見出し画像

【連載】第8回 山本美憂さん 『すべてのことに意味がある』

大山峻護のポジティブ対談
コロナ禍を乗り越えるためのメッセージ

第8回 山本美憂さん
『すべてのことに意味がある』

この対談は『ビジネスエリートがやっているファイトネス』の著者・大山峻護が各界で元気に輝きを放ち活躍しているこれはと思う人達をゲストに迎え、コロナ禍の今だからこそ必要なポジティブメソッドをみなさんにお届けするもの。第8回は総合格闘家の山本美憂さん。すべてのことに意味がある。昨日の自分よりも今日の自分が成長するように、毎日を積み重ねる。そんなお話です。

■私にとって花道は大事な場所

大山峻護) 僕と美憂さんは同い年なんです。
僕は40歳でボロボロになって引退しましたが、この年齢で一線で闘うのがスゴイ。
昨年末のタイトルマッチ(RIZIN.26 女子スーパーアトム級タイトルマッチ/浜崎朱加戦 2020.12.31)を見たときは、入場で感動しました。とにかく出てくる時の顔、オーラがすごかったなと。
左足のテーピングを見たときにケガをしていることはわかりましたが、でもあの顔を見た時に、メンタルはもう最高の状態に仕上げてきたんだろうなと思ったんですよ。
ケガの不安感を微塵も見せない。それだけで感動しました。

山本美憂) ありがとうございます。

大山) 山本選手(美憂さん)は勝ち負けだけじゃなくてそれまでのプロセスが表情やオーラに出るんですよね。プレッシャーに押しつぶされそうになっても死に物狂いで、勇気をもってやってきたんだろうなといつも感じさせられるというか。

山本) 入場に関しては、KID(弟・山本“KID”徳郁)の入場を見ていて、姉だけどあこがれていた部分がありました。
私はずっとレスリングで、総合格闘技の弟とは土俵が違うので、そういう場面はあまり経験がなかったということもありますが、花道を入場してくるKIDを見て、憧れというのか、自分の中でのヒーローのような思いで見ていたんです。

それから月日が経って、私もそこを歩くようになって、KIDからもらったあの感動を大切にしているというか、弟が作り上げてきたこの道を大切にしなければいけないな、ということを毎回思うんですね。

だからいつも、花道を歩くときは本当に幸せな気持ちがいっぱいになります。そして、歩いているうちに覚悟が決まるんです。

私にとって花道は大事な場所でもあるんですよね。

大山) 結果的にあの試合は一本負けでしたが、僕はあの試合を見て、「勝ちがついてこなかったとしてもファイターは生き様を見せるんだ。それが大事なことなんだ」ということ教えてもらったし、多くの人も感じたことだと思うんですよね。
これは現役時代の自分ではわからなかったことです。

山本) 私の場合は引退を何回か経験しているので、自分が第三者として競技者を見ることができる時間があったでんす。だからこそ「今自分が競技できていることが幸せ」というのがすごく勝るんですね。

■今できる自分を思いっきり、後悔はしないように

山本) 私がそんなふうに思えるのは両親の教えが大きいかなとも思います。

母はよく私がレスリングで負けて落ち込んでいるときに、
「結果ももちろん大事だけれど、それまで毎日自分がどれだけ頑張ってきたかが大事。1日終わってみて、あれやっておけばよかった、これをやっておけばよかったといった後悔をしないように毎日やること。それさえ一生懸命できていれば、その時の結果が望んだメダルの色ではなかったとしても、いつかは望む色に変わるはず」
というようなことを言ってくれていました。

父も一つの技を習得するには「1ミリオン(1万回)」、「何千回、何万回やらないとダメだ」と言っていました。

二人ともそれまでの過程、道程が大事だと教えてくれていたんです。

大山) 素晴らしい!
若い子たちに教えてあげたいですね。一番大切な部分というか。

山本) あと、私の場合、(他の選手とくらべて)現役の時間が限られていて、1日、1日が引退に近づいているので、やはり「今できる自分を思いっきり、後悔はしないように」という思いは強いですね。だから練習したい。若いころよりも、引退して戻ってきた今のほうがやっていますね(笑)

大山) いやー、すごい。あの試合の後、美憂さんと少しお話させていただいたんですが、その時言っていたのが「早く練習したい」ですもんね。年末の大勝負を終えて、ケガもしているのに、「すごいなー」って本当にビックリしました。

山本) もちろん負けて、悲しいし、悔しいですけど、そこまで落ち込んでいないというか、まだ(MMAの世界では)自分はルーキーだと思っているので、学ばなければいけないことがたくさんあると思っていて、「落ち込んで泣いているぐらいなら、その分走れよ」みたいな(笑)

父も昔から「お前がどんなに落ち込んでいても、自分の痛みは自分しかわからないんだから、周りは理解してくれないよ。大丈夫。お前が元気になればあとは元通りになるから」って結構言っていること無茶苦茶なんですけど、声をかけてくれたりもします (笑)

