観劇『世界の終わりに君を乞う。』

2018-12-13 ブログ再録

エムキチビート produce 音劇 vol.2
『世界の終わりに君を乞う。』@博品館劇場
お名前を聞くことが多くなってきた、元吉さん作・演出の今作。
チラシを観て「好きかもしれない」と思ったのと、演出家さんのお名前と、キャストのみなさんが名前は聞くけどニアミスしていた方々ばかり...という理由で急遽行ってまいりました。
千秋楽は売り切れ...ですが、端っこのお席がまだ販売されていて、劇場も観やすくてなかなかよかったです。


【あらすじ(公式より転載)】
ある事故から奇跡的に生還した少女は、後遺症のカウンセリングの最中に夢を観る。
極彩色の世界の中、事故で亡くした親友が、そこには居た。
幻想の世界と現実の世界が交差する。
世界の終りへの物語。

このあらすじが、なかなかよくできているんです!後半に書いてます。

さて、「ある事故」とはとある電車の追突事故。
観劇した時は「日本で電車事故ってあんまりピンとこないなぁ」と思っていたのですが、福知山線脱線事故がモチーフだったようです。
関西弁とかでもなかったし、あまり匂わさなかったのですが、ちょいちょい関係した描写もあったらしいです。
私は地元が近かったこともあり、その日は学校で先生が「尼崎方面で働いている親御さんがいる人」と声をかけてくれたのをうっすら覚えています。
知り合いのお子さんは修学旅行で乗り合わせて、同学年の人が無くなったり...
ほんのちょっと身近なお話でした。


この物語の主人公・一葉は、電車事故によるPTSDに悩まされて精神科に通っているところから物語は始まります。
(PTSDが大きく話題になったのも確かこの事件がきっかけだったかも?)
幼馴染や弟に励まされながらも、事故で亡くなった親友・那由多の影を追いかけ続け、
次第に不思議な夢を観るように。


この夢が、不思議の国のアリスをモチーフにしたファンタジーな夢で、
那由多そっくりの「赤の女王」が「自分自身に戦争を仕掛けた」というもの。
現実世界の周りにいる人たちそっくりの登場人物が次々と現れながら白と赤の戦いが加速していきます。
「アリス」と呼ばれる一葉は、「那由多に会って謝りたい」とひたすら赤の女王を追うために列車に乗りながら、不思議な森を抜け、次第にその列車は銀河の中へと進みます。
そして、「不思議の国のアリス」の世界から「銀河鉄道の夜」の世界へ。


現実と夢と、どちらにもふらっと現れては一葉の近くに寄り添っていた少年が「ずっと遠くまで一緒に行こうね」と言ったときに「銀河鉄道の夜だ!」とどきっとしたくらい、自然な流れで舞台が星空の中に変わったの、綺麗だったなぁ。


この夢と、現実が行ったり来たりしながら、次第に夢と現実が混じり始めていくという、
手法としてはなんか聞いたことあるのかもしれないですが
当初はがっつり着替えていた「不思議の国のアリス」の登場人物たちが、少しずつ衣裳も全身チェンジから羽織るだけになったりと、夢と現実の混ざり具合の演出が細かい!

そして、歌と生演奏、セリフのバランスがとてもいい。
「音劇」と書いていたとおり、ミュージカルではなくて、セリフがたまに音楽に乗りつつ
テーマとなる主題歌が繰り返し歌われる感じ。
ピアノ、バイオリン、チェロ?の生演奏で、その3つの音だけなのが幻想的で、
精神科だったりなんだったりで殺伐としているようで、雰囲気はとても美しいままでした。
大事なシリアスなシーンは、逆に無音のままでストプレに終始したりとバランスがとてもよくて、
ストプレ好きな私もついニヤニヤしてしまいました。


舞台に出ずっぱりの主人公・一葉を演じる黒沢ともよさん、常に心から感情が溢れてるみたいに心が常に動いている、魅力的なお芝居でよかったなあ。
そして可愛い。
有名な声優さんで、客席には男性客も多かったのですが、
調べると子役のときからミュージカルに出てたみたいです。「モーツァルト!」とか。
どうりで、ちょっとだけセリフの発音が劇団四季みたいなんだと思った。笑
声もよく通り、歌唱力も言わずもがな。
男性が多い中で、透き通るソプラノがとても綺麗でした。


ここからがっつりネタバレですが、
夢だと思っていたところが現実で、現実だと思っていたところが夢だった、という流れになり
要するに「現実だと思っていたところにいた人は全員死んでいた」というオチで、一葉も死んでいた。
治療を受けているのは、赤の女王・那由多で、那由多は目の前で死んだ親友と共に閉じ込められた事故のPTSDから抜け出せず、自殺を繰り返していたとのこと。
ここで「自分自身に戦争を仕掛けていた赤の女王」という当初の不思議設定に意味がすっと見出せました。
カンパネルラだと思っていた少年は実はジョバンニで、一葉がカンパネルラだったんですね。


現実だと思っていた人、である、幼馴染も、弟も、部活の先輩も、後輩も、みんな死んでて、それが一気に明らかになるもんだから
「おいまじかよ」みたいな展開。
なんか、ちょっと、おかしいなぁ〜と思ってたんですけども...
でも、まさか全員死んでるとは思わないじゃないですか...


