【観劇】パルコ・プロデュース「星回帰線」

2016-11-26 ブログ再録

久々に北九州芸術劇場へ!
演劇部の後輩4人と、車で行ってきました。チェルフィッチュを観に山口までいったのが2年前、懐かしい~~
焼きカレーもバッチリ食べて、大満足の旅でした。

さて、「星回帰線」。
ゆめアールでチラシを見て、向井理が出るというのもあったけど、チラシがとても素敵で行きたいと手帳にメモした作品。
テレビ俳優さんが舞台に出るとどうなるんだろう、(エンタメ系の舞台ではなくて、ストリートプレイ)ってずっと興味があったので、ようやく観れたかもしれないです。
いや~~よかった。


あらすじ
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北海道苫小牧でスローライフを送る、とある団体がある。
そこでは、ビールをつくったり農場を耕したり、天体観測をして生活している人たちがいた。
とある事情で地元群馬を追われた産婦人科医の三島は、恩師に誘われて苫小牧を訪れる。
恩師でリーダーの藤原、その奥さん、元ヤン前科持ち、訳あり妊婦、引きこもりゲーマー、そして遊びに来る女性デザイナーの6名に受け入れられ、溶け込んでいく三島。
しかし、その三島の存在が、次第にその場所の空気を歪ませていく。
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あんまりにも自然な、言葉足らずな会話劇だったので、人の名前があまりにも呼ばれず覚えられず...笑


舞台は、大きなドーナツ型の装置があって、下手側に傾いていました。
そのドーナツのリングの部分でぐるぐると歩き回れるんですけど、「コミュニティの中と外」が「リングの中と外」にリンクして見えたり、リング中でみんながギスギスしていく中、外周をぐるぐると歩き回る塔子ちゃんのつらそうな表情が際立ったり、高低差の高いところから見下ろす住民たちの目線がかなり怖かったり、ただただ傾いただけの装置なのに飽きない構造でした。
海のシーンもその傾きが浜辺に見えたりして。

じわじわと変化する照明がかなりキレイで、映像もキレイで、そして劇場がキレイで本当に羨ましい(笑)
かなり出はけが多かったんですが、舞台の中と外、リングの中と外でもまた次元構造があって、一旦舞台に出てきて、リングの上に乗る前に役者さんが無表情で立ち止まるんですけど(そのシーンの外側にいるから反応はしない)...怖かった〜〜
三島を演じる向井理は1度も捌けてなかった、と思うんですけど、「と思う」くらいには他の役者さんの出捌けと溶け合ってました。

出来上がったコミュニティに外部の人間が入ることで空気が変わっていく、というのは「幸せはいつも小さくて東京はそれよりも大きい」に似ているなと思いました。
今回は、三島が優しくて人気者になってしまい、それまで少しだけ独裁っぽかった藤原さんの嫉妬を買ってしまいます。
元ヤンは藤原さんを慕ってるので、作ったビールが一向に美味しくならなくても「美味しいっす!」って言うし、空気が凍ったとしても明るく場を盛り上げていたのに、三島が正論ばっかり言うから「分かってんだよ!!これでも上手くやってきたんだよ!!」と怒るのですが、
どちらの気持ちも分かるから歯がゆかった~~

売れないビール作り続けて、年間500本しか売れなくて「おかしいでしょ」と言う三島の気持ちもわかるけど、それでもその場所を守り続けてきた元ヤンくんからしたら害悪でしかなくて。

どんなコミュニティであっても、たとえ大学生の部活動であっても、そういうその場の空気というものは必ずあって、
外部から観たら「なにやってんだろ」と思われていても、本人たちは必死で。
外部からの冷たい目線や冷静な意見なんて、頭の片隅でわかってるけど本人たちは走り続けるしか無い。
そういうの、ホントある。
「なんでそんな頑張ってんの」って言われたらもう何も言い返せないんだけど、それでも腹は立つ。笑
それまでやってきた流れとか、蓄積された関係性ごと否定された気持ちになるんですよね。
「外部プロデューサーの意見を全て受け入れられる劇団は稀である」ってこの前の飲み会でもあったけど、こういうことなのかもしれないなぁ。


元ヤンくん、ビール瓶で殴って前科持ちになった過去があるんですが、ビール瓶もちながら三島に「もう殴らせないでくれ」って言うんです。
絶対殴る、絶対殴る、と思ったけど、最後まで殴りませんでした。ずっとビール瓶持ってたけど。
藤原さんも明らかに殺せそうな工具持って三島と対峙するシーンとかあって、溢れんばかりの緊張感でした。
中盤はほんとうに、誰が誰を殺しても、自殺してもおかしくないくらいみんなが限界きていて、それがずっと続いたから辛かった...
帰り道の車で、あそこで実際にビール瓶で殴る脚本ありそう〜〜って話になりました笑い

三島も三島で、群馬でお父さんと産婦人科をしていた間は外界から遮断されていた生活をしていたので、そんな常識人ってわけでもないんですよね。
デザイナーと恋に逢瀬を重ねてしまったり、奥さんに優しくしてしまったり、引きこもりゲーマーをぞんざいに扱ったり。
でも、人間ならアタリマエのこと。
部屋に毎日遊びに来る女性と一緒に寝ることとか、藤原さんに理不尽に怒鳴られ続けて疲弊している女性を励ますこととか、聞いてもないゲームの話を延々聞かしてくるオタクの意見を適当に返したりとか。
私だってそうするかもってくらい普通なんですけど、そこにいる人はみんな心が繊細すぎて。
そして三島も「え、普通ですよね?励ましますよね?」とか言うんだけど、感情の説明があまりにも下手くそで。笑
後から考えると、三島が場をぐちゃぐちゃにしてるんだけど...その場その場の心情が自然だったから、本当に気がついたらこじれてたって感じ。

