀に手を伸ばす。短刀を持ち、自身の腹
  に当てる。
右之助「んんっ!」
  右之助の声が漏れる。
介錯人「いざ。」
  介錯人が右之助の首元に刃を下ろす。

◯町奉行所・玄関前
勘解由「ふー。暑い暑い。」
  季節は、夏。老中の使いである斎藤勘解
  由が家来とともに町奉行所に入ってい
  く。

◯町奉行所・居間
  老中の使いである勘解由と町奉行所に勤
  める木村市之進が居間に座している。
勘解由「して、近頃はどうじゃ?」
市之進「はっ。近頃は目立った事件はなく、太平にござります。」
勘解由「んん。そうか、そうか。それを聞いて安心じゃ。」
勘解由「冷夏が続き、凶作続きであった、数年前に比べると、今は太平。本日も天気に恵まれておる。」
市之進「はっ!誠に。」
勘解由「近頃は、暑いぐらいじゃがな。ハッハハー。」
  勘解由は、目の前の茶を飲む。

◯町奉行所・玄関前
勘解由「では、引き続き、仕事に励むように。」
市之進「はっ!」
  市之進は、玄関前で、勘解由の見送りを
  する。
両兵衛「良かったですね。ご主人、何事もなく終われて。」
市之進「ああ。近頃は、太平が続いており、民からの不満もないからのう。」
両兵衛「そうですね。飢饉があって、重い課税を執り行った際が、一番大変でしたね。」
市之進「さよう。あの時は農民の不満が爆発し、一揆まで発展したからのう。」
両兵衛「あの時が一番大変でしたね。」
市之進「うむ。」

◯農場(回想シーン)
  農民が役人に向けて、抗議を行ってい
  る。
農民A「これ以上何を奪うんだ。」
農民B「いまある米は全部、納めたっぺ!」
役人「ええい。検地した分の米を取り立てたまでじゃ!離れろ離れろ。」
農民C「収穫した米は全部、出したっちゃ!どうやって、生活しろって言うんじゃ!」
農民D「そうじゃ!そうじゃ!検地が間違っておるんじゃ!」
役人「なに〜!誰だ、今言うたやつは!成敗してくれる!」
  途端に黙る農民たち。女の農民が役人の
  前に出る。
女の農民「お願いです。これ以上は、おまんまが、食えねぇです。堪忍してくだせぇ。」
役人「うるさい!」
  役人は女の農民を蹴る。
女の農民「あぁ。」
  女の農民は、役人に蹴られて倒れ込む。
  女の農民は、他の農民の農具を奪い、豹
  変したように、役人に襲い掛かろうとす
  る。
女の農民「うわぁあああ!」
役人「うう、血迷うたか!」
  女の農民は、役人に襲いかかる。
役人「うわぁあ!」
役人「斬れ!斬れ!」
市之進「はっ!」
  慌てて、市之進が女を手打ちにする。
  回想終わり。

◯町奉行・玄関前
両兵衛「ご主人!」
市之進「はっ!」
両兵衛「大丈夫でござるか?」
市之進「ああ。あの時のことを少し思い出してな。」
両兵衛「ああ。大変でしたもんね。」
  市之進は遠くを見る。

◯町奉行所前街道(数日後)
  使いのものが血相抱えて奉行所の前まで
  走っていく。
使いのもの「はぁはぁ。」

◯町奉行所・居間
  使いのものが、慌てて町奉行所の居間に
  駆け込む。
使いのもの「大変じゃ。市之進どの!勘解由殿が。」
  町奉行内の資料整理を行っていた市之進
  は手を止めて、同僚を見た。

◯城下町・裏通り
両兵衛「辻斬りですかね?」
  両兵衛と市之進は、城下町の裏通りにい
  た。そこには、斎藤勘解由の斬殺された
  死体があった。他にも死体を取り囲むよ
  うに同心がいる。
市之進「うむ。」
  市之進は、頭の上から足元まで死体を見
  る。死体は左手が切断されていた。
両兵衛「ご主人。袴から、何やら紙が出ております。」
  両兵衛は指差し、市之進に言う。
市之進「うむ。」
  市之進は、袴からはみ出た紙を取り上げ
  る。それは、何かの目録であった。
  名前に本橋清五郎の名前があった。
市之進「でかした。両兵衛。」
市之進「勘解由どのは、目録を本橋どの所へ届けに行った。または、目録を本橋殿から受け取ったようじゃな。勘解由殿と本橋殿は同じ仕事をしている仲。」
両兵衛「なるほど。ご主人。勘解由殿に恨みを持つものを、本橋殿が知っているかも知れないってことですね。」
市之進「まぁ、そうとも言い切れぬ。何にせよ、同僚の死を伝えることも、奉行所の務めである。一度本橋殿にお会いする必要もある。」
両兵衛「では、行きましょう。」

