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【一人暮らしの徒然】「ヘレン・ケラーを読みますよ」

 結衣子はうっすら瞼を開けた。明るい照明がまず目に入る。夕飯を食べたらうとうとして、「ちょっとだけ」のつもりで着替えも洗顔もせず横になったのだ。結構本格的に寝入ったらしい。21時を過ぎていた。
 起き抜けにまず「暑い」と思った。暖房の設定を下げる。次第に春めいているのだな、と思う。
 机の上に出しっぱなしだったスポーツドリンクのペットボトルを口に含むと、幾分すっきりとして喉の渇きも癒える。
 洗顔して保湿して、カフェインレスのインスタントコーヒーで作ったカフェオレをレンジで温める間、シンクに溜まった食器を洗う。明日の分の一合の米を炊飯器にかけ終わった頃、レンジが停止した。
 パジャマに着替えて、カフェオレを飲みながら家計簿と日記をつける。今日はコンディショナーや洗顔などの詰め替えをまとめて買ったので、結構な出費だった。ついついカフェやファーストフードにも行ってしまうなあ、とレシートを眺める。
 この頃、書き物をしながらポッドキャストを聞いている。歴史を面白く学ぶコテンラジオ。今日あったことを振り返って5年手帳を書きながら、スマートフォンから流れるヘレン・ケラーのエピソードを聞く。
 ヘレン・ケラーについては、結衣子は小学生の時にクラス全員で半日をかけて伝記を読んだ経験がある。クラスに障害を持った男の子が一人いて、その子を揶揄った男子生徒に担任の女性の先生が激怒した。そして、ヘレン・ケラーの伝記をみんなで読みますよ、ということになった。先生はおうちにヘレン・ケラーの本があったら持ってきなさい、と言い、図書室からもありったけ関連の本を借りてきて、クラス全員に一冊ずつ行き渡るようにした。そして、全員が読み終えるまで他の授業をそっちのけにしてひたすら読んだ。振り返って、小学校生活の中でも特筆すべき一日だったと結衣子は思う。あの担任の先生は、キリスト教徒だったという。
 書き物を終えてTwitterを漫然と眺めていたら、冷蔵庫にもう何日も居座ってる青梗菜を消費するのに良さげなレシピを見つけていいねしておく。冷凍庫の豚肉を冷蔵庫に移しておいた。明日のおかずの目処がついた。
 天気予報では雪かもしれないという。明日は引きこもって過ごそう。あくびが出る。この分なら寝直せそうだ、と机の上を片付けた。

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