「アンチソーシャルメディア」

「アンチソーシャルメディア」(シヴァ・ヴァイディアナサン 松本裕 ディスカヴァー・トゥエンティワン)
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2609-1

バージニア大学教授による、Facebookによる社会分断および民主主義の弱体化に警鐘を鳴らす書。Facebookには、さまざまな危険性を引き起こす構造的な問題があると指摘し、実際に起こった事例を取り上げながら、文化的・歴史的・哲学的に分析している。
Facebookの3つの滑稽な設計として、以下のものを挙げている(11ページ)。
(1)記事の信頼性:記事の出典を特定評価する機能がないので、虚偽や誤解を招く情報が拡散されやすい
(2)エンゲージメント:エンゲージメント率の測定により、感情に強く訴えかけるコンテンツが蔓延しやすい
(3)フィルターバブル:ユーザーの興味関心に基づくものばかり表示されるため、ユーザーの視野が狭まる

筆者の採用面接の際の質問「メディアがいかに私たちを抑えこみ、すべてが薄っぺらいか、そしていかに企業の関心が民主主義の質を左右するかについて研究している。それでも私たちは学生に対して、まさに批判をしているその業界に就職するよう背中を押す。これをどう正当化できるか」(38ページ)、「プライバシーはつながりの対極にある言葉」(136ページ)、「(アイス・バケツ・チャレンジで)ALSに寄付された1ドルが、マラリアの予防、乳がんの研究、HIVの治療と予防、死亡原因の高い心疾患の研究に回らなかったともいえる」(147ページ)、「Facebookで通用するのは関心だけ」「アテンション・エコノミー」(149ページ)、「Facebookの存在が(エジプトなどでの)抗議デモを可能にしたり、デモの起きる可能性を高めたり、規模を大きくしたりするのではない」(246ページ)、「科学技術至上主義(テクノナルシシズム)が生む勘違い」(261ページ)、「現在のソーシャルメディアが直面する5つの重大な課題
(1)人々の偏見を裏づける噂に対処をすること
(2)エコチェンバーやフィルターバブルに穴をあけること
(3)画面を通じて交流するーそしてしばしば嘲るー人々の人間性を認識すること
(4)深い理解を阻むスピードと簡潔さ、速さと短さに対処すること
(5)ソーシャルメディアは相互の対話よりも断言を好むと認識すること」(272ページ)、
「サイコグラフィックス(心理学的属性)・プロファイリングは次の5つの要素で人のパーソナリティを判別する(OCEANモデル)
(1)開放性(openness):新しい体験をどのくらい受け入れるか
(2)誠実性(conscientiousness):秩序と安定性、あるいは変化と流動性をどのくらい好むのか
(3)外向性(extroversion):どのくらい社交的か
(4)協調性(agreeableness):自分の意見よりも他人の意見をどのくらい優先するか
(5)情緒安定性(neuroticism):どのくらい心配するか」(285ページ)、
「政治工学は社会工学と似ている。市民に関するデータを収集し、アルゴリズムツールを開発して、カスタマイズされたメッセージに揺さぶられそうなところへ資源を効率よく集中させる。標的になった市民は、情報が処理されていることもプロファイリングされていることも一切知る必要がない」(305ページ)、「だが、Facebookが集団思考に与える害から逃れるすべはないのが実情だ。困難に直面したり脅威を知らされたりしたとき、Facebookはもっとも簡潔かつ浅薄な方法で自己表現をするよう、私たちに呼びかけてくる。それに乗せられて私たちは怒り、笑い、愛情を示すアイコンをクリックして終わりにする」(375ページ)、「(テクノポリとは)技術を神聖視する。それはつまり文化が技術に権限を求め、技術に充足を見出し、技術から命令を受ける状態を指す」(397ページ)などなど。
SNSは便利であるが、それによって我々の思考や振る舞いが大きく影響を受けていることを思い出させてくれる本だった。ただ謝辞に「いまはソーシャルメディアの批判者としての立場をとっているが、その実、私はソーシャルメディアに借りがある。妻メリッサに出会ったのは、出会い系サイトだ」(424ページ)と書いてあり、やはりSNSなしで生きていくのは難しいことを告白している。

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