◯本橋邸・前
両兵衛「私はこちらでお待ちしています。」
  玄関前で両兵衛は、市之進に話す。
市之進「うむ、行って参る。」

◯本橋邸・居間
本橋「うむ。そうであったか。」
  パチン。本橋は、扇子を閉じる。
本橋「勘解由殿とは、同じ仕事で藩に仕えた身。半身が引き裂かれるような思い。」
市之進「はっ。」
市之進「して、勘解由殿を恨んでいる人物に心当たりなど。」
本橋「うむ。」
  パチン。本橋は、再び扇子を閉じる。
本橋「我々の仕事は、農民からの税の徴収。飢饉もあり、重い税をかけてしまい、恨みを持つ人間は多数おるからのう。」
市之進「しかし、勘解由殿は刀により斬殺されております。」
本橋「うーむ。」
  しばらく、本橋は考える。
  パチン。再び本橋は、扇子を閉じる。
本橋「飢饉の際、農民に対して、重い税を課すことに反対した男がおってな。」
本橋「志村右之助である。」

◯本橋邸(回想シーン)
右之助「何卒!」
本橋「ならぬ。」
右之助「これ以上の年貢の取り立てを行っては。農夫たちは生活できないでござります。」
勘解由「では、他に代案はあるのか?お主に?」
右之助「…」
勘解由「ないではないか。」
本橋「代案もなく、我々に進言するとは何事か?」
  右之助は、平伏したまま頭を上げない。
  回想終わり。

◯本橋邸・居間
本橋「その後、根も葉もないこと言い。切腹じゃ。まったく。」
市之進「根も葉もないこととは、なんでござるか。」
本橋「ん!なんでもござらん。とにかく、其奴には、妻がおってな。夫が切腹した逆恨みで勘解由を殺したのではないか?」
市之進「しかし、、」
本橋「その妻、美人で有名じゃ。従う男の日一人や二人いるのではないか?」
市之進「…。」
本橋「とにかく、その妻が怪しいのではないか?」
本橋「名は香代と言ったかな。」
市之進「わかりました。」
  市之進は、少し考えたのち答えた。

◯本橋邸・玄関前
本橋「ここが、その女の住んでいるところじゃ。」
  本橋は市之進に住所の書かれた紙を渡
  す。
本橋「ん?」
  市之進を待っていた両兵衛は、慌てて、
  平伏す。両兵衛のカッコは小汚く、着物
  もほつれている。中間の身分のため、刀
  は脇差のみとなっている。
本橋「そち、どこかで」
市之進「ありがとうございます。」
  市之進は、本橋に向かって礼を言う。
本橋「うむ。勘解由を切ったものを必ずや見つけてくれ。」
市之進「はっ!」
  両兵衛は、本橋に顔を見せずに立ち上が
  る。両兵衛と市之進は本橋家を後にす
  る。本橋は二人を見送る。

本橋「おい。」
本橋の部下「はっ!」

◯道中
  市之進と両兵衛は、城下町を歩く。
両兵衛「どこに向かうんですか?」
市之進「志村右之助の妻・香代殿の家じゃ。」
両兵衛「志村右之助ですか?また、新しい容疑者ですね。」
市之進「うむ。しかし、何か引っかかる」
両兵衛「?」
  市之進と両兵衛は、城下町を歩きながら
  話す。二人の後ろから、本橋の間者二人
  が後をつける。