大山) ポジティブですね。

山本) とにかく落ち込んでいたり、止まっていたりする時間がものすごくもったいない。
「なんで負けたんだ」と、落ち込んでいる時間がもったいない。
もしかしたら落ち込んでいることにすぐ飽きてしまうのかもしれませんが……。

大山) トップアスリートは大体そうですね。切り替えが早いというか。僕はとことん落ち込んでしまうタイプで、自己否定に入ってしまうんです。で、次に向かうスタートも遅れた上に、マイナスからのスタートっていう(笑) そこが違うんですよね。

■どんなにつらくてもゼロではない

山本) 私はよく取材などで「ゼロではない」ということを話すんですね。
母は亡くなっていて、今では弟のKIDまで亡くなってしまったんですけど、私がどんなに頑張っても、腕立てを1000回やったとしてもこの二人に会うことはもうない。つまりゼロですよね。

でも、例えばチャンピオンシップを戦う時に自分のほうが相手よりも力が劣るだとか、絶対に勝ち目がないだとか言われようが、それに比べればゼロじゃないんです。
たとえそれが1%や0.1%であってもゼロじゃないんです。

まったく可能性がないゼロに比べれば、「これだけチャンスがある」

そう思うとすごく頑張れる。それは自分がゼロを知っているから、可能性のあることに希望が持てるんですね。

何か大きな壁があるといつも思い出すんです。そして「大丈夫、行け」って思える。このことがすごく自分を強くさせてくれるんです。
二人から力をもらっているというか。

大山) 美憂さんの試合で印象に残るのが、KID選手ががんで亡くなった後の試合(RIZIN.13 アンディ・ウィン戦2018.9)で、ものすごくメンタルを作るのが大変だったと思うんですが、あの試合に出場した理由とかお聞きできますか?

山本) そうですね。これは、そのひとつ前の試合(RIZIN.11 石岡沙織戦2018.7)の話なんですけど、当時はKIDの治療でみんなでグアムに移っていたんですね。
その時、英語ができることもあり、私が病院の送り迎えをしたりと、KIDの身の回りの世話をしていて、試合の3週間前ぐらいに、「やっぱりノリ(KID)のほうが大事だし、この試合はやめようと思う」とKIDに言ったんです。

その時KIDは「うん、わかった」といった感じだったんですが、その夜に「やっぱ試合出て」と。「これは美憂の勝てる試合だから勝ち癖をつけてほしい」と。
それまで私はずっと負け続けていたんですが、ここで「勝って勝ち癖をつけてほしい」と言うんですね。
それで、「わかった」と言って、試合に出て勝ったら、KIDがすごく喜んでくれたんです。

その時、KIDが日本では病院で寝たきりだったけれど、グアムに来て歩けるぐらいに元気になっていたこともあって、
「私が勝てばきっとKIDも元気になってくれる」
「もっと勝ち癖をつけてKIDを安心させてあげないと」
と思って、無理やりRIZINの方に頼み込んで組んでもらったのが、9月のあの試合なんです。

でも、試合の2週間ぐらい前にKIDは亡くなってしまって……。
KIDが亡くなったのは朝だったんですが、その日の夜は試合に向けたボクシングの練習が入っていて、その時、「あっ、ここで行かないとKIDに怒られるし、彼が言っていた勝ち癖がつけられない」と思って練習に行ったんです。そこからまたスイッチが入りましたね。
「これだけ練習できるんだから、試合もきっとできる、約束したんだから」
って。

大山) 山本家って家族の愛とか絆の深さを教えてくれますね。一番大切なものを教えてくれる。勝っても負けても同じ愛があるというのか、すごいですね。

山本) 家族の力とか言葉は私を動かす大きな原動力になっています。

■すべてことに意味がある

大山) ここまでの話もそうですが、美憂さんって本当にいろんなこと乗り越えているじゃないですか?
17歳でレスリングの世界チャンピオンになって、オリンピックに3回も行けないという挫折を味わいながら、今も現役を続けているというね。

山本) これもよく言うことなんですが「すべてのことに意味がある」と思うんですよね。
オリンピックに行けていたら、そのままアマチュアで引退していたかもしれない。でもあの時行けなかったから、次の目標やいろんなシチュエーションが重なって今の自分があると思うので、すべてのことに意味があるんですよね。

大山) 前にこの言葉をインタビューで読んで、すごく共感しました。

山本) 私の場合失敗が多いから、そういうふうに考えないとと思うところもあるんですが(笑) 
だた、「すべてのことに意味がある」とわかるのがいつなのか、明日なのか、1週間後なのか、5年後なのか、10年後なのかわからないけれど、「あれがあったから今の自分があるんだ」と知っているから、何が「あっても絶対大丈夫」と思えるんですよね。

大山) そういうマインドになったのは誰かの影響があるんですか?

