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意見数が79通しかないパブリックコメントが神宮外苑再開発に対する都民の声?

「野球愛が感じられない神宮球場(神宮外苑)の再開発」にも記載している東京都が募集したパブリックコメントに関する記述です。都の関わり方も考えていきたいので、一つの記事として抜き出しておきます。

◆2018年に実施されていたパブリックコメント


シンポジウムのあとに調べていて、気になる資料がありました。都へのパブリックコメントの数です。平成30年(2018年)8月31日〜9月29日まで、「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針(素案)」に対するパブリックコメントの募集がありました。

その結果は、こちらにあります。「●パブリックコメントの実施について(募集期間:平成30年8月31日(金)から30年9月29日(土)まで)【現在募集は終了しております】」を開き、「5 パブリックコメントの結果と見解・対応」の資料3を見てください。

寄せられたパブリックコメントの総数は79通。スポーツ施設に関わる「4 地区内の個別施設に関する意見(62件)」を見ると、神宮球場は1件、神宮外苑テニスクラブは5件、霞ヶ丘テニスコートは47件、ラグビー場2件、軟式野球場3件、ゴルフ場2件、絵画館2件と、圧倒的にテニスに関するパブリックコメントが多いです。

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/jinguu_kentou04_05.pdf

パブリックコメントの期間中に意見を伝えなかった都民が悪い、と言われても仕方がありませんが、根拠になる素案は、内容の精度に疑問を感じるものでした。

素案はこちらです。

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/bosai/toshi_saisei/data/pb_01_01.pdf

◆コメント参考資料になる素案への疑問


なぜ資料に疑問があるのかを説明します。素案にある「土地利用の方針」のなかで、再開発後のラグビー場、神宮球場は、「スポーツ・交流複合ゾーン(大規模スポーツ施設の集積)」と、一つのグループにまとめられています。

グループの説明には、秩父宮ラグビー場、神宮球場の固有名がありません。「広場的空間の創出と大規模スポーツ施設の再編・更新を一体的に行い。いつでも誰でもが様々な目的(憩・遊・学)で利用できるオープンな地区の中心となるエリアを形成」という曖昧な表現です。

同様に、イラストと写真(←なぜか一角につばみちゃんが後ろ姿でヨガマットに座っている)を交えた「スポーツ環境の方針」のページでも、「競技等の継承に配慮した大規模スポーツ施設の連鎖的な建て替え、競技環境としても観戦環境としても世界に誇れる水準にある施設として更新」と書いてありますが、具体的な競技名がないので、どの施設のことかはっきりしません。

イラスト、写真の説明文ともに「大規模スポーツ施設と広場が一体となった開かれた空間構成」「スポーツ施設内の広い芝生空間でのフィットネスイベント」といった、ふんわりとしたイメージコピーです。

さらに別のページのマップでは、大規模スポーツ施設を示す円が2か所あります。こちらもラグビー場、野球場の記載がないため、どちらがラグビー場で、どちらが神宮球場なのかが、わかりません。

秩父宮ラグビー場が第2球場跡地に移転し、ラグビー場跡地に神宮球場が移転し、神宮球場があったところにラグビー場が移転する計画を知っていれば、予測はつきますが、その記述が素案にないのです。

パブリックコメントのなかに「神宮球場と秩父宮ラグビー場を入れ替えるのは、歴史・文化を破壊する。」という意見があるので、この時期に報道では出ていたのだと思います。しかし、パブリックコメントの対象である素案に、入れ替えの記述がないのは、説明不足を感じます。

素案のなかで、もう少し詳しく説明していると言えないこともない「将来イメージ」のイラストと説明においては、スタジアムっぽいものは描かれていますが、野球場ではありません。陸上競技場のような、ラグビー場のような“それっぽい”イラストです。このイラストを見て、「ラグビー場に付帯する芝生の広場なのだろう」と思う人がいても、不思議ではないです。説明文も「大規模スポーツ施設」としか書いてありません。