◯香代宅・前
市之進「ごめん仕る。」
  市之進は、香代宅の前に立つ。香代の家
  は、長屋である。市之進が声をかけてか
  ら、少し経ったのちに、扉が開く。
香代「はい。」
  香代は、少しやつれている。しかし、そ
  の姿は美しい。少し俯いて市之進に応対
  する。市之進は、香代の姿を見て少しド
  キッとする仕草を見せる。
両兵衛「私はここで待ってます。」
  香代は、両兵衛の目を見て、素早くすぐ
  にそらす。両兵衛も香代と目を合わせて
  すぐにそらす。
  市之進は、香代に見惚れたままである。
◯香代宅・居間
  香代は湯呑みに、湯を入れて市之進の前
  に置く。市之進の前に座る。
香代「そうですか。勘解由様が、、」
市之進「何か知っていることはありますか?」
香代「夫と同じ仕事をしていたことは、知っていましたが、詳しいことは、、」
  香代は静かに答える。
市之進「そうですか、、」
香代「ただ、」
  すぐに香代は答える。
香代「ただ、夫の生前、勘解由様と本橋様が何やら揉めていたと言う話は伺っております。」
市之進「勘解由様と本橋様が?」
香代「はい、凶作が続き、検地をやり直す際に何かが、、」
市之進「検知をですか」
香代「あの時、重い年貢もあり、農民からの批判もありました。」
香代「夫は、苦しむ農民を見たくなく、その話をよくしていました。」
市之進「…。」

◯農場(回想シーン)
女の農民「うああ。」
  女の農民が、役人に襲い掛かる。市之進
  は女の農民を斬る。
  回想終わり。

◯香代宅・居間
香代「市之進様?」
市之進「はっ!」
  市之進は、当時の一揆を思い出す。
香代「大丈夫ですか?」
市之進「大丈夫です。」
  市之進の額から汗が滴る。
市之進「香代殿は、勘解由殿と本橋殿については、どう思いですか?」
香代「私には、なんとも、」
市之進「そうですか。」
香代「ただ、一揆や夫の死で私は、どうにも苦しゅうございます。」
市之進「…そうですか。」
  しばらく、二人の中に沈黙が走る。
市之進「検地について二人が揉めていたと言うのは、どのようなことについて揉めていたのですか?」
香代「詳しいことは何も、当時のことを知るには、当時の目録を見るしか方法はありませぬ。」
  市之進は腕を組み考える仕草を行う。
市之進「ありがとうございました。今日はこれで失礼いたします。」
香代「はい。」
  香代は、玄関前まで市之進を送る。香代
  は、再び両兵衛と目を合わせる。

◯城下町・道中
  市之進と両兵衛は再び、城下町を歩く。
市之進「やはり、本橋殿が怪しいのぉ。」
両兵衛「そうですか。」
両兵衛「何が怪しいんですか?」
  両兵衛は市之進を覗き込むように見る。
市之進「あっ。うむ。」
市之進「香代殿から話で検地と言う言葉が出てきた。裏は取れていないが、年貢に関して、何か裏があると見た。年貢について本橋殿と勘解由殿の間で何かがあった。」
両兵衛「なるほど。勘解由殿と本橋殿で年貢について何か揉めたってことですね?」
市之進「うむ、そこがわからないが。」
両兵衛「何か不正をして、その取り分で揉めた?」
市之進「コラ、憶測だけではそうとは言えぬ。」
両兵衛「そうですね。」
両兵衛「なら、お城に行ってみましょう。検地についての目録があるかもしれないですよ。」
市之進「うむ。」

◯城の中
帳簿人「ダメに決まってるじゃん。」
市之進「しかし、当役人である、斎藤勘解由殿が、何ものかに斬られたのですぞ。捜査に協力してもよろしいのでは?」
帳簿人「ダメなものはダメ。帰って帰って。」
  市之進は帳簿人に、門前払いをさせられ
  る。

◯城の外
両兵衛「どうでした?」
市之進「ダメじゃった。」
両兵衛「そうですか。」
市之進「しかし、ますます怪しいのう。自分の上司が死んだのに、捜査に協力しないとなると、何かありそうじゃな。」
両兵衛「どうしますか?」
  両兵衛は市之進を見る。市之進も両兵衛
  を見てニヤつく。

◯城の外(夜)
  市之進と両兵衛は城の外にいる。黒づく
  めの衣装に身を包んでいる。両兵衛の手
  にはロープがある。
両兵衛「こうするしかないですね。」
市之進「静かに!バレた切腹ものじゃ。」
両兵衛「ご主人の声が一番、うるさいですよ。」
市之進「うむ。」
市之進「まぁ、城のものを盗むわけではないからノォ。」
両兵衛「そうですね。」
両兵衛「行きますよー。」
  両兵衛は縄を城の中に投げる。先端には
  鉤爪となっている。鉤爪が城の塀に引っ
  かかる。
両兵衛「よし。」
  両兵衛は縄を引っ張り、両兵衛は鉤爪が
  城の塀に引っかかったことを確認する。
  両兵衛は縄づたいで、塀をよじ登る。
  市之進はその間、周囲に注意を払ってい
  る。
  城の塀の上まで登った両兵衛が、市之進
  に登ってもよい、という合図をする。
  市之進は、周りに注意を払ったのち、塀
  をよじのぼる。

