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Filecoinのトークノミクス:発展していく経済圏を理解するための手引き

はじめに

Filecoinネットワークは2020年10月のローンチと同時に、IPFSプロトコルへのインセンティブレイヤーの導入やデータのためのオープンサービスを実現した。現在、同ネットワークはオープンサービスとしてのストレージに焦点を置いている。しかし、Filecoinネットワークの方向性をまとめたこの投稿によると、Filecoinのより大きな目標には「データの保管、分散、変換のためのインフラが含まれる」という。

Filecoinがこの目標を達成するための「マスタープラン」は、まずストレージ容量や処理能力などといったハードウェア資源のクリティカルマスに到達することから始まる。これは重要な点であるーというのも、Web3インフラが従来のクラウドと競合するだけでなく、その一部に確実に含まれるには、現在提供されているサービスを遥かに上回る規模とスケールで運用されなければならないからだ。

現在に至るまで、これを成し遂げたWeb3プロトコルは未だ登場していないが、その中でFilecoinは最も有意義な進捗を見せている。

さらに、ネットワーク資源(容量、取得、処理能力)に対する長期的な需要を促すには、次に示す点がポイントとなる。

  • ネットワーク上に有用なデータがあること

  • データ上での処理や作成可能なサービスを実現するソフトウェアやツールの開発

結果的に、これらのサービスに対する需要はFilecoinブロックチェーン上に強力な経済圏を構築する基盤となるだろう。

Filecoinのトークノミクスはこのような長期的なビジョンを念頭にデザインされており、現にネットワークの急速な成長と発展の奨励に貢献してきた。現在に至るまでに、Filecoinネットワークには16EiBを超えるストレージ容量が提供されており、急激なエコシステムの開発とともにネットワーク資源への需要も増加している。ここに見られる成長と度重なる成功例は、Filecoinコミュニティをはじめとして、ストレージ利用者と開発者、ストレージプロバイダとエコシステムパートナー、そしてトークン保持者らが相互に連結したネットワークによる努力の賜物だ。

トークンとしてのFilecoin

Filecoinの国際的なデジタル経済には、取引のための唯一の有効な通貨が必要となる。そして、Filecoinが暗号的に認証可能な商品が流通する自由参加型(Permissionless)の市場であるからこそ、そのデザイン上の制約条件に合致するのはネイティブトークンであるFilecoin(FIL)だけなのだ(詳しくはこちらの記事へ)。

FILトークンには次に示す数々の役割がある。

1.オンチェーンで行われるメッセージにかかる手数料の支払い。

2.担保として活用された場合は、徐々に信頼できるデータストレージを実現したりブロックチェーンのセキュリティを確保したりするための経済的インセンティブとなる。なお、Interplanetary Consensusのローンチ後はサブネットまたは「シャード」のセキュリティ確保にも繋がる。

3.バーンすることで共有資源(ブロックスペース)の量を調整することができる。

他のストレージネットワークとは異なり、Filecoinのトークンは信頼できるサービスの推進やオンチェーン経済の促進を主な目標としている。ストレージ市場についても、オフチェーンに存在するのは確かだが、暗号的なストレージ証明を格納したメッセージを通してオンチェーンで支えられている。

つまり、重要なことにこれはネットワーク上のさまざまなサービス(ストレージ、取得、計算処理など)の利用者に対して必要以上に圧力をかけることなくFilecoinのトークン価値が徐々に高まっていく中、Filecoinネットワークの利用が増えるとブロックスペースへの需要増加などにも繋がるため、トークン保持者はFILの消費から恩恵を受けることを意味する。

トークン保持者におけるトークノミクス

Filecoinのトークン配分

Filecoinの暗号経済的な構造は、関係者の利益発生とプロトコルの長期的な有用性が共に実現されることを確証する支えとなっている。現にFilecoinの当初の資産配分は、持続可能な価値創出を推進するプロトコルを支えるようデザインされていた。

出典:Filecoin Spec. 実例を目的とした使用に限る。

現在のプロトコルの仕様書によると、今後最大で20億FILが発行される予定だ。そのうち、70%はストレージ及び関連サービス(ストレージプロバイダに対する報酬の発行など)に割り当てられ、20%はネットワークの発展や適用、経済圏の成長を支えるためにProtocol LabsやFilecoin Foundationなどに割り当てられた。そして、残りは2020年10月から6ヶ月〜3年の間SAFTに投資した者に配分されたFILとなる。

先に述べたように、発行され、取得されるFILは理論上最大でも20億FILとなるが、ネットワークで循環するFILの量とは異なる可能性がある。ここで、その理由を解説する。

1.マイニング準備金として保持される3億FILを利用するには、プロトコルのアップデートが必要となる。つまり、仮にこの3億FILが利用されるとなればFilecoinコミュニティの決定によって流出量が決まる。