おそらく、この絵を描いたイラストレーターは、具体的な情報をもらっていないのでしょう。神宮外苑でなくても使えるイラストに仕上げてあるからです。

素案からは、都がどのような意図を持って開発に当たっているか、ということしかわからず、開発がどのように進められるのか、どういった建物がどのような高さと広さで配置され、建設されるのか、という具体性に欠けます。
さらに前述のパブリックコメントに対する都の返答に、指針素案を見よ、とあるので見てみます。

将来像1 高揚感のあるスポーツとアクティビティの拠点
将来像2 歴史ある個性をいかした多様なみどりと交流の拠点
将来像3 地域特性をいかした魅力的な文化とにぎわいの拠点


返答のポイントがこれです。神宮外苑でなくても通じる指針ですね。

素案の段階だから、実際の開発計画は事業者が行うことだから、ということかもしれません。パブリックビューイング云々と書いてあるので、東京オリンピック2020が前提の説明だから、この曖昧さなのかもしれません。けれど、この資料のパブリックコメントで「都民の意見を聞いた」と言われてもなぁ、と思います。

◆計画全容がわかったときに意見する窓口がない



パブリックコメントで神宮球場に関する意見は1件のみですが、ファンの気持ちを代弁するような内容です。

神宮球場は、野球ファンにとって様々な思い出のある場所である。なるべく現状 を変えないで欲しい。クラブハウスから軟式野球場への行き帰りにファンと身近に 接してもらえるのは、他球場にはない魅力だ。また、神宮球場も客席前にブルペン があり、試合中投球練習する様子が間近で見られる。このようなファンにとっての 楽しみを無くさない形で再開発して欲しい。

地区内の個別施設に関する意見

これに対する都の返答は、以下です。

「スポーツ環境の方針」(P.20)において、競技環境としても観戦環境と しても世界に誇れる水準にある施設として更新することと、まちに開かれ た施設とするとともに、日常的に人々を惹きつける魅力的なにぎわい機能 等の導入を位置付けています。 なお、具体のスポーツ施設の構成・整備、及び運営方法については、今 後、事業者が指針に基づき、検討することになります。

「世界に誇れる水準にある施設」に本当になるのか、完成の暁には聞きたいものですが、計画の全容がわかったときには止めようがない、というのでは、都民、国民はどこで意見を伝えればいいのでしょうか。三井不動産のニュースリリースを見ても、神宮外苑の再開発が出てくるのは、2022年5月19日。都市計画決定が告示された旨の発表です。

また、パブリックコメントの素案となった東京都都市整備局の「東京 2020 大会後の神宮外苑地区のまちづくり検討会検討会」審議記録を見ると、行政関係以外で出席している学識経験者は3名です。「まちづくり」であり、これほどの大規模開発で、3名で検討するのは、普通なのでしょうか。4月27日開催された「東京都環境影響評価審議会」には、都内各所が議題になるとは言え、専門家が18名も出席していました。

「環境影響評価審議会」は、あくまでも再開発に関わる環境に絞って審議する会議ですが、最後に専門家側であり、部会長のお一人が話していたことに希望を持ちたいです。

「事業者が提出してきた環境影響評価書を再調査する必要はないと感じているが、それも含めて異論、意見があれば、どんどん発信して欲しい。私たちはそれを無視するつもりはない」

現状では、事業者が問い合わせ窓口を設けていませんし、何らかのアクションを起こすとすれば、東京都に送るしかないのですが、すでに神宮外苑の再開発計画に絞った窓口はありません。「都民の声総合窓口」に意見を送ることしかできない状況ではあります。


仕事に関するもの、仕事に関係ないものあれこれ思いついたことを書いています。フリーランスとして働く厳しさが増すなかでの悩みも。毎日の積み重ねと言うけれど、積み重ねより継続することの大切さとすぐに忘れる自分のポンコツっぷりを痛感する日々です。