◯城の中
  市之進と両兵衛は、城の中の木の影に隠
  れる。周囲には、見張りらしき人物が巡
  回している。市之進と両兵衛は二人、目
  で合図を出して、そっと城内に入ってい
  く。

◯城内・帳簿場
  市之進と両兵衛は、帳簿場に忍び込む。
  市之進は、帳簿を見ている。
市之進「うーむ」
  市之進は難しい表情をする。
  ドカっ
  両兵衛が転び、複数ある棒を転がす。
市之進「こら、何をしておる。」
両兵衛「すみません。」
  市之進と両兵衛は、小声で話す。
  市之進は見ていた帳簿をおき、両兵衛に
  向かってそっと歩く。
  市之進と両兵衛は、転がした棒を片付け
  る。市之進はその棒と紐を見て、何かに
  気が付く。
市之進「これは。」
両兵衛「何か気が付きました?」

◯城の外・塀付近
  市之進と両兵衛が縄づたいてで、城の外
  に無事出る。
両兵衛「何かわかりました。」
市之進「うむ、どうや」
  市之進は、何かを言いかけたその時、影
  から何ものかの姿を見る。
市之進「危ない!」
  本橋の間者が、両兵衛に襲い掛かる。
本橋の間者1「やー。」
  両兵衛はそれに気が付き、左手で脇差を
  逆手で抜き、間者1の右手を素早く斬っ
  た。
本橋の間者1「ぎゃー」
  ボト。本橋の間者の右手が落ちた音がす
  る。両兵衛は間髪入れずに、本橋の間者
  にもうひと斬り加える。
本橋の間者1「うっ。」
  本橋の間者1が倒れる。
  続いて、もう一人いた本橋の間者2が斬
  りかかる。ここで、市之進が対応する。
市之進「やー!」
  市之進が素早く、本橋の間者2を斬る。
本橋の間者2「ぎゃー。」
  本橋の間者2が倒れる。
両兵衛「はぁはぁ。」
市之進「はぁはぁ。」
  市之進と両兵衛、二人の息づかいが聞こ
  える。
両兵衛「何者ですかね?こいつら?」
市之進「わからん。が、さしずめ、本橋殿の間者であろう。」
両兵衛「…。」
  両兵衛は、本橋の間者の死体を見る。
市之進「とにかく、私は、明日、島田様に報告いたす。両兵衛、今日はもう帰って良い、ご苦労であった。」
両兵衛「はい、お疲れ様です。」
  両兵衛は町を歩く。市之進は間者二人の
  死体を見る。

◯島田邸
島田「何、それは真か?」
市之進「はっ。さようであります。帳簿を確認したところ、飢饉前と飢饉後で、年貢の量は増えていました。さらに、検地を行う際のひもを確認したところ、印が長くなっておりました。」
市之進「これは、多く、年貢を徴収めるために謀ったもの!」
市之進「さらに、道中、私たちは何者かに襲われました。」
市之進「おそらく、本橋殿の使いのものかと。」
島田「うーむ。」
市之進「本橋殿と勘解由殿はそのことについて、揉めて、本橋殿が勘解由殿を斬った。のではないかと、考えました。」
島田「うーむ。」
  島田は、しばらく、考える。
島田「うむ、わかった。この件は私が預かる。本橋には本日話を聞く、それど良いだろ!」
市之進「はっ!」
市之進「では、本橋殿を捕まえてもよろしいでしょうか?」
島田「いや、それを決めるのは早計じゃ。」
島田「わしが本橋から話を聞く。」
市之進「しかし、検地不正も。」
島田「馬鹿者!今更、検地に誤りがあったなど、言えるか!農夫どもが何を言うかわからぬではないか!」
市之進「はっ!」
島田「はぁはぁ。」
  島田は顔を赤くして答える。息遣いは荒
  い。
島田「とにかく!この件は私が預かる!」
市之進「はっ!」

