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戦力分析と来季に向けて 中堅手編【F】

2020年シーズンポジション別レビュー企画、今回はセンターについて。

1. 総評

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 2017年中盤以降、西川遥輝が不動のレギュラーとして君臨してきている。今季もレギュラーであることには変わりないが過密スケジュールの影響もあり1週間6試合のうち1試合はDHで出場した。その1試合を松本らが埋めたが、レフト同様思ったような成績を残せなかった。

2. 西川遥輝の進化

20201204_西川 2020成績

 今季はキャリアハイの出塁率.430・OPS.825を記録し、西川のスタイルの一つの完成形を示したといえるだろう。西川の凄みは、狙った球を芯で捉える能力が高いことはもちろん、状況によっては詰まること(図で言うと、打球の質のうち、"詰まり"や"芯外"の部分)を恐れず自分のポイント以外でも振り切りヒットゾーンに打球を飛ばすところにある。だからこそスイングの始動を遅くすることができ、それがボールの見極めの良さにも繋がる。
 走塁も西川の大きな武器だが、今季は終盤に周東(福岡ソフトバンク)との盗塁王争いを意識するあまり盗塁死が増えやや数値が落ちてしまった。

 さて、今季の西川は同僚で2年連続リーグ最高出塁率の近藤を超えるリーグトップの92個の四球を獲得した。

20201204 K by BB 西川

 規定打席に到達するほど多く試合に出場するようになった2014年以降三振の多さは課題だったが、徐々にゾーン管理能力を改善し、ついに四球数が三振数を上回るにまで至った。これは並大抵のことではない。今季規定打席に到達した12球団の野手53人のうち、四球数が三振数を上回ったのは4人(吉田正尚(オリックス)、近藤健介、青木宣親(東京ヤクルト)、西川遥輝)のみであることからも、その難しさが分かるだろう。しかも、2014年は四球数が三振数の半分にも満たなかった西川がここまでゾーン管理能力を改善したのは、今後も真似することが難しい偉業だ。
 近藤とともにチームに2人もスペシャルな出塁能力を有するがいるからこそ、中田翔が打点王を獲れたと言っても過言ではないだろう。

3. 西川のMLB球団からの評価

 周知の通り、西川はポスティング・システムを利用したMLB移籍を目指すことを表明している。日本人野手へのアメリカでの評価は低く、特に西川のような「長打のない」選手には厳しい評価がされると言われることが多い中で、移籍は成功するのだろうか。
 西川の場合、高い守備力を要求されるセンターを主たるポジションとしているが、近年狭小化の進むレンジ(守備範囲)、従来から弱点となっているアーム(肩の強さ)が日本の守備評価でもマイナスを生むほどであること、今季からMLBのシンシナティ・レッズに所属する秋山翔吾(前埼玉西武)ですらセンターよりもレフトでの出場機会が多いことからすると、西川もレフトの選手として獲得するだけの価値があるかどうかという視点で評価されるはずだ。

20201204 西川 MLBレフト

 MLB30球団のレフトで最多出場した選手と西川の打撃成績を単純に比較すると、西川は今季、1位のソト(WSH)、2位のイェリッチ(MIL)に次ぐwOBA(1打席あたりどれだけチームの得点増加に貢献したかを示す打撃の総合的指標)を記録している。MLBのホームランの増加傾向からすれば、西川のような出塁能力の高い選手を強打者の前に置けば貴重な価値を発揮するだろう。しかし、問題はその出塁能力をMLBの舞台でも発揮できるかというところにある。

20201204 MLB日本人成績

 いくらNPBでの実績をあげていても、MLBに舞台を移せばルーキーとして扱われ、どんどん勝負される。西川のように出塁能力に強みを持つ選手であっても、まずは打つことで「甘いところに投げると打たれる」というイメージを植え付けなければ、NPBと同様のアプローチが通用することはないだろう。
 NPBで圧倒的な成績を残していた筒香や秋山も、今季NPB時代と比べて大きく成績を落としており、先ほどのMLBのレフトのwOBAランキングでも最下位付近に沈むことになる。そうなるとやはり西川の打撃への評価も厳しくなるのだ。

西川のスピードを評価する球団が出てこないとは限らないが、昨年、菊池涼介(広島東洋)がポスティング・システムを利用したMLB移籍を目指したが叶わなかったのを見ても、NPBで守備や走塁の評価が高いことはあまり良い材料とし扱われないことが分かるだろう。

 もちろん本人が望んだことなのだから移籍が成功することを願うが、個人的にはマイナー契約ではなくMLBでのスタートの切符を勝ち取れる可能性は20%前後と見ている。マイナー契約でも海を渡るのかどうかは本人のみぞ知るところだが、残留の可能性もそれなりにあるだろう。

4. 来季に向けて

 センターはもろに西川の移籍の成否の影響を受けることになる。ドラフトで2位指名された五十幡はずば抜けたスピードを有し西川の後継者として期待されているものの、打撃面の評価はいまひとつであり、これから育てていきたいところだ。

 ただ、西川の移籍が成功せず残留することとなったとしても、西川の守備力の低下を考慮すると、西川をセンターから両翼のどちらかにコンバートしたいところ。そこで、センターを任せたいのがライトで広いレンジ(守備範囲)と圧倒的なアーム(肩の強さ)を誇る大田泰示だ。今季の終盤に少しセンターでの出場機会を得ていたのもその布石なのではないだろうか。センターは難しいポジションだが、大田の守備力をもってすればさらに選手としての価値を上げるチャンスになるはずだ。

トップ写真 西川 遥輝(北海道日本ハム)©日刊スポーツ新聞社

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