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戦力分析と来季に向けて 指名打者編【F】

 ポジション別レビュー企画も今回で最終回、最後はDH編。(投手については先発とリリーフという括りでは語り切れないので、選手ごとに別で考えています。)

1. 総評

 今季のDHは主に主力選手の休養のための枠として活用された。特に中田翔は一塁とDHでほぼ半々で出場し、昨季まではほとんどDHに入ることのなかった西川遥輝も全出場機会の15%近くをDHで過ごした。
 今季に限っては有意義に活用された印象もあるが、そもそもDHは攻撃(特に打撃)に特化した選手が名を連ね、攻撃面を強化するポジションだ。2017年まで大谷翔平の定位置だったDHは2018年以降レフトを守ることもできる近藤健介が疲労軽減のためにスライドして入る形となっており、DH制のメリットを活かすことができていない。はっきり言うと、これが得点力不足の最大の原因だ。
 そして、DHの枠を活用できていない原因は、2018年はアルシア、2019年、2020年は王柏融が打撃面で目立った活躍を見せられていないことにある。特に王は2018年オフに3年契約を結んで獲得しており、2021年までは彼とDHについて半ば心中するような形をとっている。(他のDH用の外国人選手を獲得してこれないという意味で。)
 しかし、ここ2年は台湾で三冠王を獲った面影はなく、成績は沈んでいる。来季は契約最終年、王にとって背水の陣となるだろう。

2. 王柏融の異質な苦悩

 今季が3年契約の2年目だった王は、怪我の影響もあり昨季以上に出場機会が減少。代打を主戦場とし、代打ではそれなりに成績を残した(.281(32-9) 2HR)が、全体としては.207/..263/.322と打率は2割付近、OPSは6割を切り、不本意なシーズンを送った。

 王を語る上で不思議な数字がある。

 球速帯別で打撃成績をみると、球速が速いボールに対したときの方が成績が大幅に良いのだ。内容も速い球の方が良く、150キロオーバーの球の半分以上を捉えている。速い球へのアジャスト力を有している点で、他のくすぶっている若手とは異なるといえるだろう。しかし、遅い球はバットがボールの上を通過することが多く、振ったときの半分近くは空振り、当たっても、ボールの上っ面を叩き引っ掛けてセカンドゴロというケースが目立った。

 球種別で見てもストレートには強さを見せているが、変化球にはからっきし。表の一番右で分類している速球(=FB)、曲がり球(=BRK)、抜き球(=Off)の3種類で見ると、曲がり球からはノーヒット、抜き球もチェンジアップを捉えた2本の単打のみだった。特にフォークやチェンジアップの結果が多く、かつ、三振も多いところを見ると他球団には落ちる球が苦手であるということは認識されており、追い込んだ後には徹底的に落ちる球で攻められているのだろう。

 総合して考えると、変化球を捉えられていないことが王の最大の課題だ。変化球にも対応できるようなスイングを作り、変化球を引っ掛けずにフライ・ライナーにできるような形を作らなければ、来季も苦しいシーズンとなることだろう。ストレートへの強さは折り紙付きなだけに、来季の修正に期待したい。

3. 清宮幸太郎の明確な課題

 今季、規定打席に達した5人のレギュラー野手(西川、中田、近藤、大田、渡邉)の次に打席数を得ていたのは清宮だった。入団から3年が経過し、多くの出場機会を一軍で貰いながらなかなか結果の出ない大器が覚醒するためには一体何が必要なのか。

 まずは、ストライクカウント別の打撃成績を見てほしい。

 これを見ると、追い込まれてからの打率の低さが目立つ。しかし、何が足りないのかを見るに当たってはやや情報が足りない。そこで、今季規定打席に達したファイターズの5選手との比較から清宮の課題を検討したい。

 このように見ると、まず際立つのは0ストライクでの打率・長打率の低さだ。ここが最大の課題だろう。0ストライクは最も狙いを絞り自分のスイングをできるカウントであり、特に長打を狙う選手にとっては重要なカウントだ。今季31HRを記録した中田は打率.404、長打率.787と0ストライクで圧巻の成績を残している。清宮にとって0ストライクでの打撃が最も早急に改善すべき課題だ。早いカウントから手を出して確実に仕留めるのがホームランバッターだろう。
 次に1ストライクでの打撃はレギュラー陣に引けを取らない。安打の塁打数の平均は2を超えており、0ストライクでもこのように打撃ができれば一流に近づけるだろう。
 最後に2ストライクでの打率・長打率の低さは冒頭で指摘したが、このように中田や大田の成績を見ると、2ストライクでの打撃を改善する必要性は0ストライクでの打撃を改善する必要性に比べてかなり低いように考えられる。中田のような一流の打者であっても追い込まれれば打てないのだ。柳田(H)、吉田正(B)、近藤(F)などの超一流の打者になるためにはゆくゆく改善しなければならないが、それはまだ先のことだろう。

 もう一点、最初の打撃成績に戻ると、AB%(ライナー・フライ%=非ゴロ%)がやや低い(参考:中田のAB%は65.3%)。引っ掛け気味でも強い打球で一二塁間を抜くことができるだけの打球速度を持ってはいるが、その打球角度を上げることで長打へとつなげることができるはずだ。
 ファーストストライクから狙いを絞り狙い球を確実に仕留めて打球を上げる。至ってシンプルなことだが多くの選手ができない難しいことだ。しかし、ポテンシャルにあふれる清宮であれば必ずできると信じたい。

4. 来季に向けて

 少なくとも王がいる来季に向けて、DH用の外国人野手を獲得してくることはないはずだ。清宮が結果を残せば、中田がDHに入ることが多くなるだろうし、王が結果を残せば、王や近藤がDHに入ることが多くなるだろう。来季もDHは流動的な起用が続くと予想される。大谷が抜けて以降のDH不在問題を解消するのは誰か、その純粋な打撃による競争に期待したい。

トップ写真 王柏融(北海道日本ハム)©日刊スポーツ新聞社

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