山本) それも母ですね。KIDもよく言ってました。
たしかあれは、シドニーかな。KIDがオリンピックの最終予選に出て、決勝で同点に追いつかれ、延長のサドンデスで負けたんです。その負けで吹っ切れたみたいで、KIDはすっぱりレスリングをやめてMMAに移りました。
そのKIDが
「あの時はオリンピックに行けなくてショックだったけど、あの負けがなかったら今俺はこのでっかい花道は歩いていないから」
って言ったんです。

これを聞いたとき「はっ、そうだ」と、「このほうがKIDらしい」と思ったんです。
オリンピックに出れば、多くの人を感動させることはできるけれど、KIDのスタイルで多くの人に希望とか勇気を与えることもできる。

まさに「すべてのことに意味がある」というか、このKIDのメンタルもすっごく勉強になります。

大山) なるほど。いやー、熱くなるなー!

山本) コロナもそうですね。
私はグアムに住んでいて、街がロックダウンになって、日本への渡航も難しくなり、試合もなくなった。
その時、「たぶんこれは自分がスキルアップする時期なんだな」と思えたんです。なぜかと言うと、それまでは試合が続いていて常に相手ばかりを見ていたんですね。その一点に常に集中していた状態とでもいうのかな。

でも、コロナで試合がなくなり、時間ができてみると、全体を広く見ることができて、すると自分に足りないものなんかも見えてきて、「自分には土台作りみたいな時間が足りなかったのかな?」と思えるようになったんです。「だから神様がこんな時間を与えてくれたのかな?」とさえ思いました。
そうすると、毎日がすごく楽しくなって、今日は苦手なこのトレーニングと向き合う、明日はボクシングみたいに、落ち着いてあせらず、習得の時間にあてられた。本当に貴重な時間になりましたね。

大山) まさに「すべてのことに意味がある」ですね。

山本) そうですね。この時間で上達していると思います。昨日の自分よりも今日の自分が成長するのがうれしいというか。あとは試合に出すだけ。次の試合(RIZIN.32 RENA戦 2021.11.20)が本当に楽しみです。

大山) このメンタルはすごいなー。僕はこのコロナ禍で考え方が二極化してしまったところがると思うんです。ネガティブになって思考が停止してしまう人と、美憂さんのようにチャンスととらえて動いていく人。本当にとらえ方ですよね。

山本) (コロナの)終わりが見えないからこそ、自分が成長してやれーってね(笑)

大山) すごいなー! その考え方。いい話が聞けました! ありがとうございます。最後に、コロナ禍で気分が落ち込んでいる人もいると思うので、みなさんに一言お願いします。

山本) そうですね。一人ひとり状況は違うと思うので、みんなさんの痛みをわかってあげることもできないかもしれませんが、私が言えることは、「昨日の自分よりも今日の自分が成長している」。そんなプラスが毎日、毎日積み重なっていくと、すごく自分が成長していけると思うので、今は成長する期間だと思って、みんなで頑張っていきましょう。

おわり

画像2

山本美憂(やまもと・みゆう)
ミュンヘンオリンピックレスリング代表だった父・山本郁榮により小学生のころから弟の徳郁、妹の聖子とともに、レスリングの英才教育を施される。13歳で第1回全日本女子選手権に優勝。その後全日本4連覇を達成したが、世界選手権へは年齢制限により出場が認められなかった。1991年、17歳で初めて出場した世界選手権を史上最年少で優勝。その後、1994年と1995年に世界選手権を連覇。またその美貌で数多くのメディアにも取り上げられ、CM出演や写真集発売などアイドルアスリートのパイオニア的存在であった。1995年に惜しまれつつ現役引退。その後、長男・アーセンを出産。しかし1999年に現役復帰を発表し、クイーンズカップ決勝進出、アジア選手権大会優勝、全日本女子レスリング選手権優勝という結果を残すも、2000年再び現役引退を発表。2004年のアテネオリンピックで女子レスリングが初めて正式種目になることを機に復帰。アテネオリンピック出場を目指したが、2004年2月の「ジャパンクイーンズカップ」(アテネオリンピック代表選手選考試合)で3位に終わり、オリンピック出場は果たせず同年4月に引退。2006年12月に次男、2008年11月に長女をそれぞれ出産。カナダ・トロントに生活拠点を移し活動。2015年12月にカナダ国籍取得。カナダ代表としてリオ五輪出場を目指すも出場は叶わなかった。2016年9月、RIZINさいたまスーパーアリーナ大会にて対RENA戦でMMAデビューを果たす。

【大会情報】
Yogibo presents RIZIN.32

日時
2021年11月20日(土)12:30開場(予定)/ 14:00開始(予定)
※開場・開始時間は予定です。決定次第RIZIN FFオフィシャルサイトにてご案内します。
終了予定時間
19:00〜20:00頃
※試合内容、イベント進行によって終了予定時間が前後することがありますのでご了承ください。
会場
沖縄アリーナ

チケット絶賛発売中
https://jp.rizinff.com/_ct/17486684


書籍はこちら↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?