◯島田邸・外
  市之進がトボトボ島田邸を後にする。
両兵衛「どうでした?」
市之進「ダメじゃった。」
両兵衛「そうですか…。」
  市之進と両兵衛は、二人帰路に着く。
◯市之進宅・寝室(夜)
  市之進は布団の上に寝転がっている。市
  之進は天井を見ている。

◯農場(回想シーン)
女の農民「うああ。」
  女の農民が、役人に襲い掛かる。市之進
  は女の農民を斬る。
  回想終わり。

◯市之進宅・寝室(夜)
  市之進は寝転がっている。
市之進「うむ。」
  ゆっくりと目を閉じる。

◯町奉行所・朝
  何か、考える市之進。
市之進「よし!」
両兵衛「どうかしました?」
市之進「決めた、本橋殿のところへいく!」
両兵衛「えっ!でも昨日は?」
市之進「うむ、やはり、島田殿はああ言ったが、この件は自分でなんとかしたい。本橋殿に話を聞くと言っていたが、、」
両兵衛「島田殿が、本橋殿と話を?」
市之進「んっ?どうかしたのか?」
両兵衛「だとしたら、まずいですね。本橋殿がその話を聞いたら、発信元である、香代殿が危ないのでは?」
市之進「何?」
両兵衛「香代殿に危害が及びます。検地のことを知っているのだから。」
市之進「まずい!お前は、他の同心に本橋殿に家に行くよう伝えろ!わしの命と言ってな!わしは、香代殿のところへ行く。」
両兵衛「はい。」

◯島田邸・夜(時間は少し戻る)
島田「馬鹿者!」
本橋「申し訳ございません!」
  本橋は、島田に頭を下げていた。
島田「奴らかぎつけおったじゃないか!このまま、検地の件についてバレたらどうするのじゃ!」
本橋「申し訳ございません!奴ら、香代を捕まえるものだと思っていましたが、、」
島田「全然違うではないか!その上、間者まで殺されおって!」
島田「はぁはぁ!」
  島田の息遣いは荒くなっている。
島田「ふう。」
島田「ひとまず、香代をヤれ。あやつが秘密を握っている。」
本橋「ははー。」

◯島田邸・出口付近
本橋「ええい触るな」
  本橋は家臣を邪険に扱う。
  曲がり角には人影が。

◯城下町
市之進「はぁはぁ。」
  市之進は、城下町を走る。その気遣いは
  荒い。

◯香代宅・前
市之進「香代殿!」
  ガラ。
  市之進は慌てて、扉を開ける。しかし、
  そこに香代の姿はない。部屋の真ん中に
  は、手紙がある。市之進は、その手紙を
  手に取り、開けて読んだ。
  手紙の内容
  香代殿は、預かった。秘密を知っている
  ものは生かしておけぬ。
  貴様もその一人だ。〇〇神社で待ってい
  る。
  手紙の内容終わり
  市之進は、手紙を読み終わり、香代宅を
  後にする。
◯〇〇神社前
  市之進は階段を神社の階段を駆け上が
  る。
  市之進「はぁはぁ。」

◯〇〇神社
市之進は階段を駆け上がり、神社にたど
  り着く。
市之進「はぁはぁ。」
  市之進は神社に着く。そこには、香代の
  姿があった。
市之進「香代殿!」
  市之進は香代に近づく。その時、市之進
  は背後から、斬られる。
  ザシュ。
市之進「うっ!」
  市之進は、その場に倒れこむ。市之進は
  振り返る。自分を斬った人間を確認す
  る。
市之進「貴様は、、なぜ、、?」
◯本橋宅
同心「御用だ!御用だ!」
  本橋宅に同心たちが集まる。同心たちは
  家の中を捜索するが、本橋の姿はない。
  家を探すが、本橋の姿はない。同心たち
  は手分けして、本橋の姿を探す。
同心「ひー。」
  ある同心の悲鳴をあげる。他の同心たち
  も悲鳴の先に向かう。
  同心たちは、悲鳴の先に集まる。悲鳴の
  先は庭だった。
他同心「ひっ。これは、、」
  そこには、本橋の斬殺された死体が転
  がっていた。

