Nothing To Choose World

人間、選択するのはストレスが溜まる。決断することは、頭を使う。何が良くて、何が悪いのかを判断しなければいけない。それぞれメリットがあり、起こりうるデメリットもある。デメリットのせいで、命を落とすこともある。自分で選択したことで、命を落とすなんて恐ろしいことだ。選択することは勇気がいる。
20xx年。選択するストレスから解放された社会になった。コンビニには、各商品は1種類。チョコレートは、板チョコのみ。メーカーは明治だ。一昔前は、いろいろなチョコレートがあったようだ。クッキーの間にチョコが挟まっているモノや外は香ばしく焼けているが中は生焼けのチョコもあったようだ。どんな味がするのだろうか?生焼けのチョコに思いを馳せ、コンビニで板チョコを手を伸ばす。
選択しないために政府は、選択肢を与えないようにした。選択しないことはストレスがない。毎日、スムーズに生活できる。学校も、就職する会社もあらかじめ決められている。日々、ストレスなく、気負いもない。人間それが、当たり前になると、反抗することもやめる。ライフスタイルに組み込まれると人間はそれが当たり前になってしまうのだ。昔の人は歯磨きなんてしなかった。それが現代では、当たり前のようにする。それに対して、誰も文句は言わない。言うのは、子供ぐらいだ。大人になれば、歯磨きは生活に組み込まれる。大人になれば、文句の言うものは現れない。
決められているのは、学校、会社だけではない。恋人や結婚相手だってそうだ。今の恋人だって、決められた恋人だ。恋人がいない。孤独の辛さはわからないが、一人でないことはありがたい。昔の人は中年の独身が多く、自殺していたようだが、今は全く持ってない。孤独によって、自殺に苦しむものもいない。
「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
今日も、決められた妻に見送られて、会社に向かう。決められた時間に列車がきて、決められた人物が電車に乗る。電車の席も決まっている。座席に名前が書いてある。いつもの席に腰掛けて、窓を開けて、窓の外を見る。変わり映えのしない風景。しかし、風は昨日とは違う。
勤めている会社に到着する。エレベータに乗り。自分のオフィスへ。自分の席につき、いつも通り仕事をする。私はソフトウェアのエンジニアだ。仕事は全てスケジュール管理されていて、17時半にキッチリ終わる。昔は「残業」ってものがあったらしい。予定外の仕事がたくさん来て、対応をしなければいけなかったらしい。過労死や自殺があったらしい。恐ろしい時代だ。今の世の中では考えられない。
きっかり、17時半に仕事が終わり、帰宅する。
いつも通りに電車に乗り、妻の待つ自宅に着く。今日は水曜日。献立はハンバーグの日だ。この日の夕食は楽しみだ。ハンバーグは好物だ。あっという間に平らげて、妻とベッドに横たわる。今日は「あの日」だ。妻と事を済ませて、就寝前に会話をする。
「今日は仕事、どうだった?」
「いつも通りだよ。」
会話を終えて、目を閉じる。

「いってきます。」
「いってらっしゃい。」
翌朝もいつも通り、妻に見送られて、電車に乗る。
が、私の席に、見たこともない女性が座っている。電車に乗る人間はいつも同じ。知らない人物はわかる。
その見たこともない女性は、見たことない服を着ている。足元はスリッドが入っている真っ青なスカートだ。上は、シャツだが、形が私たちの使っているものとは違う。
唖然となって、ボーッとその場で、立っていると、それに気づいた女性が声をかけてきた。
「どうかなさいましたか?」
私は、ハッと、気がついた。
「そこは私の席です。」
席に書かれた名札を指差す。
「あっ、すみません。」
ゆっくりと席をたつ女性。その姿をジーと見てしまった。
女性はドアの前に移動して、窓の外を見ている。私も、自分の決められた席に座り、窓を開けて、いつも通り窓の外の景色を見ている。が、女性が気になって、景色を見ることができない。
そのまま、会社に到着する。しかし、仕事が手につかない。朝出会ったあの女性が頭から離れない。17時半になったが、仕事が終わっていない。不測の事態に、私は狼狽する。仕方がないので、「残業」とやらをやってしまう。明日、上司に何を言われるかわかない。仕事を終わらせなければいけない思いがあり、残って仕事をする。この時、自分が選択していることに気づいていない。
19時になり、会社を出る。違う時間の電車のため、私の名札のついた席はない。立って窓の席を見る。周りの人間は、私を見てヒソヒソと話をしている。私は冷や汗をかいていた。
「ただいま。」
妻が玄関まで、慌ててきた。帰ってこないから心配したと言っている。確かにそうだ、普段の時間と違う時間に帰ってきたのだから。
今日は木曜日。鯖の味噌煮だ。2時間遅れてで、夕食をすます。
そのまま、ベッドに横たわる。今日は「あの日」ではない。
いつも通り、妻と会話をして目を瞑る。しかし、目を瞑ると、今朝出会ったあの女性の姿を思い出す。スリッドから出る足。その姿に私は興奮を覚えた。今日は「あの日」ではない。そのまま夜が明ける。
結局、眠ることができず、朝を迎えてしまった。
「おはよう。」
妻が私に向けて言う。私も妻の顔を見て返す。その時、あの女性の顔も思い出す。
自分の中に罪悪感と疑問、様々な感情が芽生える。私は、この時後で知ったが、ストレスを感じていたようだった。
この時から、私は、あの女性と出会い、選択できない世の中に疑問を持ち始めた。
本当に、選択できない世の中がいいのか?
あの女性を追い、話をすることで、その疑問はどんどん膨らんでいった。
<続く>

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