「生きる場所を、もう一度選ぶ」
「生きる場所を、もう一度選ぶ」(小林菜穂子 インプレス)
ライターの著者による、全労済のWebコンテンツでの連載記事を再構成した本。地方に移住した23人の生き方、働き方を丁寧に書いている。各記事の最後に「生きるヒント」として、移住者からのメッセージがまとめられていて、それがすごく心に響いた。
「やってみよう!」
興味を持ったら、まずやってみる。結果を得るにはやってみる以外にないのだから。むずかしいことを考えるより、実践してみるって大事です。田舎に移住しての暮らしもそう。都会の人は、生活にいろんな理想を描くけど、いざ実践となると手が動かないことが多い。その点、田舎の人は、難しい理屈はなくても、なんでもできます。都会はなんでもお金と引き換えで、お金を抜きに自分から動く習慣がなくて、学校や会社でそうなるのでしょうか、できるようになってからやろうとするんですよね。子どものころ、初めて「百姓」の本来の意味を知ったとき、人として目指すべきはこれだと思いました。なんでもできると言われますが、最初からできたわけもなく、やってみたからできるようになったんです。どんなこともそうですよね。(39ページ)
「人生思い出づくり」
あれは、めちゃくちゃつらい時期でした。いつもお世話になっている、海士町役場の吉元課長に、「人生思い出づくりだわい!」と言われて、すっと楽になったんです。苦しい自分を救ってくれた、魔法の言葉でした。「これはこれで思い出だ」と思ったら、肩の荷がおりて、ふっきれたような心持ちになって。苦しいことを受け入れられずに、消そうとする自分が自分を苦しめていたんですね。シンプルと言い換えてもいいですが、単純なようであることにこそ、複雑を超えた深さが宿っていると思います。この言葉にも、それを感じました。たくさんの思い出を持って終えるのであれば、その人の人生は豊かだったといえるのではないでしょうか。人生、思い出づくりです。(46ページ)
「今を真剣に」
「人間万事塞翁が馬」という言葉がありますね。どんな不幸が幸福に転じるかわからない、その逆もしかりなので、人生は予測ができない。だからあまり一喜一憂しすぎずに、大局的な見方をしよう、という教訓です。人生は本当にどうなるかわからないです。私の場合も、今のようになるとは、これっぽっちも思っていませんでした。ただ私は、そのとき目の前にあることに対しては、全力で臨んできたつもりです。イチローや本田圭佑のように、明確な目標に向かって、まっすぐに努力ができる人はごくわずか。初めから目標がなくても、今目の前にあることに真剣に取り組む。これを積み重ねていけば、見えてくるものが必ずあると思います。(76ページ)
「今の自分が明日の自分をつくる」
今の自分があるのは過去の自分の結果だし、今の自分が明日の自分をつくる。それをちゃんと考えれば、やるべきことはおのずと見えてきますよね。うーん、僕は本も読まない人間なんですが、これって都会で講演するような人が本に書いてそう! でも、サラリーマンを辞めるくらいのころ、よく考えたんです。死ぬときに後悔するような生き方はしたくない、今やりたいことがあるならすべきで、やりたいことをやろうとする意志が大事なんだって。僕は本来、なにもしないで川を眺めているのが好きなような人間なんです。だけどそんなことは誰も、自分も、幸せにはしません。大きな夢は抱かないタイプですが、命をもらって生きさせてもらっている以上、ちょっとでも人にいい影響を与えられるようでありたいです。(83ページ)
「やりたいことを選ぶ習慣を身につける」
多くの人が、自分の好きなことに対して抑制しすぎていると感じます。チャンスがあるとわかっているのに、つかまないように見える。やりたいことをしましょうよ。できない理由を考えるのではなく、いかにできるようにするかを考える癖をつけることが大事です。むずかしいときもあるけれど、それでも解決する方法を考えるんです。僕は子どものころ、カブト虫でもラジコンでも、どうやったら自分のものにできるか、手に入れる方法をいくつも考えました。大人になっても同じことですよね。実現のための可能性はいろいろ。うまくいかなかったら、次は失敗しないよう考える。失敗に気持ちを挫かれず、忘れるスキルも大切です。(130ページ)
「人生の、優先順位」
外国の大学の、マネジメントの授業でされたらしい、寓話のような話が印象的でした。教授が、大きな器に岩を入れていき、もう入らなくなると、学生に器は満杯か尋ねます。学生たちは「Yes」と答えます。すると教授はバケツに入った砂利を取り出し、先ほどの器の中に隙間なく入れて、再び満杯か尋ねる。次に砂を、その次に水を注ぎ、最後に、意味することがわかるか聞きます。学生のひとりが、「どんなに忙しくても、工夫次第でまだ予定を入れられる」と答えますが不正解で、「大きな岩は先に入れないかぎり、二度と入れられない。それは君たちの人生でもっとも大事なものだ。ほかを先に入れてしまうと、それらで人生が占められ、もっとも大事なものを永遠に失うことになる」と教えてくれたそうです。示唆に富んだお話だと思います。(169ページ)
「固まらない自分でいる」
世の中にはいろんな価値観があります。好みや、ものごとの捉え方もそうですよね。理解できないことだっていっぱいあります。どうせそうなのだから、固執せずに楽にいこうって姿勢でいたいと思っています。僕は根が真面目で固まりやすいほう。そんな自分を知っているから、気持ちが固まってしまうことで、見方が狭くなったり、遊び心を失ったりしないように気をつけています。イラストレーターとしては、自分の仕事に自信を持たなければならないけれど、反面、その自信に固執して疑うことをしないと、それはそれでダメです。しなかやに、角度を変えて見ることも大事ですよね。「どうも固まってきた」というときは、海外に行って、まったく違うものを視野に入れると自然とほぐれることもありますよ。(176ページ)
移住に限らず、手放すって勇気がいりますよね。でも、「ここは合わない」と手放すだけで、ずっと生きやすくなることも、必ずあります。
「課題は環境にではなく自分の中にある」も「逃げずに続けることが大事」もケースバイケース。手放すほうが積極的かつ建設的であるケースはいくらでもあり、それは自分の人生に対する誠実な態度だと思います。(186ページ)
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