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【一人暮らしの徒然】一人暮らしを始めた理由は

 結衣子は、休日なのでゆっくり起きた。平日は4時台に起き出すが、今日はもう8時近い。
 布団から緩慢に起き上がって、朝のルーティンをこなす。まずトイレの後、体重と体温を測って記録して、洗顔して軽く保湿。踵のガサガサに軟膏を塗り、一日一度の服薬。手を洗って軟膏を流してから着替える。
 頭の中では「洗濯しなきゃ」「晴れてるから布団も干したい」「午前中のうちに掃除機かけよう」「冷蔵庫のネギと豆腐を使ってしまうぞ」などなどを全部並行させて考える。念頭に置くことが細々と多すぎて、いざ家事に動き出そうとすると却って最初どれに手をつけようかまごついた。
 洗濯機を回す。ネギを刻んで豆腐を切る。各種調味料と煮込んでネギ味噌だれを作りながら、ベランダに布団を干す。柵にビニール紐を通して布団を括りつけたが、4階の高さなのでそうしてもやや不安だ。ベランダのスペースに置ける布団用の物干しの購入も検討する。
 洗濯物を干して布団類を裏返したところで、結衣子は一旦休憩することにした。作りかけのネギ味噌だれを完成させて、焼き目をつけた豆腐にかけて、いわゆるブランチ。ああ、美味しい。ヘルシーなおかずを味わいながらも、脳内ではこれでネギと豆腐は消費できたけれど、冷蔵庫にはまだ人参が二分の一サイズ残っていて、それも少しふにゃっとしてきた。ひじきと鶏ひきを買ってきて、一緒に煮込んでしまおうかな。それで今夜の献立と買い物も決まった。
 食後にほんの数分ぼんやりして、食器を洗ったら布団を取り込んで掃除。掃除機をかける前に、片付けるものは片付け、棚や作業机もどける。運びやすいよう軽くするために棚から本を抜いていたら、中学英語のテキスト類が目についた。毎朝の勉強に使っているものだ。結衣子は「あ、今朝は勉強してない」と気づく。
 今日ゆっくり起きたからだなあ、と独り言を言う。英語の勉強はいつも朝に取り組んでいる。というより4時台に起きていると、近隣を憚ってそうそう物音も立てられず、勉強くらいしかすることがない。早起きが習慣づいていると勉強は欠かさず続けられるが、たまに今日のように起床時間がずれる時もある。買い物から帰ってきたらやろう、と決めて、ひたすら掃除機をかけた。
 一人暮らしは、ルーティンとイレギュラーが入り混じる中を掻い潜っていくようなものだと結衣子は思う。決まった習慣を守る傍ら、その日起こる種々様々なタスクを処理していく。なぜ一人暮らしを始めたかと問われたなら、――そういうことがしたかったんだよなあ、と唯子は思う。生活を回していき、自分の心身とスケジュールを管理する。何もかもが自分の責任であり、自分の自由だ。時に悩ましくも、それこそが楽しい。

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