誰しもが、本当に人間らしくて、不器用で、わがままで、被害者妄想も加速して、懸命に生きてて、誰も責められない。
でも、どんどんどんどんおかしくなっていくのは止まらない。
は~~~~辛かった。
でも、目が離せなくて、本当にあっという間の観劇でした。

一番ヤバイのは奥さんなんですけど、ずっと藤原さんの横暴な要求にも黙って耐えてて、そこで優しくしてくれる三島があらわれてすっかり三島にハマってしまって。
「あんなに優しくしてくれたのに、私に気がなかったんですか!?」って詰め寄るシーンは恐怖だった。怖かった。
奥貫薫さん、声を荒らげないのに迫力ばかりがましていく。
首と背筋が全く動かず、スススッと近寄っていくあの歩き方、怖い、ほんとに怖い。

それまで完全に主導権が藤原さんだったのに、そのシーンだけ藤原さんがどんどん小さく見えて。
平田満さん、後半につれてどんどん小さく見えていく様子が本当に不思議でした。
妻って怖い。女って怖い。

でもやっぱり、「男は自尊心、女は恋愛」でおかしくなるんだな。
それをすんなり受け入れてしまうということは、やっぱり人間ってそうなんだろうか。
女の自尊心はまた別にあるとは思うけど...


どうやって終着するんだろうと思っていたのですが、ギスギスしまくるその様子をずっと観ていた、天真爛漫な妊婦「塔子ちゃん」が産気づき、みんなで塔子ちゃんを車で病院まで送ります。
「みんなを観ていたら生むのが怖い」
と言ったあとに倒れた塔子ちゃんに、みんなが謝りながら励まします。
産婦人科医という仕事が大嫌いで逃げてきた三島が指揮をとり、藤原さんが運転し、初めて心から一致団結。

それまでの重苦しく、でも逃げ出せず、目が離せない空気感から一転、突然スピード感溢れる出産シーン。
一番の危機なのに、観ていて一番ホッとしました。
全員が「頑張れ塔子ちゃん」って、初めて一致団結して、ギスギスの原因である三島が産婦人科医として中心にいて、みんな前向きに人を励ましてる、なんていいシーンなんだろう!
後ろのスクリーンに浮かび上がる文字「お父さん 僕はこの仕事が嫌いです」「お父さん あなたはすごい人ですね」がじんわりと染みました。

「そのまま車が事故って全員死亡」ってラストも想像したんですけど、無事病院につきました(笑)
私なんかそういう不条理劇みすぎてんのかな...w


「外からの正論は、中の人にとって暴力」って、すごく納得がいくんですけど、コミュニティの中、外からきた三島、そのさらに外に観客席から見ている私の目線があるのかなと思ったり。
その舞台上で生きている人が人間らしければ人間らしいほど、外から見てたら滑稽なのかも。
今回が本当にそうだったけど、「生きてるだけで喜劇」ってほんとやなぁ。

会話劇であったり、すごく些細なことで関係性がふわっと改善したラストシーンであったり、こういう繊細な人間関係を目の当たりに出来るのは、やっぱり舞台だけなんだよな〜〜
はぁ、素敵なものを見た。
向井理は顔が小さくて「イケメン」っていじられていて笑いが取れていたのはずるいなと思いました。

ここから先、別の話。
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「日本は役者を観に来る文化だ」というお話を聞いてかなり納得したことがあるのですが、
演劇に全く興味のない人を劇場に連れてくる1つの方法として「人気役者を起用する」というのは安易に思いつくんです(笑)

2.5次元舞台でファンになった俳優さんが出ているからと、友達が全然関係無い演劇舞台を観に行ったということが実際にあったので
「2.5次元舞台で熱心なファンがいる役者さんを小劇場演劇に出演させたら、その効果は何%でて、その後継続的に観客になることは何%くらいなんだろう?」とたまに考えます。

例えば、地方の俳優が2、3ヶ月東京で稽古して2.5舞台でて、ツアーを周り(その人にとっては地元凱旋)、そのまま地方に戻っていったりとかすれば...何かこう、瞬間的になんかないかな、ないのかな、とか。

ってか、観客にならなくても「演劇って悪くない」「演劇やってる全然知らない人がこんだけいるんだ」とか、そういうことを肯定的なイメージを持ってくれたらそれでいいんですけどね。
「役者になりたい」と言ったときに「いいね!」と言われるようになれば...と思うので、それに関してはかなり有用なのではと思うのです。


今回、私の斜め前の人が、明らかに向井理ファンで、向井理が脱いだり女の子押し倒す時にすごい勢いで姿勢が前のめりに(笑)
わー、そういう人が来てくれるのは嬉しいなーと思ってたんですけど。

話が基本的に重たかったので、カーテンコール(しかもダブル)、役者の皆様は神妙な顔つきだったんです。
私としてはごく自然なことだと思ったんですけど...
その斜め前の方が「笑顔が観たかった〜〜」って言って帰っていったんです。

それを観て、やっぱ役者さん観に来たら、役者さんだけ観て帰るのかなって(笑)
演劇に対して別に悪い印象を持たなければそれでいいんですけど、冒頭に述べたようなことって、やっぱそんな簡単に起きないんだなって思ったエピソードでした(笑)

Twitterとかエゴサしてみたんですけど、「テレビドラマ観てる気分だった」っていうのを2つ見つけて。
同じ時間の舞台を観て、そういう感想が2つあるってそこそこなのかなぁと思ったりしました。
逆に、「星回帰線」ってツイートしたら3RT5ファボで、みんな向井理さんファンで、「ファンこえぇ!」ってなりました。笑

なかなか、むずかしいのう。