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「W」から考えるスポーツ選手のセカンドキャリア

 プロ野球(NPB)においては今月12日に第一次戦力外通告期間が終わり、この期間においては12球団全体で95人が引退や戦力外、自由契約となりました。個人的には北海道日本ハムファイターズの矢野謙次選手の引退セレモニーには涙を流さずにはいられませんでした。移籍直後の大活躍、そしてファイトあふれるプレー。まさに「記録より記憶に残る」そんな選手でした。
 華々しく引退セレモニーを迎え、引退していく選手もいれば戦力外で若くして戦力外を通告された者もいます。その中には引退を余儀なくされる者も当然出てくるだろう。それは、なにもプロ野球だけではなく、様々な組織的なプロスポーツにおいて毎年繰り返される光景です。
 今回は、若くして引退した選手のセカンドキャリアについて少し考えてみたいと思います。そこでアイドルマスターsideMのユニット「W」の蒼井兄弟を取り上げてみます。
 アプリをプレイしていたり、TVアニメを見た人もいると思いますが、この二人は元プロサッカー選手でした。ちなみに、アニメ版では二人が所属しているクラブのクラブハウスはどこからどう見ても千葉市蘇我にある「ユナイテッドパーク」そのもの。よって、このクラブは少なくとも関東近辺にあるという設定は間違いないようです。天才兄弟としてチームの主力として活躍していた最中、兄の悠介がプレイ中に膝を故障。そして、最終的には現役復帰は困難という診断を下されてしまいます。
 ここで、ある意味「奇跡」と言ってもいい出会いが。盲腸(個人的には「緊急放送!木梨倒れる!!」を思い出します)で同じ病院で入院していた男性アイドルを擁する新興事務所である315プロダクションのプロデューサー(P)でした。彼らがサッカー選手であることを知らなかった彼は勢いで悠介に「アイドルになってみませんか!?」と誘います。当然、最初は断られてしまいます。
 その後、「サッカー選手として現役復帰困難」という話を聞いてしまった悠介が自暴自棄になりかけてしまいます。しかし、Pに言われた誘いを思い出し、引退しアイドルになることを決意します。そして、その話に弟である享介も賛同し、共に18歳という若さで選手を引退し、兄弟アイドルユニット「W」として活動していくことに・・・
 ここで考えたいのは何故、悠介は自暴自棄になりそうになったのかということ。このケースでは偶然にも素晴らしい出会いがあったがために自暴自棄の状況から脱し、新たな人生を歩むことができましたが、もし出会いがなければどうなっていたか。
 これはほとんど憶測になってしまいますが、あんまり想像したくないですが絶望的な人生を歩むことになっていたかもしれません。18年に及ぶ人生のほとんどをサッカーに捧げてきたのにも関わらず、突然取り上げられる形になってしまえば自暴自棄になってもおかしくはありません。しかし、これは日本独特の問題であるようにも見えて私は仕方ないのです。
 日本においては「一つのことを極める」ことが美学とされているように思いますし、実際そうでしょう。これは学生スポーツにおいても同じです。ですが、一つのことに集中するあまり、スポーツや学業を含め多くのことを学ぶ機会を失っているのではないでしょうか。アメリカにおいてはNCAAが学生選手(student athlete)の「セカンドキャリア」を重視したプログラムを導入し、卒業し選手を引退しても社会にすぐにでも貢献できるような学生選手を育てるという仕組みを作り上げています。そして、プロアスリートになっても「MBA」を取得する選手もいますし、セカンドキャリアを選手のうちから考えておくというのは当たり前とも言える環境なのです。
「極める」ことを私は否定しません。ですが、一つに絞ってしまうことで「バーンアウト」を引き起こしたり、野球肘といった特定スポーツの怪我の発生、引退後の進路に対し不安を持つ選手の増加。これらの問題を解決するためにはマルチになっていく必要はあると思います。もし、アメリカのような環境であれば「W」という存在は生まれなかった可能性は高いと言えるのではないでしょうか。
 私は、もっと日本のスポーツは「マルチ」になっていかないといけないと考えます。しかし、「一つのことを極める」という美学が今も根強く残る日本においては大変難しいことであることは確かでしょう。つまり、マルチにしていくためには日本社会自体を根本から変える必要になりますが、それは日本社会をより良くしていくことになると確信しています。様々な文化、人種、考え方が混じっていく「グローバル化社会」の中で日本は「一つのこと」ばかりに目を向ける社会から脱する必要があります。
 あるデータでは、2018年度J1リーグに所属するクラブの1人あたりの平均選手年棒は2661万円となっているが、J2リーグになると一気に下がり440万円前後になるといいます。もし、クラブハウスのモデルとなったクラブ(J2:ジェフ千葉)に所属していると考えれば、若くして「天才」と言われていた彼らはこの平均よりかは少なくとも高い可能性もあります(1年目であれば新人選手の最高年俸は700万円)。しかし、ほぼ1年から早くても3年くらいしか現役生活を送れなかったと考えるとセカンドキャリアを考えていかないと継続的な生活は困難であると言えるでしょう。
 彼らは「奇跡」的な出会いがあったからこそアイドルとして活躍する舞台を得ましたが、「if」を考えると非常に危ない橋を渡っていたとも言えます。だからこそ、これを読んでいくださった皆さんにはスポーツ選手でなくとも、これからの生活をある程度考えてみる機会を作っていくことをおすすめしたいと思います。もちろん、これを書いている私も大学2年生ですから「この先」を考えながら学業や資格取得を行なっていきたいと考えています。

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