悠久
太陽を反射させ、きらきらと輝く海。その水平線に続く空は、低いところは紺に近く、空高くなるにつれ鮮やかな水色に変わっていた。惑星の軌道を示す黄色や白の線が縦横無尽に伸び、所々に輝くのは真昼の星。
惑星が磁場の影響で迷い星にならないよう、あのマーカーが何らかの役割を果たしているんだっただろうか。おぼろげな知識を辿りながら、頭上を仰ぐ。
「ねえ、正夏(せいか)。夏休みにラジエータの修繕を頼むよ。どうも最近、うまい具合に冷却できてないみたい。」
正夏は岸壁に足を投げ出して座り込み、隣でよく冷えた苹果酒の瓶を首に当てる梓(あずさ)をジットリと眺めた。
「ぼくにも頂戴。」
「そこ。」
梓は、自分の隣を目で見やって、それだけ言った。視線の先には氷水の入ったバケツ。その中で苹果酒瓶を冷やしている。とはいえ、この暑さのせいで氷だって溶けてしまって、もうほとんど残っていないけれど。
コンクリートはじりじりと火傷しそうなほど熱い。そのうちバケツの底も溶けるだろう。
最近、夏になると異常なほどに気温が上がる。そのせいか、機械類は軒並みオーバーヒートして、修理工場の人間たちはくるくるとせわしなく働いていた。修理工場に依頼したとして、順番が回ってくるのはおそらく数年先になるのだろう。はぁ、とため息をつき、瓶をバケツから取りだした。
「またラジエータ。最近やけに多いんじゃないの。」
「本体がもうすぐ三十年のオンボロさ。どこもかしこもイカレてたら、機体まるごと交換しといてよ。」
「……OK、その後僕のメンテもやってよ。ぼくは自分がのからだが大事なんだから。」
「絹のようなその肌を見てたら、よくわかるよ。あぁ、お互いうまくやっていこう。二人でいれば、千回だって、億回だって、こうして夏を迎えられるんだから。」
梓の熱い指先が正夏のサラリとした額を撫でていく。
熱い風が吹いた。
二人の白いシャツや前髪がはためき、正夏は目を細める。ちっとも涼しくなんてなりやしないのに、人肌のような指や風の熱さは、どこか心地よかったのだ。
当アンドロイドの耐用寿命は約三十年です。アンドロイドに自身の人格を写したり、機体交換の際に人格や記憶を引き継ぐことが可能です。ご購入を希望される方は当社までご連絡を。
【エリシウム・システム社 連絡先:X06‐Δ906-xRl7714】
オープンチャット 「皆でSFを書こうの巻」企画より。
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