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2020年シーズン投手陣レビュー【F】

 コロナ禍の中で行われた2020年のプロ野球は3ヵ月遅れで開幕した。しかし、他方で試合数は例年よりも23試合減少したにとどまり、異例なほどに過密日程だった。
 各球団の首脳陣は毎週のように6連戦が続く中で、レギュラーの野手陣の勤続疲労に配慮する必要があったが、それ以上に投手のやりくりに苦労したはずだ。
 それはファイターズにおいても例外ではなかった。先発ローテーションには常に6枚の投手を要し、リリーフにおいてもいわゆる勝ちパターンの投手であっても休ませなければならない試合もあった。
 そんな2020年シーズンのファイターズの投手陣について振り返ってみよう。

1. 総評

 まず選手それぞれの出来を概観するために、2020年シーズンのWARをみてみよう。

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 試合数に差があるため2020年シーズンはややWARの絶対値が小さくなるが、それぞれ投手の出来・不出来を把握できるはずだ。
 チーム全体としてはバーヘイゲン、上沢、有原の3本の柱を擁した先発投手陣はリーグトップのHQS%(23.3%)を記録し、試合を作り、かつ、勝利へと導く投球をしていたといえるだろう。しかし、リリーフ陣は様々な投手を起用したものの上手くはいかず多くの勝ち試合を落とすに至った。

2. 復活した上沢・剛腕バーヘイゲン

 前年に最多勝のタイトルを受賞した有原航平の調子が開幕からいまひとつ上がらない中、同一カード6連戦の頭を任せられたのはシーズン開幕の約1年前にライナー性の打球が左ひざに直撃したことで負った左膝蓋骨骨折という大怪我から復活を遂げた上沢直之だった。

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上沢はシーズン序盤は投球数に制限があり早いイニングで降板し、次の登板までの投球間隔を空けるなどしていたが、驚異的な回復を見せ、8月上旬から10月上旬にかけて9試合連続QSを記録するなど安定感抜群の投球を続け、チームを引っ張った。決して相手を圧倒し支配するような投球をすることが多かったわけではないが、走者を出しても粘りを見せ試合をまとめ上げた。

 もう一人投手陣のMVPともいえる投手が、新加入のバーヘイゲンだ。バーヘイゲンは上沢とは対照的に支配的な投球をすることができる投手であり、調子の良い日はアンタッチャブルだが、悪い日は抑えがきかなくなるシーンが目立った。

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チーム別でみると、下位のイーグルスとバファローズの2チームに対しては、被打率が1割台中盤、奪三振も1回に1個以上のペースと支配的な投球を見せたが、上位のホークスとマリーンズには攻略された印象が強い。一概に攻略されたと言っても、上位2球団のバーヘイゲン対策には違いがある。ホークスは柳田を中心としたパワーヒッターの技量を活かしパリーグでも頭抜けた対応力で長打で得点を奪っていった。他方、マリーンズはバーヘイゲンの速い球や大きな変化をする変化球に空振りをしないことに重きを置き、とにかく出塁して足でかき回すことで得点を奪っていった。ライオンズにもシーズン後半にはマリーンズと同様の戦法で攻略された試合があったため、バーヘイゲンの来日時からの課題であるクイックの改善は来季必須になるだろう。

 その他にも有原と同様に誤算だったマルティネスやドラ1の河野、逆に序盤から安定した投球を続けた杉浦や活躍の兆しを見せた上原、吉田輝など様々な要素が先発投手陣にはあったが今回は割愛する。

3. 脆く崩れ去った勝ちパターン

 2020年シーズンの最大の誤算は勝ちパターンの崩壊だったといっても過言ではないだろう。ここまで勝ちパターンが崩壊したシーズンは北海道移転以来あまり記憶にない。

 まず、大きな原因を挙げるとすれば、石川直也の不在だろう。
開幕前からなかなか投球を開始することができず、7月下旬に2軍で登板したものの1回を投げ切れず8月にトミージョン手術を受けることになった。

