「人はどこまで合理的か(上)(下)」

「人はどこまで合理的か(上)(下)」(Steven Pinker 橘明美 草思社)
https://www.soshisha.com/book_wadai/books/2589.html

ハーバード大学心理学教授の著者による、合理性についての本。上記の草思社のサイトの冒頭にある「人間はなぜこんなに賢く、こんなに愚かなのか?」について、論理、確率、ベイズ推論、認知科学、行動経済学、ゲーム理論など幅広い観点から論じている。著者が受け持つ一般教養の講義を元にしており、専門的な知識なしで読み進められるように書かれている。

第1章:人間という動物はどのくらい合理的か
「なぜ人間は時に非合理になるか」は研究されているとして、数学、論理、確率、予測について、人間の非合理さを露呈させる簡単な問題を挙げている。また錯視についても述べている。

第2章:合理性と非合理性の意外な関係
この章では、合理性や理性、道徳などとの関係など、やや哲学的な内容が書かれている。

第3章:論理の強さと限界はどこにあるか
冒頭で、論理の力で論争は解決できるかという問いを掲げ、論理が万能でない理由として論より証拠、文脈や予備知識の無視、家族的類似性を挙げ、さらに簡単なニューラルネットワークの話も出てきた。

第4章:ランダム性と確率にまつわる間違い
ランダム性や確率について多くの人が誤解しているとして、ジャーナリズムによる社会学的な視点および連言確率、選言確率、条件付き確率などの論理学の視点から述べている。

第5章:信念と証拠に基づく判断=ベイズ推論
ベイズの法則、基準率、事前確率などについてかなり詳しく述べ、例えば乳がんの検査で陽性であった場合に本当に乳がんである可能性について述べている。

第6章:合理的選択理論は本当に合理的か
いわゆる行動経済学に関する内容で、例えば得をするより損をする方が倍くらいの痛みを感じるとか、お金がもらえる確率が10%と11%の違いのときは差を無視するが、99%と100%の場合は確実である100%の方を重視するなどについて述べている。

第7章:できるだけ合理的に真偽を判断する
不完全な情報を基に合理的な決定を下すにはとして、誤警報とミスを同時に下げるのは困難であり、現在の犯罪行為の捜査や裁判における有罪・無罪の判決でもかなりの率で誤審や冤罪が起こり得ることなどを述べている。

第8章:協力や敵対をゲーム理論で考える
ゲーム理論について、ゼロサムゲーム、混合戦略、ナッシュ均衡などについて述べている。

第9章:相関と因果を理解するツールの数々
相関と因果を混同しやすいことや、因果関係とは何かという問いは意外に答えるのが難しいこと、交絡や交互作用(interactionの訳)などについて述べている。

第10章:なぜ人々はこんなに非合理なのか
アメリカ大統領に関わるフェイクニュースを題材に、陰謀論、疑似科学、超常現象などになぜだまされるかについて、宗教や社会学の観点から論じている。

第11章:合理性は人々や社会の役に立つのか
「合理的に判断することは人生の役に立つのか」「世界の物質的進歩は合理性の成果だ」などについて、全体をまとめながら論じている。

本当に幅広い観点から合理性について論じていて、こういうのが教養なのだと実感した。

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