2.ネットワークが成長するためにはトークンの利用と消費が必要となり、結果的に入手可能なトークン供給量が減少する。2022年9月末時点では、およそ5200万FILが発行または付与されている。なお、そのうち流通しているのは70%ほどとなる。なぜなら、相当量のFILがネットワーク手数料のためにバーンされるか、またはネットワークのセキュリティを確保し、信頼のおけるストレージを推進するための担保として固定されているためだ。Filecoinには有限の付与(Vesting)スケジュールと、ネットワークの成長を指標に放出量を決定する発行モデルが設定されているため、ネットワークが成熟していくと共にトークンの放出率(付与や発行)は落ち着いていくと予測されている。(現にそのように設計されている。)

トークン供給:発行と消費

トークン供給量を徐々に決定していく流入源と流出先は、自身の相対的購買力を知ることにも繋がりうるため、トークン保持者は理解しておくと良いだろう。

情報提供のみを目的とする。なお、仮定や第三者機関の情報を基にしている可能性がある。

トークンの発行や付与、固定やバーンは流通するトークン供給量からの総合流入量や総合流出量を決定づける要因となる。次の図でメインネットローンチ以降のFilecoinのトークン供給量の発展を確認することができる。

出典:Starboard Ventures。2022年9月30日時点のデータ。なお、このグラフは過去のデータのみを示す。Filecoinの循環供給量は市場への投入量に影響を受けるため、正確に予測することができない。

現状、Filecoinネットワークは拡大している。Filecoin FoundationやProtocol Labsのために確保されているトークンはエコシステムの発達や成長を支え、ストレージプロバイダに支払われるブロック報酬は取引やストレージ容量の追加を促進する。この仕組み内では、トークン保持者にはストレージプロバイダへ貸付を行い、FILへのアクセスを提供しつつネットワーク報酬を共有するという形で、エコシステムの成長に貢献する大きな機会が与えられる。

こうすることによって、トークン保持者はネットワークの成長とFilecoinの実現目標を推進しながらも自前でFILの放出を指標として追うことができるのだ

Filecoinエコシステムのロードマップ:トークン保持者への影響は?

Filecoinのエコシステムは次の四四半期にかけてユーザーを対象としたプログラム可能性やデータの追加、データの取得可能性とスケーラビリティ、計算処理の継続的な改良が実施される予定であり、非常に面白い局面を迎えていると言えるだろう。

先に挙げた実施計画は顧客の需要に応え、ネットワークのユースケースを広げることで最終的にはトークンの利用を推進することに繋がるため、トークン保持者にも良い影響を与えると考えられる。

ここからは、Filecoinの重要な改良事項やそれがもたらしうる経済的な影響を解説する。

Filecoin仮想マシン(FVM、Filecoin Virtual Machine)

Filecoin仮想マシンは、次に述べられるケースをはじめとした無限の可能性を切り拓くものだ。

  • プログラム可能なストレージの基本要素

  • チェーン間で相互運用可能なブリッジ

  • データを軸とする分散型自律組織(DAOs)

  • Layer2ソリューション

端的に言うと、これはFilecoinにスマートコントラクトやユーザーを対象としたプログラム可能性が導入されることを意味している。

このアップグレードは2023年上半期に予定されており、完了すればFILのユースケースが増える可能性がある他、トークン供給量のうち「シンク」に当たる部分に影響を与える見込みがあるため、トークン保持者にも良い影響を与えると言えるだろう。

トークンの供給量に対するFVMと「シンク」

ネットワーク上での活動や利用が存在する限り、オンチェーンでのメッセージが消費する計算処理量やストレージ容量の埋め合わせを行うためにFILトークンはバーンされることになっている。そこにスマートコントラクト機能を導入するとブロックスペースへの需要が拡大する可能性があり、結果的にバーンされるFILが増加しかねない。ネットワーク参加者がオンチェーンの資源を競り合う中、FILをバーンするペースはFilecoinコミュニティに委ねられていると言えるだろう。

さらに、FVMを実現するプロトコルアップデートは、活用されるFILや固定されるFILの増加に繋がる可能性がある。

現在、ネットワーク上に固定されているFILの大部分はストレージプロバイダが担保として設けたものだ。ここにFVMが導入されれば、固定された大量の資産をスマートコントラクトのアプリに対応させられる可能性がある。

また、分散型金融(DeFi)のプロトコルは、FilecoinのProof of Useful Work(有意義な仕事の証明)チェーンを効果的に活用できるアプリケーションの一部に過ぎない。そのため、DeFiプロトコルが同チェーンを活用することによって、FILがバーンされるペースを早めるだけでなく、FILの固定やステーキングに関する新たなユースケースを見出すことになる。