幼馴染は、2人が事故に遭った責任が自分にあると考えて自殺、部活の先輩後輩は偶然おなじ電車に乗っていて、弟はよくよく思い出せばずっと前に亡くなっていた。
この、部活の先輩後輩がいい芝居をするんですよ〜〜
後輩役の中村太郎さん、ひらがな男子でしか観たことなかったけど見違えるくらいいい演技。
歌はちょっとカラオケ感残ってたけど。
それでも上手、あと先輩後輩の歌がめっちゃおしゃれだった〜


役者さん全員をあげるとキリがないくらい、皆さん本当によかった。
ちゃんと息をしていた。
段取りに追われたり、キャラに振り回されず、ちゃんとみんなが息をしていたのが伝わってきた。
ともよちゃんの牽引力なのかな〜〜ともよちゃん初見でしたけども〜〜


実は自分たちは死んでいて、銀河鉄道に乗らないといけないのに、見て見ぬ振りをしていた彼ら。
一葉も死んでて、その時間は夢幻でしかないのが辛かったなぁ。

銀河鉄道に乗って、「私がカンパネルラだったんだね」と気づいた一葉は、那由多に会うため電車に乗り、たどり着いたのはあの事故が起きた電車の中。
物語の最後は、事故にあった電車の中に戻って、冷たくなっていく一葉を抱きしめて那由多が「光はまだか」と歌い、閉幕。


もうなんの救いもなくて、観客席はみんな泣いていて、私はただただ呆然。
人生ハッピーエンド思考なもんで、最後は、悲惨な終わりじゃなくて、綺麗な終わりというか、星空とファンタジーの幻想的な気分で終わりたかったな、なんて。


でも、この物語が実際の事件をモチーフにしていると知ってから、少し時間が経って思い出しました。
昔、同じように史実を題材にした舞台の批評で「実際の事件をリスペクトしてしまっている」というものがありました。
悲惨な事件を題材にして物語を作るうちに、事件の悲惨さに憧れ、リスペクトしてしまう物語が多いとのこと。
なるほどなぁ、確かに、この物語の最後が「救い」で終わっていたら、
福知山線脱線事故でいまだに苦しんでいる人から目を背けていることになるのかなぁと。
ちゃんと向き合う、ちゃんと表現し切るためには、背けてはいけないことやごまかしてはいけないことがあるんだなぁと。


黒沢ともよさんの終演後ブログで「毎公演ちゃんと苦しかった。それはみんなのおかげで、みんなのせいです」という言葉があって、胸に響きました。
この苦しくて苦しくて仕方ない作品に、本当に向き合うって心の残弾がどんだけあっても足りなくなりそう。
逃げ出したくなりそうだけど、黒沢さんは向き合ってたんだなと感じました。
もちろん、他の出演者のみなさんも、それぞれの役割を全うしててよかった。
公演中に「こんなかっこいい幼馴染おるかい!」と内心つっこんでてごめん。
彼なりの罪悪感から一葉のことを守ろうとしていたんですね。(なんならそれを苦悩にすでに自殺してた)
なんかいろいろアラ探ししながら観てたけど、全部相殺されてしまった。

悲惨でしょうがない事件でも、こうして作品として美しかったのは
死んでたけど、一葉が成し遂げたかったことがあって、那由多に会って謝りたくて、ちゃんと想いを伝えたいという目的があって走っていたからなのかなぁ。
死んでたから、その時間軸は実は止まっていたのかもしれないけど。
那由多にどう届いたのか、那由多が生きる希望を持ってくれるのかはわかりませんが...
「救いがない物語は苦手だ」と終演後思ったけど、でも、この物語中に救われた人は意外とたくさんいるのかも。
ううむ、なぜもう一回観なかったんだろうなぁ。

あ、最初のあらすじ、ずっと「少女」のことは主人公である一葉のことで、「親友」は那由多だと思っていたら
実は「少女」は那由多で、「親友」が一葉だった、というところがうまい。
後から読んで染みるあらすじでした。

音楽も歌もとてもよくて、星空の映像もとてもよくて、事故の描写を使う椅子の使い方や
衣装の細かな演出等、いろいろと細部まで演出の力が入ってたし
途中は日替わりかな?面白いコーナーもあって力を抜ける瞬間もあったり。
とにかく綺麗なファンタジックな世界観が好きなので、個人的にも好みでした。
あと、黒沢さん目当てで行ったという初観劇おじちゃんたちが、軒並み「舞台っていい」と言っているのも嬉しい。
他の役者さんたちも、2.5次元舞台に立っていることが多いけど、こういうオリジナル舞台での姿を存分にファンに観せる場があってよかった!


「世界の終わりに君を乞う。」
あの電車の中に閉じ込められていた人は、みんなこんな気持ちだったんだろうか。
少しだけ事件を調べてはみたものの、生き残ってしまったことへの罪悪感「サイバーズ・ギルト」に陥り、3年後に自殺してしまった人が実際にいるそうです。
史実の力は大きいけど、その前に一つの作品を作り上げてくれた皆さんに感謝ですね。
いい作品でした!