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2018年からは2年連続で勝ちパターンとして50試合以上に登板し安定した成績を残している石川直が担っていた終盤かつ僅差リードor同点時の50イニングを他の投手で埋めるのは極めて難しいことだ。石川直が復帰するのは2021年の8月だがそれは実戦復帰時期であり、一軍で勝ちパターンとして投げられるようになるのは更に先のことになるだろう。この課題は来季も継続するということだ。

 そしてこの石川直の穴を埋めることを期待されたのが公文だった。開幕時点では7-9回を公文-宮西-秋吉に任せ、玉井をフレキシブルに起用できる状態にしておくことを思い描いていた。

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 しかし、その期待は大きく裏切られることとなる。公文は開幕直後こそ例年通りの淡々と打ち取るスタイルで役目を果たしていたが、7月30日に左足の肉離れで戦線を離脱。その後9月中旬に復帰したものの思うような投球ができず、29試合、24イニングで防御率7.88と石川直の穴を埋めることはできなかった。その穴を埋めるために玉井が勝ちパターンへと組み込まれ、玉井はそれなりに機能した。しかし、その分勝ちパターンに次ぐ4番手が手薄になり、乱調の多い堀や金子らがリードを保てない試合が続いた。

 そして、もう一つの誤算は秋吉の不調だ。公文だけであれば玉井の活躍によってなんとかカバーできただろうが、守護神である秋吉の不調・二軍降格はブルペンのみならず投手陣全体に大きな影響を与えた。ここ数年ずっと8回を任されていた宮西を9回に回してみたり、先発のマルティネスを9回に回してみたりと最も力を発揮することができるポジションを離れて登板する投手が続出し調子を崩す投手も少なくなかった。

 秋吉は元々ストレートとスライダーのコンビネーションで抑える投手だったため、左打者への決め球に欠いていた。そこで、2020年は開幕時から左打者への決め球としてのチェンジアップの投球割合を増やし、序盤は上手くハマっていた。しかし、徐々に全体的に甘く入る球が増え、その甘い球を痛打されるシーンが異様に多くなっていった。ストレートの被打率と被長打率との乖離の顕著さを見ても打たれるときは長打が多かったことが分かるだろう。

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クローザーが最も打たれてはいけないのは得点に直結する長打だ。特に秋吉のように変則フォームで抑えていくタイプは150キロ台後半の速球を連発するわけではないため、コントロールが生命線となる。来季はどのポジションを任せられることになるのかは分からないが、今一度コントロールに磨きをかけてほしい。

4. 来季に向けて

 来季の最も大きな穴はエース格の有原航平が抜ける先発投手陣にある。バーヘイゲンや上沢などが今季と同様に活躍することができても、その穴が埋まることはない。新外国人のアーリンに加え金子が来季先発に戻るという報道もあった。さらなる外国人を調査しているのも有原の穴を埋めることが念頭にあるはずだ。新外国人選手を獲ったとしても新たなブレイク候補が埋めるべき枠は残されている。上原や河野、吉田輝などの若手の台頭にも期待したい。
 そしてもう一つの大きな課題はクローザー問題だ。率直に言うと、2020年終了時点のブルペンメンバーでクローザーに適正がある日本人投手は堀瑞輝くらいしか思い浮かばない。しかし、その堀も乱調で四球が多く昨季の時点ではクローザーを任せることはできなかった。ドラフト1位で獲得した伊藤大海がクローザーになることを期待する声も大きい。実際に山﨑(DB)や甲斐野(H)のようにルーキーイヤーから勝ちパターンとして8,9回をこなす投手もいたが、過大な期待は禁物だろう。
 石川直の穴は全員でカバーしていくしかないが、その他のリリーフ陣の中では昨季30試合に登板した3年目の福田に火消し役としての役割を期待したい。
 先発とリリーフの両方で若干の戦力不足を感じる中で、伊藤B・ロドリゲス杉浦加藤の4人を先発かリリーフのどちらで起用するのかは非常に重要なポイントであり、来季の最初の見どころになりそうだ。

トップ写真 上沢 直之(北海道日本ハム)©日刊スポーツ新聞社

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