取材した音声の文字起こしは、ライターの仕事のなかでも面倒なタスクの一つだ。文字起こしとは、音声を聞きながらタイピングしていく作業のこと。文章を読むように語る人はとても楽なのだが、話が行ったり来たりする人だと、何度も聞き直しながら、コツコツと文字を起こしていくので、録音時間の倍以上、作業時間がかかることもある。
昔は専門のテープ起こし屋さんに頼むこともできたのだが、原稿料のだだ下がりで、今は難しい。自分で起こすしかない。文字起こしをする時間を執筆に充てられれば、もっと効率よく原稿が書けるのになぁ、と思いつつも、聞き直すことで、取材時には気づかなかったインタビュイーの言いたかったことを発見したりするので、自分で起こすことも大切だと思っている。
余談だが、最近は時代に合わせて「文字起こし」と言っているけれど、気を抜くと「テープ起こし」と言ってしまう。業界内では、いまだに「テープ起こし」のほうが通用するかもしれない。昔はカセットテープでの録音が当たり前だったので、文字起こしは「テープ起こし」と呼んでいた。その後、録音機器がMDプレイヤーやICレコーダーに変わっても、ずっと「テープ起こし」の言葉のほうが通用しやすかった。
最近は、デジタル技術による音声認識が向上し、AIも加わって、自動文字起こしが楽になってきた。出力された文字には、まだまだ聞き逃しや誤変換が多々、あるのだが、おおよその取材内容がわかるだけで、とても助かる。
GoogleやWordの文字起こし機能など、いろいろ試してみて、今、私が使っているのは、ソースネクストが提供しているオートメモというサービスだ。スマートフォンで録音するアプリタイプもあるが、私はオートメモ専用のボイスレコーダーを使っている。ただし、充電の消耗が早いのと、集音と録音機能が専用機よりも劣るので、バックアップも兼ねて、必ずICレコーダーも併用している。
今日、メールで送られてくるオートメモの文字起こしを見ていたら、移動中に録音ボタンが押されてしまったデータがあった。その文字起こしが秀逸で、文章はまるで詩人のよう。消すのがもったいなかったので、noteに残しておこうと思った。
では、まず1本目。
後半は、まるで中原中也だ。録音時間から、どこで録音されたのか、だいたいはわかるのだが、一体何を録音したのかは、さっぱりわからない。
もう1本は、もっと長くて、小説のよう。
前半は誰かの会話を拾ったのかな、と思うし、中盤は、TVかなにかのニュースを録音したのかな、と思う。アナウンサーのニュース朗読なら、かなり正確に文字起こししてくれるので、自動音声認識機能が相当な実用レベルまで向上していることは、間違いないのだろう。
ちなみに、ほんの短時間、間違って録音ボタンを押してしまうと、なぜか毎回、以下の文字起こしになる。
音声認識機能のエラーとわかっていても、文字面が怖い。
書き文字は記号でもある。字を文法に沿って並べるだけで、文章は作ることができる。しかし、人にとって意味のある内容なのかどうかは、別問題なんだなぁ、と、AIが吐き出した、とっちらかった文章を眺めて、つくづく思うのである。