「本屋という仕事」

「本屋という仕事」(三砂慶明 世界思想社)
https://sekaishisosha.jp/book/b604753.html

序章の「私にとって本屋とは、本を書く人(著者)、本を作った人(出版社)、本を届ける人(書店員)、本を読む人(読者)が一堂に集まることのできる広場」「本屋は焚き火である」などのインパクトのある言葉が並んでいて、本当に本が好きな人が書いているのだなと感じた。第I部は本屋のないところに新たな本屋を作る試みとして、鳥取の書店の汽水空港、沖縄の市場の古本屋ウララ、熊本のセレクト書店の橙書店・オレンジ、人文書の読書会を続ける定有堂書店の話が並ぶ。鼎談1の中の「店の品揃えは、お客さんと店主が綱引きをしている、その間にある」の言葉が印象的だった。第II部の岡村正純さんの「書店の棚論」の一部が、下記のネット記事に出ていた。

「売れない本を置いている本屋が選ばれる」ベテラン書店員がたどり着いた"棚づくり"の極意
https://president.jp/articles/-/59413

「棚を背にする書店員と、棚に向かう書店員」「学問領域は立体的で、三次元・四次元の世界である。それを棚という平面=二次元に落とし込むのだからかなりの無理はある」「書店はセレクトショップである」など、非常に面白く、印象的であった。また、本が扱う学問分野について深く理解した上で本を並べていることがよくわかった。その他にも、本屋大賞やじんぶん大賞の話があった。北田博充さんの「本にかかわる全ての仕事」の中では、売り手(書店員)が作り手(出版者)を兼ねて売りたい本を自ら作る試みや、「二子玉川 本屋博」のイベントの話などがあった。
青山ブックセンターでしか買えない独自出版物があることは知らなかった。鼎談2の中で、女性が涙を流しながら本屋のレジにやってきて「さっき失恋したんですけど、どうしたらいいですか」と聞かれ、書店員が詩集をお勧めしたという話があった。他にも刑務所に服役している人に差し入れる本を見繕ってほしいなどの依頼があったりするそうだ。「一万円選書」など、選書サービスを提供している書店があるのも知らなかった。本は自分で選ぶのが当たり前だと思っていたので、人に選んでもらうという視点は新鮮だった。他にも書店と食品加工とを結びつけるコクテイル書房の話や、出版取次会社の話があった。
最後に文中で出てきた書店のマップとリストがあったが、既に閉店している書店も多くてびっくりした。残念ながら書店はどんどん減っている。それでも、本を愛して本に関わる特色ある仕事をされている方々がたくさんいらっしゃることを強く感じた。

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