◯〇〇神社
市之進「お前は、なぜ?」
  市之進は、斬った相手を見る。
両兵衛「なぜかって?」
  両兵衛は、中腰になり、市之進と目線の
  高さを合わせる。市之進を見た後、左を
  むき、また、市之進の目を見る。
両兵衛「俺の本当の名前は、左之助。右之助の双子の兄だ。」
市之進「はぁはぁ。」
  市之進は、両兵衛は見る。市之進の息遣
  いは荒い。両兵衛は続けて話す。
両兵衛「貴様は、勘解由を殺したのは、本橋だと思っていたようだが、殺したのは、俺だ。」
市之進「右之助の仇だから。」
両兵衛「ようやく、わかったようだな。右之助は切腹したが、殺したのは、本橋と勘解由だった。」

◯本橋邸(回想シーン)
右之助「何卒!何卒!」
  右之助は、伏せていた顔をあげる。その
  顔は、両兵衛に瓜二つの顔だった。
本橋「ならぬ。このままでは、藩が立ち行かなくなる。年貢をあげることは必然。」
勘解由「さようの通りじゃ、何か代案でもあれば、話は別だがな。」
  右之助は、再び、顔を伏せる。
右之助「私、知っております。」
  右之助は、静かにいう。
本橋「何ぃー?」
  本橋と勘解由は、右之助を見る。
右之助「お二人方が、検地を不正に行い、過剰に年貢を徴収していることを。」
勘解由「そんな根も葉もないことを。」
本橋「たとえそうだとしても、だから何だと言うのじゃ。藩は潤うではないか。」
  右之助は震える。スッと立ち上がり、本
  橋邸を後にする。
  回想終わり。

◯〇〇神社
右之助「その後、右之助は、上司を売ったことを理由に切腹を言い渡される。」
市之進「はぁはぁ。」
  市之進は、右之助の話を聞く。右之助は
  続けて話す。
右之助「貴様は、自分で捜査しているように感じておったようだが、検地不正の事実を世間に出すための人形にしかすぎぬ。」

◯城下町・道中(回想シーン)
  市之進と両兵衛は、
市之進「うむ、そこがわからないが。」
両兵衛「何か不正をして、その取り分で揉めた?」
市之進「コラ、憶測だけではそうとは言えぬ。」
両兵衛「そうですね。」
両兵衛「なら、お城に行ってみましょう。検地についての目録があるかもしれないですよ。」
市之進「うむ。」
  回想終わり。

◯香代宅
市之進「勘解由様と本橋様が?」
香代「はい、凶作が続き、検地をやり直す際に何かが、、」
市之進「検知をですか」
香代「あの時、重い年貢もあり、農民からの批判もありました。」
香代「夫は、苦しむ農民を見たくなく、その話をよくしていました。」
市之進「…。」
  回想シーン

◯城内・帳簿場(回想シーン)
  ドカっ
  両兵衛が転び、複数ある棒を転がす。
市之進「こら、何をしておる。」
両兵衛「すみません。」
  市之進と両兵衛は、小声で話す。
  市之進は見ていた帳簿をおき、両兵衛に
  向かってそっと歩く。
  市之進と両兵衛は、転がした棒を片付け
  る。市之進はその棒と紐を見て、何かに
  気が付く。
市之進「これは。」
両兵衛「何か気が付きました?」
  回想終わり

◯〇〇神社
両兵衛「香代殿にも協力してもらい、貴様を誘導したのじゃ。」
  香代は市之進のところに歩みより、市之
  進の顔を見る。市之進も、香代の顔を見
  る。
市之進「はぁはぁ。」
  市之進の息遣いはどんどん荒くなる。顔
  が青ざめる。
市之進「二人で謀ったのか。」
両兵衛「そうじゃ。」
両兵衛「本橋も今頃、あの世じゃ。」

◯島田邸・出口付近(回想シーン)
本橋「ええい触るな」
  本橋は家臣を邪険に扱う。
  曲がり角には人影が、その姿は、両兵衛
  だった。
  両兵衛は、本橋邸まで後をつける。