FVMは、Filecoinネットワークに表現力をもたらすという面で特別である。現在はストレージプロバイダとの契約を通してデータの保管を実行できるが、FVMがあれば契約内容に新たなルールや自動化機能、DeFiなどといった他のサービスとの構築可能性などを付け加えることができるのだ。

ロードマップを構成する取得市場やCompute over Dataなどがローンチしていくと共に、FVMがFilecoinの基本要素を活用してより洗練されたサービスを推進し、より広くネットワークで採用されることを期待する。

注釈:具体的に何が可能になるかという例として、このTwitterスレッドを読めばスマートコントラクトやFilecoin基部を構築する基本要素を活用してより洗練されたサービスを提供する方法を理解する助けとなるだろう。

Filecoin Plusとデータの追加

Filecoin Plus(FIL+)はFilecoinの建設的な利用を奨励するための実践策として登場した。「本物の有用なデータ」と「意図的に作られたでたらめ」の区別をアルゴリズム的に判断するのは困難だが、そこでFilecoin Plusは社会的信頼にあたるレイヤーをFilecoinに導入した。

Filecoin Plusプログラムは、認証プロセスを完了した顧客には「DataCap」という新たな資産を付与し、ストレージプロバイダとのストレージ取引締結時の手数料として使用できる仕組みになっている。

そして、認証されていない通常の取引やストレージ容量を提供して得られるブロック報酬と比べると、Filecoin Plusの取引では受け取れるブロック報酬が多いため、ストレージプロバイダはDataCapを使用する顧客とのストレージ取引を優先的に行うよう動機付けられている。

さらに、ストレージプロバイダはFilecoin Plusの取引で引き上げられたブロック報酬を受け取るために、担保やネットワークに固定するためのFILの数量を増やしている。(なお、FIL+ではそれ以外の領域のおよそ10倍もの担保がすでに設けられている。)

本年度の初め以来、Filecoin Plusの顧客が提供するデータは堅実に伸びており、ネットワーク上に有用なデータが増加していることは明らかだ。


出典:Starboard Ventures。2022年9月30日時点のデータ。実例を示すことを目的とする。

トークノミクス的観点では、上図のような傾向が持続するとネットワーク上に固定されたトークンが増え、流通するトークン供給量が減っていくと考えられる。さらに重要なことに、Filecoinネットワークが「有用なデータの保管」という目標に近づくほどにFILトークンの消費と利用量も伸びていくことが予想される。

Interplanetary コンセンサス

近々予定されているアップグレード「Interplanetaryコンセンサス(IPC)」は、Filecionで対応可能なユースケースを増やしつつネットワークのスケーラビリティやスループット、ファイナリティを向上するようデザインされたものだ。IPCはサブネット(シャード)を活用して水平方向に拡張するブロックチェーン領域の革新技術でありながら、次に挙げる暗号経済的な影響をもたらす可能性を秘めている。

  • バーンされるFILの数量を増加しつつ、スケーラビリティの向上とFVMの活用によってユーザーが支払うガス代を減少させる。

  • サブネットのセキュリティ確保を目的に担保として固定またはステーキングされたFILの数量を増やす。

  • シャードは、カスタム化されたオンチェーンでのユースケースを支えるため、FILの消費への需要が向上する。

総括

Filecoinは、革新的なデータストレージとアプリケーションのネットワークとして、人類が保有する情報のための分散型で効率的かつ確固とした基盤を構築することを目標としている。この目標のためにFilecoinのエコシステムになされた幾多の開発は現在も進行中で、なおかつトークン保持者に良い影響を及ぼす。

本来、Filecoinプロトコルの暗号経済的なデザインは、ネットワークへの長期的な参加や貢献を奨励するものとなっている。コミュニティへの参加者はトークノミクスや、その中でも特にトークン経済を裏付けるトークンの流入・流出源を理解することから恩恵を得られる。

将来的に、プロトコルを継続的に改良することで、ネットワークやトークンに関する革新的で面白いユースケースが登場するかもしれない。そうなれば、トークン保持者のエンゲージメントが向上し、Filecoinという急成長するエコシステムの価値提供を推進することにも繋がるだろう。

注釈:本記事は筆者の個人的な意見であり、筆者の雇用者の意見とは無関係である。なお、「公式」と捉えられるべきものではない。本記事記載の情報は、情報提供のみを目的とした使用を意図している。本記事は投資を推奨するものではない。記事内の情報は全て正確かつ最新であるよう心がけてはいるが、時折意図せず誤りや誤植が発生する可能性がある。

最後に、本記事作成に協力していただいたJon Victor(@jnthnvctr)とTLDR、CryptoEconLabチームに感謝を述べたい。