◯本橋邸・前
本橋「ええい触るな!」
  本橋は籠から降りようとした、その際に
  両兵衛は、本橋とその家臣に斬りかかる
  一瞬で二人を斬り、庭先に捨てた。

◯〇〇神社
両兵衛「貴様はわしのことを信頼しておるからのぉ。」
両兵衛「敵は、近くに置くに限る。」
市之進「じゃが、どうして、わしは、、わしは口封じのためか、、なぜじゃ、両兵衛、、、」
  両兵衛は、市之進の胸ぐらを掴み、答え
  る。
両兵衛「もう一度いう、わしの名前は両兵衛では、ない。左之助じゃ。」
両兵衛「右之助とわしは、農民の双子として生まれた。同じ顔が二人いることを危惧した母は、右之助を養子に出した。」
市之進「畜生腹」
両兵衛「そうじゃ。幸い、右之助の養子先は、男子の子宝に恵まれなかった武家の家じゃった。」
市之進「はぁはぁ。」
両兵衛「わしと右之助は、変わり代わりで生活を行った。それに気づくものは、おらぬ。」
市之進「はぁはぁ、だから武芸も、、」
両兵衛「その通り、道場に行く時も変わりがわりじゃ。」
市之進「はぁはぁ」
  市之進は、両兵衛の話を聞く。
両兵衛「あるときは武士。ある時は農夫。わしらにしかない生活だった。この時間がただ過ぎるものだと思っていた。」
両兵衛「しかし、ある事件が起こった。」

◯農場(回想シーン)
  農民が役人に向けて、抗議を行ってい
  る。
農民A「これ以上何を奪うんだ。」
農民B「いまある米は全部、納めたっぺ!」
役人「ええい。検地した分の米を取り立てたまでじゃ!離れろ離れろ。」
農民C「収穫した米は全部、出したっちゃ!どうやって、生活しろって言うんじゃ!」
農民D「そうじゃ!そうじゃ!検地が間違っておるんじゃ!」
役人「なに〜!誰だ、今言うたやつは!成敗してくれる!」
  途端に黙る農民たち。女の農民が役人の
  前に出る。
女の農民「お願いです。これ以上は、おまんまが、食えねぇです。堪忍してくだせぇ。」
役人「うるさい!」
  役人は女の農民を蹴る。
女の農民「あぁ。」
両兵衛「母ちゃん!」
  女の農民は、役人に蹴られて倒れ込む。
  女の農民は、両兵衛の農具を奪い、豹
  変したように、役人に襲い掛かろうとす
  る。
女の農民「うわぁあああ!」
役人「うう、血迷うたか!」
  女の農民は、役人に襲いかかる。
役人「うわぁあ!」
役人「斬れ!斬れ!」
両兵衛「やめろー。」
市之進「はっ!」
  慌てて、市之進が女を手打ちにする。
  回想終わり。

◯〇〇神社
市之進「あの時の、」
両兵衛「あの時、貴様はわしの母を斬った。肉親を切られて黙っておけぬは!」
  市之進は、力が抜ける。そして倒れこ
  む。顔は出血のため、青ざめている。
  市之進はゆっくり目を閉じる。
  両兵衛と香代は、市之進がいき果てたこ
  とを確認して、神社を去る。

◯城下町
  張り紙が書かれている。町の人たちの人
  だかりができている。
町人「なんだこれ。」

香代(ナレーション)「本橋と勘解由の殺害について、金銭についての揉め事で話は決着した。検地不正については、本橋と勘解由
が謀ったもので、藩は何も関与していないという内容だった。本橋と勘解由が、トカゲの尻尾となり、話は収まった。」
香代(ナレーション)「市之進については、本橋の間者に暗殺されたとした。」
香代(ナレーション)「検地については取り直しが行われ、年貢の見直しがされた。」

◯農場
  農場を耕す、両兵衛(左之助)。両兵衛
  は、夕暮れの太陽を見る。

◯香代宅
  両兵衛(左之助)は、香代宅にいた。
  香代にまゆを作ってもらっている。さら
  に、身を綺麗にしている。
  香代は、たんすの引き出しから、右之助
  が着ていた紋付袴をとりだした。

◯城下前
  両兵衛(左之助)と香代は、城の前にい
  る。堂々と、城の門をくぐる。

◯城の中・トイレ
島田「ふぅー」
  島田は慌てて、トイレに入る。
島田「はぁー。全く、本橋と勘解由は、、なぜわしがこんな目に遭わなければいけないのじゃ。」
  ガチャ。
  個室から、両兵衛が出てくる。
  島田は振り返る。
島田「き、きさまは、右之助。」
  島田は驚いた顔をする。両兵衛は、刀を
  抜く。
島田「貴様、どうして、うう。」
  島田は胸を押さえて、倒れ込む。
  両兵衛(左之助)は刀をしまう。

◯城下前
  香代が両兵衛を待っている。
  門から、両兵衛が出てくる。
両兵衛「終わった」
  両兵衛は香代に一言いい、城を後にす
  る。城の映像が出る。
<了>

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